東方経済フォーラム~中露関係は軍事演習ばかりに注目が集まったが、一番みるべきは天然ガス供給問題~

第4回東方経済フォーラム~中ロ関係の緊密化を軍事演習からのみ語るのは間違い~天然ガスパイプライン・パワー・オブ・シベリアに続く2本目が計画中

 

今年も極東ウラジオストクで東方経済フォーラムが始まりました。

 

東方経済フォーラムは、ロシアが発展の遅れている極東地域へ海外から投資を集めるために行っている会合です。

第4回目となる今回の東方経済フォーラムは、米国によるロシア、中国への経済制裁・貿易戦争の最中に行われたものとなりました。

そうした対米関係の悪化を受け、中露間の緊密化を示そうと考えたのでしょう。ロシアは史上最大規模の軍事演習「ボストーク」を行い、そこに中国軍も共同参加してもらいました。

 

これに対して、欧米系メディアは総じて冷ややかに報じているようにみえます。

中露間には中央アジアにおける覇権争いなど懸案事項も様々あり、本音ではそこまで仲良くするつもりはないはず、などの論調も多く目につきます。

 

でも、個人的にはこれには反対です。

中露間は、かつてないほどに緊密化してきており、今後ますます緊密化していく・・・というかしていかなければならない状態にあります。

それは、タイトルにも書きました通り、天然ガスを巡る結びつきです。

以前も書きました通り、現在開発中の大規模ガス田ヤマルLNGプロジェクトは欧州だけでなく中国をも念頭においたものです。中国石油天然気CNPCも一枚噛んでいるプロジェクトです。

関連記事:商船三井の砕氷LNG船が中国入港 ヤマルLNGプロジェクト本格稼働へ

 

先日、中国とロシアの間で建設中の天然ガスパイプライン「パワー・オブ・シベリア」(Power of Siberia)が93%完成していると報じられました。

 

露中ガスパイプライン「パワー・オブ・シベリア」、93%が建設完了 Sputnik

このパワー・オブ・シベリアはアムール川を横切りますから非常に難度が高いプロジェクトです。

パワー・オブ・シベリアの水中部分の感成立は78%に留まるとのことで、これが一つの難関となっています。

 

なお、このパワー・オブ・シベリアはロシアの国営ガス会社ガスプロムと、中国の中国石油天然気集団CNPCが主導しています。

 

パワー・オブ・シベリアの契約期間は30年、380億立方メートルの天然ガスを中国に送ることになっています。

なお、この量に関しても今後さらに拡大される可能性があり、

ガスプロム、「パワー・オブ・シベリア」の生産能力拡大を検討 Sputnik

ことし6月にガスプロム社のアレクセイ・ミレル代表取締役社長が語ったところによりますと、パワー・オブ・シベリアの生産能力拡大についても検討をしているとのことです。

 

 

そしてさらに今日、中国の西側から国境に入り込むガスパイプラインルートも計画していると伝えられました。

Russia says getting closer to deal on new gas route to China | Reuters

ロシアのノバク・エネルギー相によると、習近平国家主席とこの新しいパイプラインプロジェクトについて会談したとのことです。

既に技術的な問題は合意に達しており、あとは契約のみとのこと。

 


 

ロシアは長年、欧州に天然ガスを売ってきました。

いろいろとウクライナに邪魔されたりしたこともありましたが(そのウクライナの後ろにはアメリカのエネルギー産業のカネが入っているのはミエミエでしたが)、なんだかんだで欧州との関係を維持してきました。

もうすぐ新しい海底パイプラインができることで、ウクライナの邪魔をされずに天然ガスを直接欧州に売り込める予定です・・・

関連記事:独露首脳がノルド・ストリーム2の推進で合意~ウクライナの立場が危うい~

 

・・・ですが、トランプ大統領就任後はかなり不確実性が高まってきています。

アメリカはいま、テキサス州のパーミアン盆地などを中心に、シェール由来の石油や天然ガスが大量にとれている状態です。

これをどこかに売りつけたい。一番手っ取り早いのは、地理的にも近い欧州なのです。(まぁ、日本は圧力かけなくても買ってくれますから。。。)

欧州は長いこと中東とロシアからエネルギー調達をしてきましたが、トランプ大統領がこれにかみついています。イランやロシアなんかと手を切れよ、同盟国なんだからアメリカから買えよ、と。


 

つまり、ロシアとしては、欧州だけに天然ガスを売りつづけるのは危険なのです。

欧州は、アメリカとの貿易を優先するために、アメリカが押し付けてくるシェール由来の天然ガス購入に切り替えてしまう可能性がある。

日本なんて論外です。はなっからアメリカに鞍替えしようとしている。サハリン2とかかなりやる気失せているでしょう。

 

とりあえず、ロシアとしては、ちゃんと需要が続いてくれる必要があるわけです。ロシアにとって政治リスクが少ないところといえば、中国しかないわけです。

 

中ロが冷戦後最大の軍事演習を共同開催したことばかりが注目されましたが、重要なのはそこじゃないです。

こういった、エネルギーを巡る問題が一番重要です。

現代社会におけるエネルギー供給ルートというのは、日本の戦国時代における塩の道と同じようなもんです。

塩の道が同盟関係を構築したことがあるのと同様に、天然ガスもまた、二国を結びつける役割を持ちます。

 

このままだと、今後、中ロ関係はますます緊密化していきます。

今回の東方経済フォーラムは成功だったと思います。

アメリカは、わざわざやりにくい戦いをしようとしています。

各個撃破ではなく、二か国纏めて相手しようとしています。

それは、欧州と日本がアメリカと共同戦線をとることを前提に計画されているようにみえます。アメリカは、日本と欧州が当然自分たちと足並みを揃えるだろうという前提に行動を進めています。

欧州、日本の担当者たちは、アメリカが中露とやっている貿易戦争からは距離を置きたいと思っているのでしょうが、そうはいかないように思います。

最悪の場合、世界が二分する可能性も考えた方が良いと思います。

覇権争いというのは、つまるところそういうことですから。