インドネシアの財閥リッポー・グループ(Lippo/力宝集団)傘下のリッポー・カラワチ株が急落~大規模土地開発メイカルタ事業を巡り汚職発覚
インドネシア西ジャワ州ブカシ県チカランにおける大規模土地開発メイカルタをめぐり、リッポーグループ(Lippo)が汚職撲滅委員会(KPK)の捜査対象になっています
インドネシアの大財閥リッポーグループ(Lippo)はこれまでも多数の不動産開発を行ってきましたが、その総仕上げともいうべきメイカルタ計画で汚職問題が発覚しました。
とりあえず、リッポーグループとは?というところから説明します。
リッポーグループ(力宝集団/Lippo Group)とは?
リッポーグループ(力宝集団/Lippo Group)とは、インドネシアにおける華人系財閥の大手でインドネシア生まれの華人モフタル・リアディ(李文正)が立ち上げた財閥。
リッポーグループ(力宝集団/Lippo Group)はかつては銀行業を中心としていたものの、アジア通貨危機で大きく傾いたことから銀行業をやめ、不動産業や情報通信業、医療分野などを中心に再建。
リッポーチカラン、リッポーカラワチなどをインドネシア国内で展開するほか、香港や中国上海などで力宝中心(リッポーセンター)や力宝広場(リッポープラザ)を展開。
東南アジアでは、リッポーはインドネシア国内で32の病院を経営するほか、ミャンマーとベトナムで病院事業を拡大中。
またシンガポール、マレーシア、フィリピンでリッポーは直接的に不動産事業を営んでいます。
病院事業では日本や中国の企業ともリッポーは提携関係を深めています。
さらにリッポーはオーストラリアにもビルを持つほか、米国ロサンゼルスにはタワービルを所有するなど、グローバルな不動産企業として展開。
モフタル・リアディ(李文正)はもうすぐ90歳になるため、実際の経営は次男と三男が行っているもようです。
ジェームズ・リアディ(李白/James Tjahaja Riady /Lie Zen / Li Bái)
モフタル・リアディ(李文正)には何人か子供がいますが、長男の話はとんと聞こえてきません。
とりあえず、モフタル・リアディは既に高齢であり経営の一線からは遠ざかっている模様。
次男のジェームズ・リアディ(李白/James Tjahaja Riady /Lie Zen / Li Bái)が現在、リッポーグループの中心的な立場におり、最高経営責任者CEOを務めています。
インドネシア国内においては、インドネシア商工会議所(KADIN)の副会長、国家経済会議と大統領特別補佐チームのメンバー(2010~15年)を務めてきており、
国際的にも非常に著名な人物で、世界経済フォーラムWEFの設立メンバーでもあり(いわゆるダボス会議の団体)、WEFインターナショナル・ビジネス・カウンシルのメンバーでもあります。
なお、父親のモフタル・リアディ(李文正)と同様に、ジェームズ・リアディCEOもキリスト教徒(バプテスト派)です。
ジェームズ・リアディは私立のインターナショナル・クリスチャン・スクールを12校経営するペリタ・ハラパン教育財団(光と希望の教育財団)の設立者兼会長。
インドネシアはイスラム教徒が多く、中華系であり、さらにキリスト教徒というのはかなりマイナーに属します。
メイカルタとは?
メイカルタとは、リッポーグループが「新しいジャカルタを作る」を掛け声に、最大限の力を込めて開発を進める大規模プロジェクトです。
メイカルタの予定地は首都ジャカルタから東へ約40キロ離れた、西ジャワ州ブカシ県(Bekasi)チカラン(Cikarang)周辺。
メイカルタは総工費は278兆ルピア(約2兆2000億円)、5000ヘクタールの土地に住宅と学術研究、製造業の集約を図る、リッポーグループが社運をかけて行う大規模プロジェクトです。
このメイカルタの名前の由来ですが、これはリッポーグループの創業者モフタル・リアディ(李文正)の妻の名前スリヤワティ・リディア(李麗梅)の梅の北京語の音「メイ」と、ジャカルタの「カルタ」から名前をつけられたとのこと。
リッポーグループのジェームズ・リアディにとっては母親にあたるスリヤワティ・リディア(李麗梅)の名前を冠するわけで、非常に思い入れのあるプロジェクトになっているもよう。
ジェームズ・リアディは「メイカルタに東洋一の美しさを誇る街を作りたい」と、なんだったかのインタビューで以前答えていました。
なお、メイカルタは既に開発が進んできており、100万~500万円ほどの価格の集合住宅を大量に売却。
低価格不動産への融資を緩和するインドネシアの政策もあり、すでに10万戸以上が売れているとのことです。
今後は大規模なビルなどの建設をしていくとのことです。
メイカルタ事業で大規模汚職か
このメイカルタ事業を巡り、汚職事件が発覚しています。
インドネシアの独立捜査機関である汚職撲滅委員会(KPK)は、メイカルタの開発を巡り建設許認可を発行する見返りにリッポーグループ企業から賄賂を受け取ったとして、西ジャワ州ブカシ県知事やリッポー・グループ幹部など4人を逮捕。
しかもこれは収賄現場を現行犯逮捕されており、言い逃れのできない状況のもよう。
さらにKPK汚職撲滅委員会は、リッポー関連の訴訟にからみ、裁判所職員に金銭を渡した疑いで他のリッポー幹部を逮捕。
リッポーは訴訟裁判を有利にするために裁判所職員を抱え込んでいた疑いも出てきており、詰めの捜査段階に入っているもようです。
リッポーグループの銀行業NOBUと東京センチュリー
なお、リッポーグループは日本企業とも非常に綿密な関係を築いてきました。
たとえば、リッポーグループはアジア危機の際に撤退した金融事業に再度参入しているのですが、今回は以前失敗したような既存型の銀行業ではなく、より情報技術や信用情報などを上手く利用して融資などを行うフィンテック事業にかなり積極的に資源を投入しています。
こうしたなか、リッポーグループが傘下にもつ銀行事業(NOBU)に対し、伊藤忠系の東京センチュリーは14億円で5%の株式を5月に取得。
リッポーグループと東京センチュリーはさらに、OVO(オボ)という電子マネーを展開しており、この利用状況などのビッグデータを解析、与信に活かす研究を開始しています。
リッポーグループの病院事業と伊藤忠商事
なお、東京センチュリーの親会社である伊藤忠商事もまた、リッポーグループと提携を強めています。
伊藤忠商事はリッポー・グループ傘下の病院運営会社OUEリッポーヘルスケアに出資しており、REITを通じて収益を得るほか、伊藤忠とリッポーが開発する病院をREITに売却、次の病院開発資金を確保する医療デベロッパー事業をしています。(2018/09/19 日本経済新聞 朝刊 14ページ)
リッポーグループとその他日本企業の関係
住友商事はリッポーと物流網の構築で提携。レカ・カクラブナ・ロジスティック(RCL、ジャカルタ)の第三者割当増資を引き受け、40%の株式を取得。
住商とリッポーは物流網整備と並行して、消費者向け決済サービスも開発。(2018/08/30 日本経済新聞 朝刊 14ページ)
そんなこんなでリッポーグループについてまとめつつ、今回の汚職疑惑事件についても書いてみました。
今回のリッポーグループへの風当たりの強さには、インドネシアの高まるイスラム熱の影響もありそうです。
インドネシアは来年、大統領選挙が開かれます。
かなり宗派間対立を煽るような風が吹き荒れそうな感じがしています。具体的にいえば、イスラム色の強い展開になりそうです。
そうしたなか、バプテスト派キリスト教というアメリカにウケる宗教をしてきた同社経営陣が、どういった立ち位置になるか。
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とりあえず、今後の動向には要注意だと思います。
以上です。