三洋化成工業とAPBが全樹脂型リチウムイオン電池を開発~バイポーラ構造で製造コストも安価になる可能性
中堅化学メーカーの三洋化成工業と電池ベンチャーのAPBが共同で全樹脂製リチウムイオン電池を開発
三洋化成と電池ベンチャーのAPBが、既存のリチウムイオン電池とは全く別の発想で作られたLiBを開発したとのことです。
コストも安く、釘で打ち付けたりカッターで切るなどしても発熱しにくく安全性が高いなど、非常に期待される要素を持っているようです。
今回はこの新しい全樹脂型電池についてみていきます。
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池の新しい点~バイポーラ構造
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池の新しい点は、構造が非常にシンプルなことです。
既存のリチウムイオン二次電池は、金属箔に電極材をスラリー(泥)にして塗布、乾燥、加圧という工程を経ます。
しかし三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池ではすべての部材を樹脂で構成。
樹脂製集電体にゲル状樹脂製電極活物質を塗布することで電極を形成
正極活物質を塗布した樹脂集電体と、樹脂製セパレータ、負極活物質を塗布した樹脂集電体を重ねることでセル構造を形成。
これをいくつも積み上げれば容易に直列接続のバイポーラ型電池が出来上がるというわけです。
これは凄い生産性の改善をもたらすことが予想されます。
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池はスラリー乾燥やエージングが要らない
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池は非常に低コスト化することが容易だと言われています。
先ほども書いた通り、既存の電池生産では金属に電極材を塗って、乾燥、加圧などをして作り上げます。
しかし、これには非常に長大なラインと時間が必要です。
高温、高圧にする必要もあるためエネルギーも多く費やします。
この点、三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池の開発した全樹脂型のものであればかなりコストは低減されることが予想されます。
電解液を含ませた正極電極材のゲルを注入したのち、樹脂製セパレータを置いて、すぐに今度は負極電極座のゲルを注入すればいいだけです。
かかる時間はかなり低減されることが予想されます。
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池は安全性が高い
会社側の説明によると、今回開発された全樹脂製電池は折り曲げたり、釘を打ち付けたり、カッターで切ったりしても発火しにくいとのことです。
既存のリチウムイオン電池では集電体の金属箔などが衝撃で接触することにより短絡が発生。
急激に熱が発生し、ガスが発生して爆発が起きるなどの事例があります。
しかし樹脂製であれば抵抗値が高い材料がほとんどなのでそういったことが起きにくいとのこと。
電流引き出し部などは抵抗が低いので対策は必要のようですが、少なくとも既存のシステムよりは遥かに安全性が高いようです。
三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池は超低コストか
先ほども書いたとおり、三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池は製造工程が単純化されるもようです。
このことにより、会社側説明によると非常に低コスト化が可能とのこと。
とりあえず、当面の価格目標として15円/Whが目標となっているほか、将来的には10円/Whも視野に入っているとのこと。
(日経エレクトロニクス 2019年2月14日)
三洋化成工業がAPBを子会社化
なお、この全樹脂製電池の開発はAPBの堀江英明社長(慶応大学特任教授)が立ち上げたものとのこと。
この堀江特任教授はもともと日産リーフの電池開発者として研究していたものの、日産が電池事業を売却するなどしていく中で独立
2018年10月にAPBを設立し、
2019年2月に三洋化成工業の子会社になったとのことです。
私見:三洋化成工業とAPBの開発した全樹脂製電池について
個人的には、さまざまな報道をみるなかで、この全樹脂製電池の目的用途のなかにEVが含まれていないことが気になっています。
また、日産が20年ちかく研究を続けてきたものを手放した理由も気になります。
思うに、構造的に衝撃に弱いか、温度耐性がなさすぎるかしたのではないか、と見ています。
とりあえずは産業用の蓄電池などの用途をみているようですが、今後民生用にも応用がされるかどうかは、ひとえにそのあたりの克服が必要なのではないかとみています。
以上です。