トランプ大統領が中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)を破棄すると表明~米中露が軍拡競争に突入へ~レーザー兵器の開発が中心?~
NYタイムズなどが報じたところによると、トランプ大統領は中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約、INF条約)からの離脱を表明したとのこと。
ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がロシアを訪問した際に、米国がINF全廃条約から離脱することを通知する予定と報じています。
トランプ大統領は米国は中距離核戦力を増強する必要があると指摘。
ロシアがいまだに中距離核戦力を増強していると非難しています。
これは、先日記事に書いたこちらの記事の内容を踏まえたものと思われます。
NATOがロシアの新型巡航ミサイル9M729/SSC-8をINF条約違反だとして非難
ロシアが現在開発中の新型巡航ミサイルシステム9M729/SSC-X-8ですが、射程が5500㎞を超えるため中距離短距離ミサイル廃棄条約で廃棄が約束された中距離巡航ミサイル(1000~5500㎞)の範囲からは外れます。
新戦略兵器削減条約、新STARTの範疇になると思われますが、新STARTからはアメリカは離脱を表明済み。
というわけで、ロシア側としては「自分たちが先に破ったわけじゃない」という考えかもしれません。(あくまでも個人的な推測です)
この件に関し北大西洋条約機構NATO米国代表部ハチソン大使がロシア側を10月2日に非難。
このまま違反を続けるようであれば新型巡航ミサイルシステムを「除去する」とまで言いました。
これに関し、ハチソン大使は先制攻撃をするという意味ではないと釈明しましたが
The U.S. ambassador to NATO just threatened to ‘take out’ a new Russian missile. It’s a bad idea. Washington Post
とりあえず、このあたりからどうにもキナ臭い雰囲気になってきていました。
NATOのストルテンベルグ事務総長もロシア側のINF条約違反を確認。危機的状況であることを認めていました。
そして、今回のトランプ大統領のINF条約からの離脱に至っています。
中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)とは?
中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約/Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)とは、アメリカとソ連とのあいだで結ばれた核軍縮条約のひとつ。
1987年に米国とソ連によって調印され、1988年に発効したこのINF条約は、中距離核戦力(Intermediate-range Nuclear Forces、INF)の撤廃が謳われており、短距離(500㎞~1000㎞)、中距離(1000㎞~5500㎞)の射程の、核弾頭搭載が可能な地上発射型の弾道ミサイル、巡航ミサイルの廃棄が定められています。
さきほども書きましたが、5500㎞を超える巡航ミサイルはそもそも対象ではありません。
米国は対中国を見据え、中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)から離脱したがっていた可能性
ぶっちゃけた話、アメリカはINF全廃条約から離脱したかったのだと思います。
1980年代にはソ連がアメリカにとっての仮想敵国でしたが、現在ではソ連のあとを継いだロシアと、それから中国が脅威です。
現在のINF全廃条約はソ連とアメリカとの間に結ばれたものであって、それ以外の国は縛られていないのです。
これは、アメリカが核戦力を撤廃しつつNATO諸国に核配備をするために用意された抜け道なのですが、中国もまた、この抜け道を利用できてしまう。
つまり、INF全廃条約はもはや時代遅れだったということです。
アメリカは南シナ海での戦闘を見据え、地上配備型の短距離、中距離核ミサイルを配備したがっています。
中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)からの離脱で、日本、台湾に敵地攻撃能力を持たせた地上配備型巡航ミサイル配備へ?
いずれこのアメリカの方針は、台湾や日本に地上配備型巡航ミサイルシステムを導入させる方向になると思われます。(数十年スパンの話になります)
アメリカは日本や台湾に中距離巡航ミサイルを配備することで、中国に対する軍事的牽制につなげようとするだけでなく、中国と日本、中国と台湾の経済関係を悪化させようとすると思われます。(韓国のTHAAD配備のときよりも酷い悪化を示すでしょう)
アメリカは中国を孤立化させて、覇権国であり続けようと考えています。
中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)でミサイル防衛はレーザーの時代へ?THEL(戦術高エネルギーレーザー /Tactical High-Energy Laser)
9M729/SSC-X-8は迎撃ミサイルを回避しながら目標物にむかって飛行する新型の巡航ミサイルですから、既存の迎撃システムでは撃ち落とせない可能性があります。
これを迎撃するには、迎撃ミサイルを高性能化させることも一つの手ですが、それ以上に違ったシステムで防衛網を多重化することも必要になると思われます。
現在米国は戦術高エネルギーレーザー(Tactical High-Energy Laser)による迎撃システムを開発中。
中赤外線域化学レーザーによる迎撃システムはレイセオンやノースロップグラマンが開発していますが、デモンストレーションではかなりの精度をたたき出しています。
以下は10年以上前の段階ですが、迫撃砲を破壊する程度までには開発が進んでいるのがわかります。
https://www.youtube.com/watch?v=cCBwLJjzDJQ
こちらは艦艇配備型のレーザー兵器ですが、まだ粗削りながら可能性はみえてきています。
なお、現在のレーザー兵器は目標物の構造を破壊するところまではできません。
燃料や発火物をターゲットに熱量を加えることで破壊する、電子機器を破壊するなどの方法で迎撃をしています。
まだ完成はしていませんが、今後間違いなくこの方向が伸びるはずです。
とりあえず、今回のINF離脱の件は、ロシアのせいじゃないと思われます。
あくまでも中国の台頭とセットで考えることが大切だと思います。
米国はありとあらゆる手段で中国の軍事的台頭を抑え込もうとするはずで、日本に対する役割要求も非常に増えてくると思われます。
財政的負担も含め、覚悟しておいた方がいいでしょう。