国際会計基準IFRS見直し~のれんの償却費用計上の義務化を検討~ソフトバンクは米国会計基準に移行か?
国際会計基準IFRSを策定している国際会計基準審議会IASBですが、のれんの償却をふたたび検討することになったようです。
M&A、費用計上の義務化検討 国際会計基準 IFRS見直し、21年にも結論
この「のれんの償却」問題は、国際会計基準審議会IASBでの議論において古くて新しい問題です。
以前から償却費用の義務化の話はあったのですが(確か日本の経団連がプッシュしていた)、去年あたりからその方針はいったん消えて、そしてまた今回、ブリッ返して振り出しに戻ったような流れになっています。
そもそも今回、国際会計基準IFRSに償却費用計上の義務化を導入しようか?という議論は、「どういう開示のしかたをしたら投資家の満足度を高められるかな?」という点から始まっています。
開示の仕方だけを変えても本質的な部分が変わらないとダメだから、ちゃんと毎年、実態を反映した数字になるように減損処理の仕方も変えていこうよ、という話で進んでいたんです。(後ほど書きますが、ヘッドルーム・アプローチといいます)
ただ、この減損処理の方法を変えようとなると、計算方法をあれこれ変更することには実務上の問題もあり(各国ごとにいろいろ商慣習も違いますし)、上手くまとまらなかったようです。
そこで今回、償却費用の義務化の話がもちあがった・・・そんな感じで、自分は捉えています。(まちがってたらtwitterででも指摘おねがいします)
以上が大まかな流れになります。
ちょっぴり込み入って書いていきます。
今までの国際会計基準IFRSでは、定期的なのれんの償却は不要で、その代わりに毎期「のれんの減損テスト」を行って、事業が傷んでいないかどうかを確かめることになっていました。
減損テストの結果傷んでいれば、そのぶんを減損するということですが、このやり方には「too little,too late」つまり、「(減損規模が)少なすぎるし遅すぎる」という問題が横たわっていました。
そもそもにおいて、事業の価値を毎年のように細かく精査していくのは手間がかかります。公正さを担保するのも難しいものがあります。
なので、これを簡略化する手段をここ数年、国際会計基準審議会IASBで話あっていたわけです。
「のれんの減損テストは果たして有効なのか」
「のれんの減損テストは複雑すぎじゃないのか」
「のれんがある場合は減損のみで対応すべきか?それとも償却と減損のハイブリッドにしようか?」
といった話が続いていたわけです。
で、いくらか前まで国際会計基準審議会IASBでの議論の中心は「ヘッドルーム・アプローチでやっていったらどうだ?」という話だったように思います。
ヘッドルームアプローチっていうのは、要するに「帳簿価額からのれんを引いたもの」と「回収可能価額」の差を毎年だして、それの変動を減損していこうというものです。
ヘッドルームアプローチでやっていけば、あるとき突然に巨額の減損処理をしなくても済むでしょ?ということです。
ヘッドルーム・アプローチはひとつの手段としてアリだと思うのですが、細かい点について合意が得られなかったようで、それならばいっそ簡略化して毎年償却しようか?という話になったようです。
個人的にはヘッドルーム・アプローチはいいアイデアだと思ったのですが、どうやら各国ごとに商慣習が違うため?細かいすり合わせができずに、ヘッドルーム・アプローチはやめることになったようです。
(もう一つの可能性としては、回収可能価額を基準にすることが、ネット企業などにとって厳しいという点もあるかもしれない・・・と個人的には思います。現状の減損手法であれば、赤字であろうがなんであろうが、投資先を仲間内でキャッチボールして価値を膨らませ続ければ、ずっと減損しなくていいわけです。価値の下落を認識できないわけですから。でも回収可能価額をもとにすると、それが許されなくなる・・・だから反対があったのでは、という気がしないでもない。これはあくまでも自分勝手な憶測ですが。財務会計基準審議会FASBが猛烈に反対していたとも聞きますし、そういう方面からの圧力だったのではないかなぁと。。。)
とりあえず、今回このヘッドルーム・アプローチは却下されました。
でも、国際会計基準審議会IASBとしては、やはり透明で使いやすく、わかりやすい国際会計基準を作りたいという使命はあります。
そこで、
「そんなにヘッドルームアプローチが嫌なら、のれん償却を義務化するよ」
と、脅しのようなことを言い出したのじゃないかと、個人的には思っています。
とにかく、
「少なくとも現状の会計基準のままではダメだよ」というIASBのハンス・フーガーホースト議長(Hans Hoogervorst)からの強烈なアピールにみえます。
ハンス・フーガーホースト議長(Hans Hoogervorst)は以前から「IFRSはのれんを償却しないことが問題。B/Sにのれんが多く残ってしまっていて好ましくない。定期的に償却するか、減損を早めに細かくしていけるようにするなど検討が必要」みたいなことを言っていた方です。(日経の過去の記事でたぶん出ています。テレコンとか叩ける環境にいる人は調べてみてください。)
今回の件も、このハンス・フーガーホースト議長の会計学者としての意地で始まっていると思います。
ぶっちゃけ、この人を挿げ替えないかぎり、この議論の行き着く先は、のれんの償却増大でしょう(笑)
なお、この「のれんの減損・償却」に関わる国際会計基準IFRSの問題は、ネット系企業において非常に問題になりそうです。
とくに、ソフトバンクなどのように、買収に買収を重ねてのれんを積み上げている企業において大きな問題になりそうだと思います。
IFRS採用でのれんの計上が大きい企業といいますと、日本ではソフトバンク、日本たばこ産業JT、武田薬品工業、電通、パナソニック、日立製作所あたりでしょうか。
なお米国基準だと、NTT、キヤノン、ソニー、富士フイルムなども含まれます。
今度のIDTの買収が成功すれば、ルネサスエレクトロニクスも上位にやってくることになります。(ルネサスはIFRS導入を検討中です)
で、このうちダントツで大きいのは、ソフトバンクです。
ソフトバンクの、のれん対純資産比率は69%、のれんの金額にして4.3兆円です。
これは、GEゼネラルエレクトリックの「のれん対純資産比率98%」やアンハイザーブッシュインベブの180%、ユナイテッドヘルスの100%に比べればまだまだ余裕はありますが、その代わりにソフトバンクにはソフトバンクなりの財務上のわかりにくさもありますから、本当に大丈夫なのかどうかはわかりません。
とりあえず、もし仮に国際会計基準IFRSでのれんの定額(定率?)償却が義務付けられることになれば、今まで違って、M&Aはしにくくなることが予想されます。
と同時に、アメリカの会計だけが世界で浮く形となり、別の尺度で扱われるような状態になります。
少なくとも、ベンチャー投資におけるユニコーンは激減するでしょう。実際に利益を上げているユニコーンだけが、ユニコーンとして生き残るかもしれません。
というわけで、今回のこの
国際会計基準IFRS見直して、のれんの償却費用計上の義務化検討
というニュースは非常に大きな意味合いをもちます。
軽視してはいけないニュースです。
しっかり動向をチェックしていくべき、と思います。