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商船三井の砕氷LNG船が中国入港 ヤマルLNGプロジェクト本格稼働へ

先週、ヤマル産の液化天然ガスを積んだ商船三井のLNG砕氷船が中国の港に初入港しました

 

ロシアLNGタンカー、初めて中国に入港 Sputnik news

記事によると、砕氷型LNGタンカーである「ウラジーミル・ルサノフ」と「エドゥアルド・トルリ」が、中国江蘇省南通市如東港にヤマル半島南タンべイスコエガス田から供給された計34万4000立方メートルの天然ガスを供給したとのこと。

ヤマルLNG基地サベッタ港から如東港までの航海日数は時間調整を除き19日間、スエズ運河経由に比べて圧倒的に短い時間となります。

今回、LNG(液化天然ガス)の輸送に使われたLNG輸送用砕氷船「ウラジーミル・ルサノフ/VLADIMIR RUSANOV」は、日本の商船三井と中国の中国遠洋海運集団有限公司(China COSCO Shipping Corporation Limited)の合弁会社(出資比率50:50)が、韓国の大宇造船(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering Co., Ltd)に発注していたもの。全長299.0メートル、全幅50.00メートル、喫水12.00メートル、タンク容量172000立方メートルのメンブレン型タンクを備えた砕氷船となっています。

 

なお、ヤマルLNGプロジェクトは、ロシアのノバテク(Pao Novatek)が50.1%の権益を保有、フランスのトタルと中国の中国石油天然気集団(CNPC)が20%ずつ、中国シルクロード基金が9.9%を保有しています。

 

ヤマロネネツ自治管区のヤマルガス田周辺には全世界のおよそ1/5~1/4の天然ガスが眠っているとされ、海上も含めれば(冬場は極寒の地ですが)その資源量はさらに莫大なものになると言われています。

以前からロシアはこの周辺でガス開発をしてきたのですが、これに目を付けたのが「石炭から天然ガスへ」の流れを加速する中国でした。

内モンゴル~東北部~河北省周辺でとれた石炭は確かに安価でしたが、これを利用しての火力発電や炊事、セントラルヒーティングは中国国内に深刻な大気汚染をもたらしました。

中国政府は一時エネルギーの石炭依存から脱却し、再生可能エネルギー比率をできる限り拡大することと、天然ガスを主要なエネルギー源と捉える方針を決定します。(各年度の中央経済工作会議など)

中国は自国内のタリム、長慶、四川をメインに新疆、大慶、青海、トルファンや遼河、大港などでも天然ガスを生産していますが、さすがに生産量が頭打ちです。本格的に石炭から主要エネルギーを天然ガスに転換するには他国から輸入する必要があります。

そこで白羽の矢がたったのが、米国のシェールガスとロシアのヤマル、サハリンプロジェクトだったわけです。どちらにも中国資本がしっかり食い込んでいます。

問題は、このうち米国のシェールガスの雲行きが怪しくなっていることです。

中国側としては米中貿易不均衡是正のために米国産の天然ガス輸入を拡大しようと考えていたと思います。実際にそのような発言も何度もありました。米国側にも中国需要を期待する流れが一時期ありました・・・しかし、トランプ政権の方針がどうも怪しい。中国と通商問題を解決したいのではなく、中国経済を蹴落とそうと考えているふしがあります。中国側もそのことに気付き始めています。

結果として、中国にとってヤマルLNGプロジェクトの戦略的重要性が非常に高まっています。また同時に、ロシアの重要性も高まっています。

 

トランプ政権の外交方針は、結果として中国とロシアの経済、軍事面での結びつきを強固にすることに繋がっています。個人的には、それは本当に愚かなことだと思うのですが・・・

 

 

・・・それはさておき、とりあえず

今回はLNGタンカーによる輸送となりましたが、本来はこのヤマルプロジェクトはGazpromのパイプラインで輸送することを前提にグランドデザインが作られています。

記事にもあるとおり、中露間ガスパイプライン「パワー・オブ・シベリア/Power of Siberia」を利用してヤマルから中国へ輸送することを考えられています。

パワー・オブ・シベリア・ガスパイプラインは計画通りにいけば2019年12月には完成予定(当初は2018年中の完成を目指していましたが、予算の欠乏などにより一年あとずれしました)。輸送能力は年間610億立方メートルを予定しています。なお、運営は国営ガス会社ガスプロムGazpromです。

 

 

なお、ヤマルプロジェクトで産出した天然ガスは欧州向けにも販売されることになっており、ガスパイプラインはノルド・ストリーム(Nord Stream)などを経由してドイツに直接送られることになっています。

先日、トランプ大統領がメルケル首相に対して「ドイツは天然ガスをロシアから大量に買っている。ロシアに支配されている」みたいに言っていましたが、これはノルドストリームの次の、ノルドストリーム2の開発を念頭においたものと思われます。

トランプ米大統領がドイツを攻撃、ロシアとのパイプラインを問題視 …

欧州は今はアメリカとやや反目しており、ロシアに対する風当たりはそこまで厳しくありません。しかし、何らかのきっかけでまた西側はロシアと決別し、アメリカ側に寄ってしまうかもしれない・・・そういう怖さがロシア側にはあるのだと思います。(たとえば春先に起きたイギリスでのノビチョクを利用した暗殺事件などでは、ロシアへの強硬な態度が表面化しました。)

ロシアは、そういう意味で欧州にどっぷり浸かるわけにはいかない・・・おのずと中国への接近が増えていくものと思われます。今以上に、中露関係は緊密化していくと自分は見ています。(たしかに、中央アジアにおける覇権争いなどは問題として残りますが)

 


 

ちなみに、ヤマルガス田の開発には日本企業として日揮と千代田化工建設が絡んでいます。日揮、千代田化工建設、テクニップ(Teknip)のJV連合がJSC Yamal LNG社からLNGプラントを受注しています。

サハリンでの取引がありますから、そこらへんを評価されてのものと思われます。

http://www.jgc.com/jp/03_projects/01_epc_energy_chemical/03_lng_pj_05.html

また、横川電機の制御システムが採用されているとのこと。

ぶっちゃけ、ヤマロネネツとか現地の言葉で「最果ての地」とかそんな感じの意味だったと思います。北極海に面した極寒の地です。そんなところでプロジェクトを遂行できるエンジニアリング企業って相当凄いです。土木とかやってる学生さんは日揮とか相当面白いと思います。世界でもトップ級のエンジニアリング企業だと思います。運が悪いとテロにあいますけどね・・・。


 

とまぁ、今回はヤマルLNGプロジェクトについてみてきましたが、このプロジェクトは2018年から順次稼働して、本格稼働は2020年以降です。そのころになると、パイプラインも完全に稼働して大量の天然ガスが送られることになるでしょう。

さて、今後このプロジェクトで儲かる会社はどこでしょうか?みていきましょう

 

Gazprom (ヤマル産天然ガスを中国に送るためのパワー・オブ・シベリア・パイプラインの100%運営者です)

 

 

Novatek (ヤマルプロジェクトの50.1%の出資社)

 

TOTAL SA(ヤマルプロジェクトに20%を出資しています)

 

なお、CNPCは上場していませんが、CNPC傘下のペトロチャイナ( Petrochina /0857.HK)は上場しています。

また、CNPC傘下でパイプラインと都市ガス運営しているのはクンルンエナジー( 昆侖能源 / 0135.HK)です。

 

ペトロチャイナ

 

クンルン・エナジー 昆侖能源

なお、自分は少しだけクンルンエナジーを買っています。あまり大きな金額ではありませんが、バリュエーション面でも材料面でも同社はなかなか面白いと思ってみています。チャート的には非常に緩慢ですからいますぐ買う必要はないと思っていますが、やすくなったところをチビチビ買っていく&騰がったらついていく、みたいな投資スタンスでいくつもりです。


あとがき

 

とりあえず、中国はユーラシア大陸内ですべてが完結する方向で回そうとしています。

資源とエネルギーに関してはロシアとの結びつきを強め、また欧州とは技術面、科学面での結びつきを強めています(インダストリー4.0、自動運転、AIへの取り組みでは両国企業間でかなり進展があります)。

アメリカは、今でこそ優位に通商戦争を展開しているようにみえますが、下手をするとベルリン勅令後のフランスと同じ道を歩む可能性があります。

いま起きていることは、大陸封鎖令なのか、海洋封鎖令なのかの違いです。逆になっただけに見えます。

これを続けていけば、中国も無傷では済まないでしょうが、アメリカは世界一の経済国の地位から落ちる可能性があります。兎にも角にも、お仲間づくりをどちらが有効にできるかにかかっていると思います。

トランプ大統領の口癖「America First!」ですが、自国第一主義を意味するこの言葉が実は「America Second」への道の始まりだったとか・・・そんな悪い冗談として後世に語られないためにも、アメリカは欧州や日本など同盟国に喧嘩を売るのを早々にやめた方が良いと思います。敵と味方をわけて対応しないと、損をするのは当の本人です。この調子だと、ユーラシア大陸が内部で完結してしまいます。

それは、ユーラシア大陸外の国々にとって、非常にリスキーです。特に台湾です。そして、巻き込まれるかたちで日本です。

・・・それはまた他の機会に書きます。

以上です。

 

なお、上記は2018年7月23日に書きましたので、その時点での情報に基づいて書かれています。また、上記はあくまでも中卒くん個人の見解を述べたものであり、特定の投資行動をお勧めするものではありません。投資などにあたっては自己責任で行うようお願いいたします。