MAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording)技術で2025年に容量40TBのHDD実現へ~ウェスタン・デジタル(Western Digital)
米ストレージ大手のウェスタン・デジタル(Western Digital)はMAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording)という技術を用いて、2025年までに容量40TBのHDD(ハードディスク)を実現する方針です。
Innovating to Fuel the Next Decade of Big Data Western Digital
MAMRはウエスタン・デジタルの同業シ―ゲイト・テクノロジーズの採用するHAMR技術とともに、HDDの高密度化に寄与する技術として市場の注目を浴び始めています。
2018年中にもパイロット生産が始まるこのMAMR技術を採用したHDDですが、ウェスタン・デジタルはMAMR技術によって2025年までに40TBのHDDを製造すると発表しており、今後10年超はHDD技術の中心的技術になりそうです。
SSDなどとの競合もあり注目が薄れがちなHDDですが、かなり大規模な変化が起きています。
今回は、HDDの大容量化を実現する技術のひとつ、MAMRについてみていきましょう。
MAMRの話をする前に、HDDの構造について語る・・・
MAMRの話をする前にHDDの構造について話をしておきます。
HDDですが、なかには数枚の磁性体のディスクがあります。
この磁性体はHDDのディスクに垂直に交わるように磁気モーメントが発生しており、この磁気モーメントをヘッドの先端部で発生させた磁界(磁気エネルギー)で反転させることでデータを記録しているわけです。
MAMR技術とは?~Microwave Assisted Magnetic Recording
ウェスタン・デジタルが開発するMAMR技術は、Microwave Assisted Magnetic Recordingの略であり、日本語では「マイクロ波アシスト磁気記録」と言います。
ちなみにMAMRの読み方は「ママー」。
このMAMR技術は、簡単に言ってしまうと磁化反転させるために必要な磁界をマイクロ波で補ってあげる技術ということ。だからMicrowave Assistedです。
HDD容量競争の限界とMAMR
現在、HDD容量の記録密度を高める競争が起きていますが、これ以上の記録密度向上のためには、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を利用するだけでなく、それを読み取り、書き込むためのヘッドの改良も必要になっています。
先ほどの資料によれば、PMR( Perpendicular Magnetic Recording )では1平方インチあたり1100 Gb、SMR ( Shingled Magnetic Recording )とTDMR( 2D Magnetic Recording )では1平方インチあたり1400 Gbが書き込みの限界になるとのことです。
これは、「磁気異方性エネルギーが高い → 記録するにはより大きな磁界で磁化反転させねばならない」ということであり、現実的にそんなに大きな磁界を発生させることが無理なので、既存技術の延長線では磁性材料をどれだけ改良しても意味がないということなわけです。
磁化反転しやすくするためのMAMR
なお、高校の物理?だったかで習ったと思いますが、強磁性材料の磁界を常磁性体に転移させるには、高温にしてスピンを消してやればいい。(キュリー温度)
磁気モーメントの整列がみだれ、常磁性体になれば、大きな磁気異方性エネルギーをもつ材料でもHDDとして利用できる・・・そういったアプローチで開発されたのがシ―ゲイトが採用するHAMR技術です。
しかしこのHAMR技術、熱を使うため製品寿命が短くなることがネックです。
また、その熱をピンポイントに発生させるためのヘッドの構造に難しさがあること、磁性材料の選定の難しさなども相まって、いろいろとスマートでない部分がある・・・と個人的には思います。
そういったHAMRの問題点をウェスタンデジタルも理解していて、まったく別のMAMRという技術を採用しました。
スピントルク発振器(STO)によって発生させた高周波磁界を利用するMAMR
MAMRは磁性材料に高周波磁界を与えるとスピンが乱れること(強磁性共鳴/FMR/Ferromagnetic Resonance)の原理を利用するもの。
この状態であればさほど大きくない磁界でも磁化反転を起こすことができるため、HAMRに比べて有効であるとウェスタンデジタルは考えたようです。
なお高周波磁界の発生はスピントルク発振器(STO)を用いることで実現。
ヘッド成形技術Damasceneとヘリウム充填技術HelioSealでMAMRの効果増大
これらスピントルク発振器STOユニットは、ウェスタンデジタルが開発したDamasceneというヘッド成形技術とともに用いることで実用化にこぎつけたとのこと。
ヘリウム充填を利用したHelioSeal技術やDamascene技術、マイクロアクチュエーター技術とMAMR技術を組み合わせることで、将来的に40TBものHDDが実現できるとウェスタンデジタルは発表しています。
HAMRより100倍長持ちのMAMR
なお、シ―ゲイトテクノロジーが推進しているHAMRは2023年までに40TBを実現できるとのことですが、問題は熱を利用することによる製品寿命の短さ。
ウェスタンデジタルによるとMAMRはHAMRよりも100倍も寿命が長いとのこと。
とりあえず、今回は次世代HDDの技術であるMAMRについてみてきました。
このMAMRはストレージ業界の地殻変動を起こす可能性があります。
シ―ゲイトとウェスタンデジタルは近年、部品の内製化を進めています。
HAMR、MAMRにしてもそうです。
これに対して、東芝はTDK、昭和電工などと組んでHAMR技術を推進しています。
訂正:東芝はMAMR陣営です。
ただ、信頼感の問題からHAMRには問題点があり、TDKのヘッド事業には暗雲が立ち込めていているのではないか、と感じています。
今後の展開には要注意だと思います。
以上。