中国がさらなる環境規制強化を実施 鉄鋼生産能力は現状より2割超の減少へ?
昨日も書いたのですが、中国がかなり環境規制を厳しくしてきそうな感じです。
以下は河北省の通達を伝えるものですが、ほかにも江蘇省などに同様のものが出ているそうです。
China’s Hebei vows more heavy industry capacity cuts by 2020
China’s Tangshan orders stricter emissions targets for heavy industry …
簡単にまとめると、河北省の張家口、廊坊、保定、などですべての製鉄所を閉鎖。秦皇島、承徳では製鉄所を半減。承徳、張家口、保定の炭鉱はすべて廃止。64の鉄鋼メーカーがある唐山は全国粗鋼生産の11%を占めるが、これを半減すること・・・とまぁ、かなり過激に粗鋼生産を減らそうとしているようです。
米中通商摩擦とデレバレッジをやっているこの時期に、なにもわざわざあわせてやらなくても良いんじゃないの?と個人的には思うのですが、とりあえず13次5か年計画(16年11月14日付)で決められたとおりにやるつもりのようです。ここらへん、融通が利きません。
とりあえず、2016から2019年末までに生産能力ベースで1.5億トンの削減が目標です。現状、かなりハイペースで減らしてきたと思われがちですが・・・以下の通り、実はここのところ中国の粗鋼生産量が増えています。
上図の通り、地条鋼の問題は解決したはずなのに、生産量は増えているんです。
これはひとつに、地条鋼が今まで統計にしっかり反映されていなかったというのが大きかったりします。統計に載る分がふえて、載らない分が減っている。
というわけで実際の粗鋼生産能力が非常にわかりにくいのですが、個人的にはだいたい9億トン半くらいの生産能力があるかな?とみています。循環ピークの今の段階で生産量が年率換算9億トン程度であることからみて、このあたりの数字が限界とみています。なお、多くの人は10億トンから12億トンとみています。自分はこれよりも少ない数字を予想しています。
その理由は、たぶん、年数的な問題で老朽化が進んでいるから。公的な数字以上に実は稼働できない設備が増えているのでは?とみています。
だいたい、今稼働している設備が導入されたのは2004年~2005年あたりです。そして、2014年を挟んで大幅な鉄鋼需給のゆるみがあり、多くの企業が設備の改修を後回しにしている可能性があるとみています。実際、鉄鋼関連の設備メーカーの業績は悪いです。鉄鋼メーカー各社には設備改修の余裕がないんだと思います。だから、脱硫設備などの環境対策も後回しです。
この状況で中国はさらに鉄鋼生産を絞ろうとしています。
なお、先ほども言いましたが、中国政府は民間部門の債務バランスを整えようとしています。そうなると、当然不動産市況などにも影響が出るはずで、建設需要も減るはずで、建設資材も余るはず・・・そんな状況にあわせて、今回の環境規制強化と鉄鋼生産減少を強いています。
つまり、中国政府は手綱を引き締めようとしているのだと思います。
中国政府は、環境問題だけでなく、生産能力の問題も、債務問題も、いっぺんに解決しようとしてるのだと、思います。
今回の方針からはそういったものが見えてきます。
環境問題にフォーカスをあてているようで、実は経済全般の構造転換に対して不退転の決意を示しています。
ただ問題は、そんなにうまくいくか?という疑問です。
たぶんこれだけの劇薬ですから、きっと平時に行うことを前提に考えられていたはずです。
なにも米中通商摩擦が激化するときに合わせてやろうとは思っていなかったでしょう。
一歩間違えれば、かなり危ないことになるんじゃないか?と個人的には危惧しています。
ちなみに、米国は中国の安い鉄鋼が自国産業を脅かしている、と言っているようですが、かなり古い統計をもとに判断していると思われます。中国はここ数年、鉄鋼の輸出が減っていました。ピークは2014年ですが、すでに去年の時点で60%程度、今年はたぶんさらに減っています。地条鋼問題はすでになく、高炉各社は負荷をかけて鉄鋼生産しているはずですが、国内需要で吸収できているのです。
中国政府はこの状況でも、さらに鉄鋼生産を減らそうとしています。仮にいま通達されているものを全部実行したなら、生産能力年率7億トン台に入るんじゃないかと思います。
たぶん中国政府は、固定資産投資に頼った成長をやめたい、スピードを落としたいのだと思います。
その方針転換の影響は、かならず日本の産業全体に影響してくるはずです。
オールドエコノミーを中心に、気を付けた方が良いと思います。
また、鉄鉱石を中心にして業績を拡大してきた豪州の鉱山企業(リオティント、BHPビリトンなど)も注意してみていった方が良いと思います。鉱山用機械のコマツやキャタピラーなども同様です。インドなど他国の需要次第ですが、中国のこの劇的な動き方はちょっと注意が必要かなと思っています。
以上。