ドイツの化学大手BASFと、ロシアのノリリスクニッケル(ノルニッケル)が電気自動車向けバッテリー分野で提携~米国による経済制裁は意味を持たなくなる可能性~
ドイツの化学大手BASFとロシアのノリリスクニッケル(ノルニッケル)がEV向けバッテリー分野で提携するとロイターが報じています。
BASF and Nornickel join forces in European EV battery push
ノリリスクニッケルがフィンランドに持つハルヤバルタ精錬所の隣に、BASFが電池素材用のニッケル製品製造工場を作るとのことです。
EV用リチウムイオンバッテリーにはさまざまな種類がありますが、なかでも現在主流となっている三元系正極材を利用したEV用電池には、大量のニッケルとコバルトが必要とされます。
フィンランドのハルヤバルタ精錬所はコバルトとニッケルを精錬しており、この点で非常に効率的というわけです。
ノリリスクニッケル(ノルニッケル)はオレグ・デリパスカ氏関連企業ルサール(アルミ大手)の子会社
ちなみにノリリスクニッケル(ノルニッケル)はアルミのルサールの子会社です。
アルミのルサールと言えば、ロシアのオリガルヒ(新興財閥大手)のオレグ・デリパスカ氏関連企業だったところです。
春先にアメリカが、ルサールおよびオレグ・デリパスカ氏へ制裁措置を発動すると騒いだことでアルミ地金価格の高騰を招き、のちに影響が甚大すぎるとして制裁措置の導入を諦めた経緯があります。
ロシア制裁強化法で潤うのは誰?~RUSAL、Norilsk Nickelの暴落~
訂正:ちょっといろいろ酷すぎるw RUSAL問題をかんがえる
つまるところ、ノリリスクニッケルにしてもルサールにしても、あまりにも大きすぎて、世界経済への影響が甚大すぎて、とてもじゃないけど制裁措置なんて無理なんです。
サプライチェーンはそんな単純じゃありません。
ノリリスクニッケルのハルヤバルタ精錬所は豪州から大量のニッケルを購入
ノリリスクニッケルがフィンランドに保有しているハルヤバルタ精錬所は、先ほども書いた通り、ニッケル、コバルトの精錬をしています。
この精錬所、ロシアのノリリスクからのニッケルだけでなく、遠くオーストラリアのニッケル鉱山からの輸入もしています。
(10年くらい前のデータをみながらこの記事を書いていますから現在では変わっているかもしれませんが)
とりあえず、世界のサプライチェーンってそんなに単純なものじゃないんです。
アメリカはルサールへの制裁を甘く見過ぎていたと思います。
春先の混乱では、アメリカの自動車メーカーが大騒ぎしてトランプ大統領は制裁措置の導入を諦めました(代わりに、オレグ・デリパスカ氏もルサールでの取締役の地位を手放しました)。
結局、サプライチェーンを急激に再構築するというのは不可能に近いんです。
ノリリスク・ニッケルから見えること
とりあえず、ノリリスクニッケルのここもとの動きをみるとわかることは、世界的にニッケルが不足気味だということです。
とくに、電池材料として利用価値の高い硫酸ニッケルの安定供給を望む顧客が多い。
BHPはニッケルウェストでニッケルを生産後、硫酸ニッケルに加工して販売しようとしています。
これは、大方が中国向けになるはず。
またノリリスクニッケルも、欧州向けだけでなく中国向け需要を開拓中です。
現在、アメリカと中国は貿易戦争中です。
アメリカは中国に対していろいろと制裁措置を打ちたくて仕方ないようです。
しかし、どうみてもこれだけ複雑にサプライチェーンが組まれている状態で、中国だけ切り離すなんて不可能です。
統計のページにも書きましたが、世界のレアアース生産のほとんどは中国が担っています。
【統計】レアアース(希土類)の生産量と埋蔵量 国別シェア【グラフ】
コバルトの供給網も中国が抑えています。
【統計】コバルト生産量と埋蔵量~DRC(コンゴ民主共和国)が世界生産の約2/3シェア【グラフ】
リチウムの供給網もまた、中国系企業のシェアがあまりにも大きい。
この状況でアメリカが中国にとれる措置というのは、中国からの輸入を減らす程度でしょう。
長期的に見てそれは、あまり効果がないと思われます。
ノリリスクニッケルとルサールの株価
最後に、ノリリスクニッケルとルサールの株価もみておきましょう。
ノリリスクニッケル 日足 株価
ルサール 日足 株価
両社ともに4月の下落から回復していません。
ただ、以前も書きましたがノリリスクニッケルは代わりがいない企業です。
そのこともあって、底堅く推移しているようです。
現在、世界的に景気後退局面に入りつつあり、ノリリスクニッケルやルサールなどの資源関連銘柄は売られやすい展開にありますが、逆に拡大局面においては良いパフォーマンスをたたき出すと思われます。
とくにノリリスクニッケルは要ウォッチ、だと思います。
以上。