プレストレストコンクリート業界~NEXCOによる高速道路修繕工事による床版工事や、中央リニア新幹線側壁ガイドウェイなどで需要拡大か
今回は、NEXCOによる大規模修繕計画による床版工事や、JR東海による中央リニア新幹線工事による側壁ガイドウェイなどで需要が拡大していきそうなプレストレストコンクリート業界についてみていきます。
まずはプレストレストコンクリートとは何か?
という点から始めましょう。
プレストレストコンクリートとは?
プレストレストコンクリートというのはコンクリートのひび割れを防ぐために、ワイヤー(鋼線など)などをコンクリートに通して緊張させておくことで、大きな過重があっても耐えられるようにしたものです。
プレストレストコンクリートの最大のメリットは、支間距離を長くとれること。スパンを大きくとっても厚みが大きくならないため、重くなり過ぎないことです。
この特徴をフルに利用した身の回りにあるプレストレストコンクリート製品の代表格が、高速道路や橋、高架道路、鉄道の橋桁、モノレールなどです。特に最近できた大型のものはほとんどプレストレストコンクリートでできています。
中央リニア新幹線もプレストレストコンクリート技術を多用しており、側壁、リニアガイドウェー/軌道部にはPS三菱(プレストレストコンクリート業界最大手)の製品が採用されています。(他社も受注しているかも)
電車のまくらぎなども最近はコンクリートでできているものが増えていますが、これらもプレストレストコンクリートを使っています。PCまくらぎと言います。
一般建築物にもプレストレストコンクリートは使われており、たとえばスタジアムや大きな病院など大きな建築物などのなかには、ほとんど柱のない構造の建物とかありますが、あれらもプレストレストコンクリートの技術で作られています。
プレストレストコンクリートは耐腐食性が高い
また、プレストレストコンクリートは非常に高い耐腐食性を持っているといわれています。
日本で最初のプレストレストコンクリート道路橋である「長生橋」は石川県七尾市を流れる川に1952年2月にピーエス三菱の全身である東日本重工業七尾造船所によって作られたものですが、いまだに構造的には何の問題も発生していない、極めて劣化が少ない新鮮な状態とのことです。
長生橋プロジェクト PS三菱
こうした耐腐食性、高耐久性などの特徴を受け、プレストレストコンクリートは防波堤や桟橋、タンク、地下水路のボックスカルバートなどにも多様されています。
また、海の近くにある施設、たとえば津波からの被害を避けるための津波避難施設などにもプレストレストコンクリートは使われています。
多くの人が気づかない場所にもプレストレストコンクリートは使われています。
プレストレストコンクリート業界にNEXCOの恩恵
プレストレストコンクリート業界は非常にニッチな業界ですが、数年前から俄然注目を浴びるようになりました。
それはNEXCO東日本、中日本、西日本の各社による高速道路の修繕計画の発表を受けたものです。
NEXCO各社は以下のように説明しています。
・供用開始から30年以上経過した高速道路がすでに4割3700㎞
・トンネルでも2割が30年を経過、橋梁では4割が30年経過しておkり、経年劣化によるリスクが高まっている
NEXCO資料より
とくに冬季に積雪や凍結の恐れのある地域では凍結防止剤として塩化ナトリウムを使用しますので、道路床版の傷みが激しいとのこと。
しかも平成5年からはスパイクタイヤが廃止されており、凍結防止剤散布量は徐々に増加中。
凍結防止剤散布量が累積1000t/㎞を超過する場合は道路床版の健全性は著しく低下するとのことで、とりあえず、さっさと床版修繕しないとヤバいよ!とNEXCOが言い出したわけです。
NEXCOによる道路床版工事は1兆9000億円
NEXCOによる高速道路修繕需要ですが、なんと3兆円。
そのうち床版工事は1兆9000億円となっています。
そして、この資料にもあります通り、NEXCOはこの高速道路床版の更新にあたっては、おもにプレストレストコンクリートを採用していく方針とのことです。
まず道路床版というのは何かというと、橋や高架道路などを作ったあとの、舗装面の下の板みたいなものです。
床版の作り方にはいろいろありますが、そのうちの一つが、プレストレストコンクリート※1で作る方法となっています。
※1・・・プレストレストコンクリートの床版工事には工場で事前に床版を作っておき現場で施工するだけのプレキャスト・プレストレストコンクリートと、場所打ちのプレストレストコンクリートがあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
このうち、NEXCOはおもに、施工期間の短縮の観点からプレキャスト・プレストレストコンクリート工法を採用したいようです。
高速道路が長期間にわたって通行止めになることは、経済活動にも大きな影響を与えてしまうため好ましくありません。
そこで、現場での施工期間が短く、耐久性・耐腐食性が高く、ライフサイクルコストが低く、支間距離がながくとれるプレキャスト・プレストレストコンクリート(プレキャストPC)工法がNEXCOの床版工事に採用される部分が増えそう、ということです。
業界最大手PS三菱の説明によると、だいたい床版取り換え工事の年間の需要量としては720億円程度とのこと。なお、前期は480億円。
今後もこの需要が膨らんでくることが予想されています。
プレストレストコンクリート業界各社の動向
各社ともにNEXCOや国交省などの発注する橋梁土木工事需要に期待をしていますが、各社の事業構造からみるとその恩恵度合いに差があることがわかります。
ビーアールホールディングス(1726)やOSJBHD(5912)は概ね橋梁土木事業が中心となっていますが、いっぽうで、三井住友建設、ピーエス三菱(PS三菱)などは売上構成比のそれぞれ3割、5割程度しか橋梁土木の比率はありません。
こうしたことから、橋梁土木需要に期待するならビーアールホールディングスなどが第一選択ということになりますが、株価は総じて他の土木建設株の平均的PERよりも2倍程度高くなっており、株価的には面白みのない水準かもしれません。
PS三菱(ピーエス三菱/ 1871.T)
プレストレストコンクリートの総合メーカー。総合力では優位にあるものの、売り上げ規模1000億を越えており、土木工事比率は50%程度に留まる。NEXCO発注床版工事なども受注はしているが、業績押上げ効果は限定的か。その分、バリュエーションは他の建設株と同様に低い。
三井住友建設(1821.T)
こちらは土木比率が3割程度と低いが、売上規模3000億を超える大手。よって、NEXCO発注による業績上乗せ規模はさほど期待できない。ただし、バリュエーションは安い。
OSJBHD(5912.T)
オリエンタル白石と日本橋梁(ジャパンブリッジ/Japan Bridge)の合併によってできた会社。名前の通り、橋梁土木に強い。
BRHD(ビーアールホールディングス/BRホールディングス 1726.T)
中核企業は極東興和
ここもと受注の拡大ペースが非常に速い企業であり、NEXCO発注土木工事の受注も期待されている。そのぶん、株価バリュエーションにはやや過熱感。
富士ピーエス(1848.T)
土木比率は8割。バリュエーション的にやや高め。チャートは下向きか。
なお、プレストレストコンクリート業界は、2022年に需要のピークを打つと見込まれています。
日本は人口減少社会に入っており、土木需要が先細りなことは間違いありませんから、過度な期待は禁物です。
グロース銘柄としてとらえるとケガをすることになるでしょう。
ただ、一応の業績下支えは期待できますから、バリュエーションが割安であれば投資先としてみても悪くないかもしれません。
以上、今回はプレストレストコンクリート業界をみてきました。
なお、上記はあくまでも中卒くん個人の見解であり、特定の投資スタンスをお勧めするものではありません。投資にあたっては自分の判断で、自己責任で行っていただきますようお願いいたします。