【水害】江戸川区ハザードマップにおける災害発生確率を考える

【水害】江戸川区ハザードマップにおける災害発生確率を考える

 

江戸川区ハザードマップが警鐘を鳴らす「200年以上に一度の大水害」

「ここにいてはダメです」の文言で始まる江戸川区のハザードマップが話題になっています。

端的に言うと、

東京都の城東5区(足立区、葛飾区、墨田区、江東区、江戸川区)は洪水時や高潮時に大災害になるから、みんな覚悟しておいてね・・・

という行政の警告です。

https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/sassi-ja.pdf

 

 

江戸川区ハザードマップの範囲内は水害発生多発地帯

江戸川区ハザードマップをみるには、一級河川に注目する必要があります。

江戸川区を含む城東5区には、荒川、中川・綾瀬川、江戸川が流れ込みます。

このうち江戸川には利根川水系からの水が流れ込みます。

利根川には群馬・栃木に振った雨のほとんどが流れ込みます。

つまり、江戸川には非常に大量の雨水が流れ込むことになるわけで、洪水時には大変なことになるよ、というわけです。

また、巨大台風における高潮被害も、この一級河川を伝って被害を及ぼすため大変なことになると指摘されています。

 

 

江戸川区のハザードマップが想定する災害とその発生確率~高潮~

さて、江戸川区ハザードマップで指摘されている災害は一体どの程度の発生確率なのでしょうか。

 

江戸川区ハザードマップでは、洪水と高潮に分けて被害範囲を示しています。

このうち高潮に関していうと

高潮・・・上陸時中心気圧910hPa、最大旋衡風速半径 75km、移動速度 73km/h の台風による高潮

という基準を前提に江戸川区ハザードマップは作られているそうです。

 

ここで挙げられている上陸時中心気圧910hPaというと、

 

1934年の室戸台風(911hPa)

1945年の枕崎台風(916hPa)

1959年の伊勢湾台風(895hPa)

 

のレベルです。

 

最近はこの規模の台風は日本本土を直撃していませんが、かつてはよくある話だったことがわかります。

地球温暖化で台風が増えていると言いながら、実はスーパータイフーン規模の直撃は減っているんです。

人々の意識の中から「スーパータイフーンはもう来ない」という意識が醸成されている可能性があり、かなり危険性が高い状態になっていると言えるでしょう。

 

一応、気象庁では

「関東にスーパータイフーンが直撃するのは1000年に一度」

と言っているようですが、どうなんでしょうか。

自然界の出来事を確率論で語ることの不毛さは三陸沖地震で懲りたように思うのですが、大丈夫でしょうか。

 

 

 

江戸川区のハザードマップが想定する災害とその発生確率~洪水~

 

もう一方の洪水に関しては、江戸川区ハザードマップでは以下のような基準を仮定しています。

 

算出の前提となる降雨:荒川流域の72 時間総雨量 632mm

 

なお、この規模の降水量はここ数年でも四国地方の水害で発生しています。

ですので、これも意外感のある数字ではありません。

 

ちなみに、こちらの洪水発生確率も、気象庁は1000年に一度と言っているそうです。

しかし、直近では1910年に72時間総雨量680㎜という大雨が降ったことが記録されています。

この時はもちろん、荒川流域で大洪水が起きたそうです。

また、その水準まではいきませんが、1947年のカスリーン台風時にも550㎜の総雨量がありました。

 

本当に1000年に一度なのか?

と疑う必要はありそうです。

 

 

 

江戸川区のハザードマップが想定する災害が起きたなら?

江戸川区のハザードマップが想定する災害が起きたなら、どういう状況になるでしょうか?

これについてもハザードマップはしっかりと示しています。

それによると・・・

 

・ほとんどの場所で一階部分が浸水

・場所によっては三階部分(高さ8m~10m)まで浸水

・二週間以上水が引かない

 

とのこと。

8mの浸水ということですので、まるで清水宗治が切腹した備中高松城の戦いのような状況です。

凄まじいですね。

 

なお、この水害が発生した場合、間違いなく地下の通信・電力インフラは崩壊します。

ガスパイプラインにも被害が及ぶ可能性があります。

これによって霞ケ浦方面からのエネルギーインフラは途絶される可能性が高い。

さらには地下鉄を通じて城西、城南方面にも水害が波及する可能性があり、意外なところにも水害の影響が広がる可能性があります。

道路網も地上部分はほぼ壊滅、甚大な経済的影響が出ることが想定されます。

 

 

 

 

 

江戸川区のハザードマップは行政による災害対策の限界を示した

利根川水系にはかねてより、200年に一度の水害(72時間総雨量550㎜)までの水害に耐えられるように、スーパー堤防が作られてきました。

しかし近年では、「200年に一度では災害リスクをみるにはスパンが短いのではないか」という意識が広がっています。

その背景にあるのは、間違いなく東日本大震災とそれに伴う津波、およびフクイチ原発事故でしょう。

あの事故以来、数百年単位の災害も「想定内」と捉えなければならない風潮になってきています。

「想定内」として対策をとるなり警告を出しておかなければ、行政の責任にされてしまう世の中になっています。

 

こうした風潮のなかから出てきたのが、今回の江戸川区のハザードマップということになります。

為政者と自然の戦いはギルガメシュ叙事詩から始まりますが、江戸川区のハザードマップは、まさにその大きな戦いにおける局地戦の敗北のようなものといえるのではないかと思います。

 

 

 

数百年、数千年に一度というリスクであっても、もし起きたら生命に関わるような甚大なリスクというものがあります。

ブラックスワンなどと言われますが、そうしたリスクは、避けられるなら避けるべきだと個人的には思います。

城東地域の不動産は値段の割に利便性が高いとして、最近人気だそうです。

しかし、個人的にはいかがなものか、、、と思います。

とりあえず、一昔前なら絶対に避けられていた川向うの地は、やはり避けた方がいいのではないか・・・そんなふうに思います。

以上です。