百度(バイドゥ)の進める「アポロ計画」~中国における自動運転車開発計画は米中貿易戦争を生き延びられるか~

百度(バイドゥ)の進める「アポロ計画」~中国における自動運転車開発計画~

 

中国バイドゥ(百度)の自動運転車開発計画「アポロ計画」

中国は独自に自動運転車開発を目指していますが、その中心になっているのが、検索大手バイドゥ(百度)です。

バイドゥ(百度)は2014年にアンドリュー・ング博士を招へい、AI開発を本格的に進めることを発表。

2016年には自動運転車の開発を行うためのチームを秘密裏に設立、米国および中国で開発を開始していたとのこと。

2017年4月にはオープンプラットフォームの自律走行車プロジェクト計画を正式に発表

この名前をアポロプロジェクトと名付けるとともに、2019年までにレベル3の自動運転を実現させ、2021年までにはレベル4の自動運転を実現させることを目標に掲げました。

 

 

アポロ計画を発表する直前、中国バイドゥ(百度)からアンドリュー・ング博士が退社

2017年4月、バイドゥ(百度)は同社のオープンプラットフォームな自動運転車開発計画をアポロ計画と名付けて大々的に発表しました。

 

しかし、このアポロ計画を発表する2017年4月の直前

2017年3月に、チームを率いていたはずのアンドリュー・ング博士が退社を発表しました。

理由はよくわかりません。

発表当初からケチがついたこのアポロ計画でしたが、バイドゥ(百度)はその後も開発を続けます。

すでに中国共産党政府の後押しも決まっており、後戻りできなかったというのもあるかもしれません。

 

 

アポロ計画に将来を託したバイドゥ(百度)

アポロ計画の発表を行った当時、中国には民間企業として隆盛してきていたネットの大企業が3社ありました。

それが、アリババ、テンセント、バイドゥ

あわせてBATとして騒がれていました。

アメリカのFAANGに対して中国のネット企業はBATが中心になると言われていました。

 

当時、アリババはネット小売りを中心にネット金融やネット動画などにも手を伸ばしていました。

テンセントはゲーム事業で稼ぎながらメッセージングサービスWeixin/Wechatも好調に推移していました。

バイドゥは検索大手であり、ほぼ独占的に検索ビジネスで稼ぎながら、次の飯の種を探していました。

 

それがAI・自動運転車開発のアポロ計画です。

 

バイドゥは他2社と異なり、検索サービスという性質上、中国共産党と近い位置にあります。

すぐに儲かるビジネスではない自動運転車開発に進んだバイドゥ(百度)の後ろには、政府の影響もあったかもしれません。

 

 

 

バイドゥ(百度)のアポロ計画の強みは地図情報?

検索大手のバイドゥ(百度)はAI開発や自動運転車開発を推し進めようと考えたのでしょうか。

その背景には、同社の地図情報があるものと思われます。

バイドゥ(百度)は中国の地図情報サービスの最大手なのです。

 

自動運転車の開発には、常にリアルタイムで更新されるクラウドサーバー上の三次元地図情報が必要です。

たとえば道路工事が行われていれば、それを地図情報に反映させなければなりません。

道路上に何か障害物が落ちていれば、それを地図情報に反映させなければなりません。

また、渋滞の情報や規制情報、天候、路面状況なども共有する必要があります。

 

自動運転車は走行中にもLiDARや車載カメラ、タイヤの接地面を認識するためのセンサなどで周囲の情報を集めながら走ります。

その情報をクラウド上にアップロードし、あとから同じところを走行する車は、仮にLiDARや車載カメラで自力で周辺情報を取得できなくても、地図上にあるそれらデータと突き合わせながら最適な走行ができるようになります。

そのためにはクラウド上の地図情報がどうしても必要ですが、中国では事実上、地図情報がバイドゥ(百度)のものとなっています。

そのことが、中国における自動運転開発の主体がバイドゥ(百度)に決まった最大の要因ではないかと思われます。

 

なお、同じ理由でGoogleは自動運転開発を推し進めています。

また、ドイツの自動車メーカー各社は共同で、地図情報会社ヒアを買収しました。

すべては地図情報の持つ重みのためです。

 

 

 

バイドゥ(百度)のアポロ計画に国内外から多数の参加企業

目下、中国は世界の自動車メーカーにとって自動運転開発のメッカになっています。

その一番の理由は、法規制が緩いことのようです。

他の国では公道上で試験できないようなテストも、中国ではやってみることができるとのこと。

また、中国が既に世界一の自動車販売市場になっていることも、この市場を無視できない理由のひとつになっています。

 

そして、中国で自動運転開発をするとなると、どうしても地図情報が必要。

そのため、地図情報を握っているバイドゥ(百度)のアポロ計画には当初より多数の自動車メーカー、自動車部品メーカーが参加しています。

たとえば自動車メーカーではフォード、ダイムラー、フォルクスワーゲン、BMW、ホンダ、現代、ジャガーランドローバー、ボルボ・カーが参加しているほか、中国のほとんどの自動車メーカーも参加

(第一汽車、東風汽車、北京汽車、長城汽車、長安汽車、奇瑞汽車、江淮汽車)

自動車部品メーカーではコンチネンタル、デルファイ、ヴァレオ、ボッシュ、ZFなど

IT関連ではインテル、マイクロソフト、エヌビディア、そして中国のZTE、紫光展鋭、ベロダイン

 

さらには、先日にはなんとトヨタ自動車までアポロ計画に参加すると発表。

まさに、バイドゥ(百度)が世界中の中心地点になりつつあります。

 

 

 

バイドゥ(百度)のアポロ計画、自動運転バス「アポロン」の開発は金龍客車

なお、バイドゥ(百度)はこのアポロ計画による自動運転バスの量産を発表。

製造は金龍客車となっており、名前をアポロンとしました。

すでに中国では実証実験を行っているアポロンですが、日本でもソフトバンク子会社のSBドライブが公道での実証実験を今年7月3日から5日まで行うとのこと。

場所は東京都港区汐留のイタリア街

一般車両の通行もある中で行われる国内初の実証実験となるとのことです。

 

ちなみにこのアポロン、視覚技術とソフトウェアはIntelの傘下モービルアイのものとのこと。

完全な中国製というわけではありません。

 

 

バイドゥ(百度)のアポロ計画は米中貿易戦争の犠牲にならないか?

バイドゥ(百度)のアポロ計画は、先にも書いた通りオープンプラットフォーム戦略をとっています。

バイドゥ(百度)は、自動運転車の開発にあたって全て自社開発するのではなく、中核部分以外は他社から集める方式でやってきました。

そのことがウェイモやGMクルーズとは違うところです。

問題は、こうしたオープンソースでの開発が、果たして今後も通用するのかという点。

現在の米中貿易戦争はつまるところ、このオープンな戦略にも欠点があることを露呈させました。

 

今後、バイドゥ(百度)が独自開発を進めていくようになるのか、それとも今後もオープンプラットフォーム戦略をとっていくのか、そこは注目を集めるところだと思います。