チップ抵抗器で世界シェア2位 伊那谷のKOAの業績をみてみよう
今回の企業短評は、さきほど第1四半期決算が発表されたチップ抵抗器世界シェア2位のKOAについてみていきます。
まず、同社について軽く紹介します。
KOAはチップ抵抗器の世界シェア2位
KOAはチップ抵抗器で世界有数のポジションを維持しています。特に自動車向けなど、高い信頼性が要求される分野に強い企業として知られています。なお、チップ抵抗器の世界シェア1位はヤゲオ(Yageo/国巨)です。ヤゲオ社資料によると、ヤゲオ34%、KOA9%、ローム6%、パナソニック6%、Vishay 2%となっていて、ほかに細かい企業がごちゃごちゃ43%もある・・・それがチップレジスタの市場となっています。
これはMLCCが世界シェア上位4社で76%、6社で81%を占めるのとは大違いです。このあたりが、後述する業績の問題にも影響しているように思います。
KOAは売上高のほとんどがチップレジスタ(抵抗器)
KOAの昨年2018年度事業報告書資料によると、売上高構成比のうち抵抗器は87.6%です。もはや、抵抗器以外は業績にほとんど関係ないと言えます。
なお、用途別にみると自動車が39.2%です。以下コンピュータ11.8%、家電8.5%、AV機器8.3%、通信機器8.2%、その他24%。かなり自動車比率が高いことがわかります。
また地域別構成でみると、アジア37.3%、日本33.9%、アメリカ16.0%、ヨーロッパ12.8%となっています。
KOAは伊那谷発祥の世界企業
KOAは長野県中箕輪村(現在の長野県上伊那郡箕輪町)出身の向山一人(むかいやま かずと)が1940年に東京都品川区に立ち上げた興亜工業社が前身となった企業だそうです。当時、向山はまだ26歳、しかも1940年ですから戦時中です。大変な覚悟が必要だったと思います。
空襲の激化で工場を長野県伊那市に移転、1947年には同地で興亜工業社を改組して設立。以来ずっと本店所在地は伊那市に置き、また業務の中心は故郷の長野県上伊那郡箕輪町に置いている地元愛にあふれた企業でもあります。(グーグルマップで本社所在地をみてみましょう。田畑の中に工業団地がポツンとある・・・それがKOA本社です。)
ちなみにKOAの有価証券報告書によると
以来「お百姓がお百姓として家族そろって暮らせるように」、農村地帯に現金
収入の途を作るべく「農工一体」を掲げて経営を進めてまいりました。
とあります。そう、当初の目的は(今もかもしれませんが)兼業農家のための現金収入の場を提供するための会社だったようです。
伊那谷はとても貧しい地域でした。諏訪地域の岡谷で製糸業が盛んだったころには養蚕業で栄えますが、1929年の世界恐慌によってその流れも一気に暗転します。需要が世界的に急減するとともに、井上準之助大蔵大臣によるデフレ政策も影響して生糸の価格は大きく下落。
同時に、1930年の豊作による米価下落を受けて養蚕と農業で生計を立てていた長野県諏訪・伊那谷地域の農家は大変な債務状態に陥ります。
さらに追い打ちをかけるように1931年には冷害が深刻化。北海道、東北、長野などはこの昭和農業恐慌(1930~1931年)の波をもろに受けます。創業者向山がちょうど16歳の多感な時期です。彼は、身売りされていく同年代の娘たちを眺めて育ったことでしょう。
彼は、そんな地元の窮状を救うためにKOAの前身となる企業を立ち上げたそうです。さて・・・
そんな地元愛にあふれた企業ですから、さも当然のごとく買収防衛策を導入しています。
KOAの有報には買収防衛策を導入する意義についてつらつらと書かれています。こんなに素晴らしい会社なんだから買収防衛して当然だろ?とでも言わんばかりです。
当社株式等の大量取得行為に関する対応策(買収防衛策)の継続 … – KOA
とりあえず、ここでは買収防衛策の是非について語るつもりはありませんが、有報の文字数の多くを買収防衛策の肯定のために割いているあたり、まぁ、察しましょうというところでしょうか。大赤字を出した時でも日本人をリストラしなかった企業です。「創業者の遺訓として人員整理を戒め、どこよりも明るく楽しい職場を作ろうを社是とし」ているそうです。
株主にはつらい思いをした人がいたと思いますが、日本人従業員にとってはいい会社ですね。
なお、そんな感じの古き良き?日本的企業統治が貫かれたKOAですが、なんだかんだで世界企業です。
所有株式数に占める外国人株主は33.3%を占めますし、販売実績をみても海外売上は61.5%です。従業員の46.2%は外国人です。
さて、いつまでこの経営を貫けるでしょうか。
なお、同社はこういった社風が幸いしたのか、伊那谷のなかではなかなかしぶとく生き残っています。伊那谷にかぎらず、長野県発祥の企業のなかではかなり長寿じゃないかと思います。
たとえば、オルゴールの三協精機などは既に日電産に買収されて日電産サンキョーになりましたし、ヤシカは京セラに買収されました(その後商標売却)。チノンはコダックになったあとでゴチャゴチャに・・・一応、北沢バルブ(現キッツ)も生き残ってはいますが、同社は本社を千葉県に移転してしまっていますから、そういう点でいうと、KOAはとても長野県らしい企業といえるかもしれません。
さて、そんなこんなで企業内容についてサラッとみてきたところで、つぎはKOAの業績についてみていきましょう。
KOAの2019年3月期第1四半期連結決算は、売上9.5%増、営業利益3.4%減、経常利益11.3%ぞう、純利益13.0%増、一株当たり四半期純利益は30.67円。連結財務状態は自己資本比率80.0%、一株当たり純資産1670.44円
となっています。(平成31年3月期第一四半期決算短信より)
KOAに投資していた人にとっては「あれれれれ?」って感じだと思います。
積層セラミックコンデンサ各社の業績は物凄く良いです。
「コンデンサと一緒に利用される抵抗器の会社だって業績がいいはず!」と思ってKOA株を買っていた人は多いでしょう。見事に梯子を外されました感があると思います。
同社は昔からこの調子です。業績が拡大したら従業員に報いるのは当然、それが同社の変わらぬスタンスです。昨年の同社業績はとてもよかったのですから、翌年の今年は報酬が大幅に上昇します。それがKOAのいつもの決算です。それはいいことだと思います。
四半期決算短信によると「人件費・減価償却費等の固定費増加により営業利益は1,180百万円(前年同期比41百万円減、3.4%減)」と書かれています。要するに、事業拡大に伴う設備や人件費の増加が大きかったそうです。
売上高は大きく伸びていますが、売上原価が同時に伸びていて、売上総利益が上昇しています。販管費も増加しています。為替差益などで経常利益は上昇していますが、実質的にはコスト圧迫型の数字にみえます。
とりあえず、時間外では2.63%ほど下がっています。そんなもんでしょう。
ちなみに前期末の決算数字ですが、
KOAの財務諸表によると同社は「現金及び現金同等物の期末残高」が179億2300万円もあります。負債が149億2400万円しかないので、あまりにもおおきな現預金残高と言えます。
営業キャッシュフローの推移を見る限り、こんなに積み上げる意図がわかりません。これはまったく、褒められた経営ではありません。ただただ企業体として生き永らえればいい、そういう意図が見え隠れしています。
こういった資本効率の無駄を招きやすいのが買収防衛策の問題点です。企業統治がグッダグダになりやすいです。
とりあえず、KOAの株価チャートなどもみてみましょう。東証一部上場、コードは6999です。
皆さん期待して買いあがっていたようですが、どうも梯子を外された臭いですねw
おつかれさまです。
とりあえず、売上は伸びています。コスト上昇で売上総利益は抑えられています。販管費などが増加して減益です。明日7月23日の寄り付きは嫌気される可能性があるかなと思います。
なお、さきほども書きましたが、同社の抵抗器は耐久性、安定性に優れていることから、自動車向け販売比率が4割近くあります。Q1ではもしかしたら4割を超えているかもしれません。そのあたりが逆に、業績の変化度としてみると面白くなくなってくる可能性があります。(たとえばMLCCの太陽誘電などでは、まだ自動車向け比率が9%でしかありません。そのぶん、今後の伸びしろがあるというわけです。)
またこれも先ほど書きましたが、抵抗器の業界は上位シェアが低いことも特徴的で、上位4社をあわせても55%です。MLCCが上位4社で76%を寡占しているのとはちょっと事情が異なりますので、すんなり値上げしていけるかどうか怪しいように思います。
そこらへんがファンダメンタルズからみたKOAのネガティブ材料。
あとは、企業統治上の特質性を加味して、個人的にはKOA株はパスと判断しています。
なお、個人的にはこの会社の社風は長いことみてきたので投資する気になれませんが、従業員として働くのなら悪い会社じゃないと思います。とりあえず、古き良き日本企業を体現し、今もなお生き続けている会社という感じがします。
まぁ、そんな感じで今回の短評を終わります。
この記事は2018年7月23日に書きました。上記の数字などは同日に得られる数字をもとにして書いています。また、上記はあくまでも中卒くん個人の見解であり、特定の投資スタンスをお勧めするものではありません。投資に当たってはご自分の判断で、自己責任で行っていただきますようお願いいたします。