タリバンが攻勢を強める中、米軍はアフガン撤退に向け協議中~中国を対イスラム原理主義の戦いに巻き込むチャンスか?

タリバンが米国と和平協議~一方でアフガニスタン政府を狙った大規模攻撃で126人以上殺害

 

 

アフガニスタン情勢~タリバンと米国が和平協議~米軍撤退も議題

アフガニスタン情勢が大きく動いています。

アメリカのザルマイ・ハリルザド・アフガニスタン特別大使がここもとパキスタン、UAE、サウジなど関係諸国を歴訪。

1月21日からはカタールでタリバンとの和平協議を再開しました。

このなかでは、アフガニスタンに駐留する米軍とNATO軍の撤退も議題に上っているということです。

米、タリバンと和平協議再開、駐留米軍撤収も議題

前回のUAE会合が昨年12月の17日からの日程でしたので、約一か月あけての会談実施となります。

かなりハイペースに会合が続けられており、協議の進展の可能性が高まっています。

 

 

トランプ大統領はアフガンを含め、海外からの撤退を期待

トランプ大統領は大統領選挙の公約で、シリアやアフガンなど海外からの撤兵を進めることを掲げていました。

北朝鮮との関係悪化が続くなか、韓国からの撤退も口にしたことがあります。

トランプ大統領は基本的に超がつくほどの現実主義者です。

米国が海外でのプレゼンスを拡大してきたこの100年・・・第一次世界大戦後のまる一世紀で、アメリカは世界の警察として働いてきましたが、それによってアメリカが得をしたとは考えていません。

財政的にも海外派兵を続けるメリットが薄いことは理解しており、また海外に派兵しまくることでアメリカが敵対視されている現状も理解しています。

このことから、海外からの撤退を強硬に訴えてきました。

これに歯止めをかけていたのはマティス長官などであったと言われていますが、そのマティス長官も、トランプ大統領の頑ななシリアからの米軍撤退方針を受けて辞任。

トランプ大統領の版図縮小政策に歯止めをかける人物が、ホワイトハウス内から消えています。

(なお、自分はトランプ大統領を超現実主義者だと書きましたが、世の中ではマティス元国防長官の方を現実主義者だという声が多いと思います。自分はそういった見方に与しません。トランプ大統領こそが、現実的な理解をしています。米国は遅かれ早かれ超大国の地位から転げ落ちます。トランプ大統領はそれを受け入れ、版図を狭める作業をしているだけです。)

 

 

タリバンはアフガニスタン政府を狙った攻撃を実行~126人超が死亡か

こうしたなか、タリバンはアフガニスタン政府を狙った攻撃を実施。

この攻撃では、政府側治安要員などに126人の犠牲者が発生したと伝えられています。

タリバン襲撃「死者は126人」 アフガン

アフガニスタン政府の治安部隊は現実的にアメリカ政府の支援なしではタリバンに勝ち目がありません。

このままアメリカが撤退し、どこも手助けをしなければ、アフガニスタン政府は壊滅する可能性があります。

これはシリア問題における米国の同盟軍だったクルド族を見捨てた行為と似たものがあり、米国はプレゼンスを失うとともに、新たにアフガニスタン政府からの敵対心を掻き立てる可能性に直面しています。

 

 

アフガニスタンから米軍がいなくなれば、中国が進出する可能性

もしこの状況下でアフガニスタンから米国のプレゼンスがなくなればどうなるでしょうか。

たぶん、中国が進出するでしょう。

パキスタン、アフガニスタン、イランとの回廊は古くからシルクロードの重要なルートです。

カイバル峠、カシミール、カシュガルのルートの安定化に関しては、インド洋・中東アフリカ方面への野心を考えれば、中国は必死になって安定化を目指そうとすると思われます。

 

イスラム原理主義組織の矛先を中国に向けさせる好機

アメリカがアフガニスタンから撤退すれば、アフガニスタン政府は中国やロシアに擦り寄るはずです。

とくに、上海協力機構SCOで先日仲良しこよしを演じた中国に対しては、一番に頼りにするでしょう。

中国はアフガニスタン政府へ近寄って、お得意のドローンや監視カメラなどを提供、治安維持や軍事顧問などで協力する可能性があります。

こうなれば、中国を対タリバン、対イスラム原理主義組織との闘いに巻き込むことができます。

中国は国内にイスラム教徒(回教徒)のウイグル族を抱えています。

ウイグル族の同化政策のなかではかなりの反発があると言われています。

もちろん、タリバンやアルカイダなどとは全く関係性を持っている集団ではないでしょうが、不満分子がふえれば、そういった組織はウイグルにも浸透していくでしょう。

そうすれば中国は内憂を抱えることになります。

 

また仮に、アフガニスタン政府が中国政府を頼れずに崩壊したとすると、アフガニスタンではタリバンが主導する政権が樹立される可能性が高い。

ユーラシア大陸にぽっかりとイスラム原理主義国家が登場するわけです。

これによる地域の不安定化は、中国にとって非常に問題になってきます。

影響圏をパキスタンや黒海方面との交易ルートやパイプラインが走りますから、その安全の確保が大切になります。

いずれ中国はこの地域に釘付けにならざるをえなくなるでしょう。

 

 

 

とりあえず、長期的な目線でみて、トランプ大統領のアフガン撤退方針は米国の利害に即していると思われます。

たぶん多くのメディアはトランプ大統領の判断を「現実的でない」と批判するでしょうが、極めて現実的で利口な判断だと思われます。

いろいろと、面白いことになってきたな、という気がします。

以上。