モルディブ(モルジブ)大統領選挙で現職アブドラ・ヤミーン氏が敗れ、モルディブ民主党(MDP)のイブラヒム・モハメド・ソリ氏が勝利
モルディブ(モルジブ)の大統領選挙で、中国政策を重視してきた現職アブドラ・ヤミーン大統領が敗北し、印米英重視のモルディブ民主党(MDP)を中心とした野党連合候補イブラヒム・モハメド・ソリ氏が勝利したとロイターが伝えています。
モルディブ大統領選、野党候補が勝利宣言 中国重視の現職破る ロイター
なおイブラヒム・モハメド・ソリ氏は、今回の大統領選に出馬を許されなかったモハメド・ナシード元大統領の代わりに出馬しました。
今回のモルディブの政権交代は、インドの欧米への接近を加速化させる可能性があると思います。
とりあえず、そのことについて書いておきます。
今回のモルディブ大統領選挙は、日本の政治に置き換えてみますと、世界政治のなかの地方選みたいな扱いになっていたと思います。
つまり、中国vsインド(および米国、英国)の代理選挙のような感じです。(このあいだのマレーシアの総選挙もそういった位置づけかと。)
中国の推進する一帯一路政策に積極的に参加し、大量の借款を発行&中国への軍事拠点供与を行ってきた現職アブドゥラ・ヤミーン大統領と
旧来からのモルディブの政策であるインド重視の政策に回帰することを主張するモルディブ民主党(MDP)のイブラヒム・モハメド・ソリ氏
この二人の対決は、世界がどちらに傾いているかを眺める尺度として、眺められてきたように思います。
マレーシア総選挙につづきモルディブ大統領選挙でも中国系の推す候補が敗北したことは、中国の一帯一路政策の行き詰まりを感じさせます。
とりあえず、この結果に中国がどのように対処するのかに、個人的には興味があります。
モルディブのここ数年の政治を振り返ってみます。
2008年 民主化後初の大統領選挙実施。決選投票にもつれこみ、長期政権を敷いてきたマウムーン・アブドル・ガユーム大統領(Maumoon Abdul Gayoom)敗北。モハメド・ナシード(Mohamed Nasheed)当選
2012年 クーデターにより(?)モハメド・ナシード大統領辞任、モハメド・ワヒード・ハサン副大統領が昇格
2013年 大統領選挙。モハメド・ナシードが再度出馬し得票率とプとなるも、最高裁判所に選挙結果無効と判断される。やり直し選挙も警察に妨害され、その後行われた選挙で再度トップ当選となるも、決選投票でアブドラ・ヤミーンに敗北。(ヤミーンは民主化前大統領マウムーン・アブドル・ガユームの異母弟)
アブドゥラ・ヤミーン・アブドル・ガユーム(Abdulla Yameen Abdul Gayoom)が大統領に就任。
2014年 中国習近平がモルディブ訪問 アブドラ・ヤミーン政権と会談
2015年 モハメド・ナシームが反テロ法違反で逮捕
2016年 モハメド・ナシームが医療目的として英国に出国、そのまま亡命。
2018年 最高裁判所が収監中の政治犯と議員資格はく奪済みの12人の復職を命じるもヤミーン大統領が反対。
マウムーン・アブドル・ガユームが異母弟であるヤミーン大統領に反旗を翻し、野党連合と結託。
ガユームが逮捕され、政権転覆未遂事件の捜査妨害の罪で19カ月の禁固刑判決をくだされる。
モハメド・ナシームが大統領選挙出馬をめざすも、選管がこれを阻止。代わりにイブラヒム・モハメド・ソリ氏がモルディブ民主党(MDP)から出馬
ようするに、発展途上国によくあるパターン。
軍部や治安組織と結びついた大統領が、自分の対立候補をどんどん摘発していくというやりかた。
そして、ここに資金面で関与を深めてきたのが中国です。
モルディブは、その借款の8割が対中国であると言われています。モルディブは中国の推し進める一帯一路構想の重要拠点であり、いわゆる「真珠の首飾り戦略」の最重要拠点となっています。
一帯一路における「真珠の首飾り戦略」に関しては、英語版Wikipediaが詳しいのでそちらに解説を任せますが、ようするに、インドを取り囲むように南シナ海からインド洋を繋ぐように飛び石的に並べられた戦略拠点群のことです。
String of Pearls (Indian Ocean) Wikipedia
中国の香港を起点とし、海南島、永興島、スプラトリー諸島、シアヌークビル、クラ地峡、ココ島、チャオピュー港、シットウェ、チッタゴン、ハンバントタ、マラオ(モルディブ)、グワーダル、ラム(ケニア)などの戦略拠点を結びます。
関連記事:ミャンマー・チャオピュー深海港開発を縮小?CITICはどうする?
このなかで、今回問題になるのはマラオです。ここには中国は2000年前後から拠点を置いていたとされ、現在では潜水艦部隊も補給できるレベルにあるとインドは分析しているそうです。
また、インドはモルディブに対して救援用などの名目でヘリコプター部隊を駐屯させていたのですが(あくまでも援助という位置づけで)、これらのヘリコプター部隊の駐留も問題になってきています。
モルディブ政府はAdduとLaamuに駐留するこれらインド側の部隊を追い払おうとしているとのことですが、その裏にはこれらの島々を中国に譲り渡す密約があるのでは、と疑われているようなのです。
Maldives Extends Stay of Indian Helicopters and Crew Until December … Sputnik
とりあえず、民族系統的にもモルディブは中国の影響は少なく(アーリア・ドラヴィダ・アラブ・マレーの混血)、ここ数年の中国の影響力の高さは、ひとえにカネの力・・・つまり大量の経済援助と、観光などを通じた投資やヒトの流れの賜物だったと思います。
マレの空港と本土を結ぶ長大な橋の建設資金を援助したのは中国ですし、その他、埋立地に建つ建物の多くも中国からの投資資金で建てられていると言われています。
モルディブの観光客のおよそ1/4が中国人だと言われています。中国が国策として、モルディブを中国寄りにするために大量の観光客を動員したとも噂されています。
今回の政権交代を機に、こうした中国によるモルディブへの投資がどうなるかには注目が集まるところです。
また、今回の選挙は「民意vs軍政」の争いでもありましたから、果たして新政権が安定した政権運営をできるのかにも注意です。
中国がモルディブへの観光客をシャットダウンし、観光収入の落ちたモルディブが政情不安定化、軍や治安組織の増長を招く、という可能性もありえます。
モルディブにおけるインドの役割と、インドの外交政策の変化
とりあえず、いまのモルディブは政治的に病み上がりであり、西側諸国の積極的な援助がなければ簡単に中国寄りに戻るはず。インド洋の覇権争いはまだ始まったばかりです。
今後はインドが中立政策をとり続けるのか、それともモディ政権下で進む米国への接近が加速するのか、そこに注目です。結局のところ、中国に対抗できるのはアメリカしかありませんから。そしてそれは、インドの対露政策にも絡んできます。
米国・対露制裁違反で中国軍兵器管理部門と李尚福氏を制裁対象に~インドやトルコへの圧力か~
すべては有機的に結びついていて、とてもすべてを書ききることはできませんが、とりあえず個人的には、一番の注目はインドの外交政策だと思います。
今回の選挙結果を受け、モルディブが結びつける形で、欧米とインドの関係がさらに急激に親密化する可能性があるのではないかと思います。
以上です。