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南ア・ラマポーザ大統領による白人農地収用問題

以下は単なるコラムです。ニュースまとめに書くには長すぎる内容をこちらに書いています。興味のない方は読み飛ばしてください。


南アフリカのシリル・ラマポーザ(ラマフォサ/ラマフォーサ)大統領が発表した白人所有農地の収用方針が波紋を広げています。

アフリカ民族会議(ANC)のシリル・ラマポーザ(ラマフォーサ/ラマフォサ)大統領は先月7月31日に、白人の農場主らが所有する農地を補償なしで収用すると発表。これを実現するために憲法の条項改正を進める方針を発表しました。

このラマポーザ(ラマフォーサ/ラマフォサ)大統領の白人土地収用の発言を受け、白人票を意識しているトランプ米大統領がさっそく批判ツイートを投稿。いっきに外交問題化してきています。

 


 

 

1994年の南ア民主化実現後、ネルソン・マンデラ大統領率いる南アフリカの与党アフリカ民族会議(ANC)は、土地改革を実行。

全人口の少数派である白人(8%)が大部分の農地を所有している状況を改善させようと、黒人に農地を再分配する政策を導入しました。

ただし、政府の方針としてはあくまでも「合意に基づく売買」が基本となっており、強制的な手段はとっておらず、結果として、1994年から今に至るまで実際に不動産の所有が黒人になったのは全体の1割程度。いまだに農地全体の72%は白人の農家が所有している状況が変わっていません。

このような背景のなか、南アフリカでは近年、ジュリアス・マレマ(Julius Malema)党首率いる左派新興政党「経済的解放の闘士(Economic Freedom Fighters/EFF)」が「白人から土地を略奪せよ」などの過激な言動で黒人の支持を集めています。

南アフリカは来年に総選挙を控える中、与党・アフリカ民族会議ANCとしても黒人の不満を汲み上げる必要が出てきているおり、今回のラマポーザ大統領による白人農地強制収用の方針には、与党内部から突き上げの影響もあったのではと言われています。

なお、このジュリアス・マレマはもともと現与党であるアフリカ民族会議(ANC)の青年同盟リーダーでしたが、過激な言動と、そもそもの思想的背景がマルクス・レーニン主義のガチガチの反資本主義論者であったため党の方針と決別した経緯があるとのことです。(自分はこのあたりの経緯は詳しくありません。Wikipediaなどを参照しています。)

2013年に「経済的解放の闘士(Economic Freedom Fighters/EFF)」を立ち上げ、高失業率に苦しむ若者層からの支持を急速に高めたとのことです。

結成直後の2014年の総選挙で116万9259票、6.35%の得票率を獲得し、下院400議席中25議席を得る躍進を遂げ、その後も急激に勢力を拡大中と言われています。


ラマポーザ(ラマフォーサ/ラマフォサ)大統領率いる与党・アフリカ民族会議(ANC)の勢力が落ちてきています。

ラマポーザ大統領が率いる与党・アフリカ民族会議(ANC)は、ネルソン・マンデラ議長の頃はまだマシだったのですが、長年の統治のなかで汚職が蔓延。
ムベキ元大統領時代に副大統領を務めたズールー族のズマは、汚職やレイプ疑惑で訴追されたにも関わらず2007年に無罪評決。無罪決定後はムベキ下ろしを本格化。2009年には国民議会下院選挙でANCが圧勝し、ズマ大統領が誕生します。
・・・が、やはり汚職まみれの噂は本当だったようで、このズマ大統領の時代には、インド系大富豪のグプタ家との癒着が取りざたされました。グプタ家による公共事業を巡る入札問題や内閣人事問題なども発生しました。

今年2018年、ズマはとうとう大統領の職を辞し、後任にラマポーザが大統領に就きました。

 

南アフリカの失業率は20%を超えています。また、若者の50%以上が無職であるとも言われています。若者はアパルトヘイト時代を知りませんし、ラマフォサ率いるアフリカ民族会議(ANC)の存在価値を理解しません。

犯罪発生率はとても高く、殺人も横行している、そんな国ですから極端な思想に走りやすい。そういう環境で政党支持率を上げるためにラマポーザ大統領がとりうる手段は、白人農地の収用と黒人への分配、そこで黒人に働いてもらうことによる経済活動の活発化・・・だったのだと思います。

 


 

労働力の有効活用と支持率のアップを狙ったこの南アフリカ白人農地収用政策が、海を隔てた反対側の国アメリカでちょうど白人票を欲しがっていたトランプ大統領の耳に入ってしまいました。

 

トランプ大統領は、ポンペイオ国務長官にたいして「南アフリカにおける土地収用と農民の大量殺戮」について調査を命じたそうです。

 

・・・large scale killing of farmersってほんまかいな。

 

実はトランプ大統領はアフリカのことなんて興味がないのでは、と言われています。

自分はちゃんと調べたわけでないので間違っているかもしれないのですが、トランプ大統領が就任後にアフリカについてツイートしたのは、今回のラマポーザ大統領による南ア白人土地収用問題が初めてだったそうです。

また、トランプ大統領はアフリカのことを「肥溜めのような国」とも表現しています。トランプ大統領がアフリカに対して抱いているイメージはそんな程度です。

FOXニュースのタッカー・カールソンは22日にこの南アフリカ白人農地収用のニュースを報じたのですが、「オバマが称賛したラマフォサ大統領」みたいな要件を挿し込んでいて、まぁ選挙を前にした意図のある報道となっています。

Inside South Africa’s racist land seizures

このニュースのなかで、タッカー・カールソンと会話する現地の研究員がジンバブエで起きた白人農民に対する略奪についても言及するのですが、べつに現在進行形で南アフリカでそういったことが起きているとは言ってません。

完全に、トランプ大統領の早とちりです。。。


 

とりあえず、南アフリカの経済活動を回復させるためには、白人所有農地問題はいつかは解決する必要がある問題ですが、政治的にも、外交的にも非常にセンシティブな問題であることは間違いありません。

米ドル/南アランド 週足チャート

 

はたしてラマポーザ大統領がこれを実行できるか、トランプ大統領が南アに経済制裁をするのかしないのか、南アフリカの通貨ランドの動向も含め注目が集まっています。