サウジが記者殺害を認める方針。しかし実質的権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は沈黙を保っている・・・という件
サウジの実質的最高権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子を批判し続けてきた同国出身のジャーナリストが、何者かによってサウジ領事館内で殺害された可能性が高まっています。
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この件に関し、サウジ政府は当初から関与を否定。
知らぬ存ぜぬとしらばっくれていた。
「もしサウジ政府をこれ以上批判するなら原油の生産をやめるぞ。そしたら原油価格は200ドルに行くぞ。いいのか?」
そんな論調を国営紙アルアラビーヤにコラム書かせて、欧米諸国の制裁措置を牽制してきました。
Oil could hit $200 ‘or even double that figure’: Saudis threaten to … Finaicial Post
しかし、どうにも風向きが悪い。
完全な証拠がトルコ警察の手中にあるもようで
Recordings prove Jamal Khashoggi was killed, Turkish investigators … The Guardian
さすがに動かぬ証拠を突き付けられたもようで、ついに犯行をゲロることにしたようです。
つまりですね。
ムカつくコラムを書いてたからちょっとシメてやろうと思ったら
ちょっと拷問しすぎて「誤って殺害」しちゃったから
ミンチ肉にして下水に流して
証拠隠滅をはかってシラきってたけど
決定的な証拠を突きつけられて、ついにゲロった
けどやっぱ制裁は嫌だから
原油供給を止めたらどうなるかわかるよな?
と逆ギレして脅す
・・・という展開
サウジとしては、動かぬ証拠があるため、さっさとゲロった方が良いと思ったんでしょう。
今回、カショギ氏が批判対象としてきたムハンマド・ビン・サルマン皇太子がまったく表に出てきていないのは気になります。
いつもは矢面に立つことのない、高齢のサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王が米国との交渉に出てきている。
かわいい息子に泥を被せたくないという親心なのでしょう。
今回、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を批判してきた反体制派の記者が死にました。
昨年の今頃には、サウジの王族たちはムハンマド・ビン・サルマン皇太子に相次いで逮捕、拘束されて軟禁されました。
一昨年2016年には、サウジ国内のシーア派指導者ニムル師が処刑されました。この件の背後にも、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がいたと指摘する声があります。
もちろん、部下が忖度して行った可能性もありますが、いずれにせよ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子周辺ではいろいろな人物が死んだり、失脚したりしています。
欧米はこれまで、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子のことを「女性の人権を守る改革派」であるとして歓迎してきました。
皇太子ということは、いずれ王様になる。
向こう数十年にわたり、この人物とアメリカは付き合い続けることになります。
サウジはアメリカにとって原油供給国の第2位ですから、非常に重要な同盟国ということになります。
武器弾薬を大量に買ってくれる国ですから、米国の輸出産業である軍需産業にとってもお得意様です。
アメリカとしても、なるべく大目に見てきたと思います。
しかし、今回の件はさすがにやり過ぎの感があります。
上院外交部の連中はサウジ制裁に前向きです。
トランプ政権としては、もしサウジが西側同盟国から外れたら、中国やロシアに靡くであろうと予想しており(実際、そうなると自分も思います)これ以上、ことを荒立てたくないように見えます。
しかし、さすがにここまで酷い状況ですと、誰かが詰め腹を切らなくてはならないでしょう。
この事件の背後に誰がいたのかは、徹底的に追求せねばならない・・・そういう状況になってきています。
それがわかっているから、サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王はムハンマド・ビン・サルマン皇太子を矢面に立たせようとしないのでしょう。
ほとぼりが冷めるまで、なるべく目立つ行動を避けさせ、人の眼にふれないようにさせようという魂胆にみえます。
できることなら、トカゲの尻尾切りで済ませようとしています。
果たしてそう上手くいくかどうか。
今後の動向には要注意だと思われます。
追記 10月25日
サウジ記者死亡、実権握る皇太子に最終的責任─トランプ米大統領=新聞 ロイター
ムハンマド皇太子がカショギ氏殺害に関与していた可能性があるかとの質問に対し、トランプ大統領は「皇太子はサウジ政府でかなりの実権を握っており、誰かが動いたのであれば、おそらくムハンマド氏だろう」と応じた。
トランプ大統領がいよいよムハンマド・ビン・サルマン皇太子(ムハンマド皇太子)の追い落としに入っています。
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、今回のジャマル・カショギ氏の殺害は現場の下っ端がやったこととして逃げ切ろうとしているようですが、トランプ大統領はこれを受け入れないつもりのよう。
これは、議会の方がかなり強硬にムハンマド・ビン・サルマン皇太子を外せと言っているから。
特に上院外交委員会などの面々がサウジへの武器輸出を渋っており、現在の契約も含めて見直し、制限することを主張しています。
トランプ大統領としては、自身が初の外交訪問で獲得した1100億ドルの武器輸出契約は捨てたくない。これを議会に邪魔されたくない状況です。
このため、ムハンマド皇太子の交代をさっさとしてほしい、ということなのだと思われます。
問題はこれにサウジ側が応じるかどうか?
個人的には応じるとみています。
サウジの王族は、自分たちの身がアメリカなしでは成り立たないことくらいよく理解しています。
サウジの王族っていうのは、そもそもにおいて多数決みたいなものですから、ケツ持ちが誰なのかは非常に重要です。
サウジはアメリカの要求をのみ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を交代する・・・と思います。
もしそうでなければ、今頃原油価格は下落していません。
アメリカとサウジの仲が決定的に悪化しているのなら、原油価格は大幅に上昇しているはずですが、そうなっていないのだから、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は後退する・・・とみていいと思います。
とりあえず、次が誰になるかはわかりませんが、その人物次第で、いろいろと落ち着きどころがみえてくるでしょう。