【5301】東海カーボンによるCOBEX(コベックス)買収は高すぎる可能性
東海カーボンがドイツのCOBEX(コベックス)を買収
東海カーボンは2019年6月17日、ドイツのCOBEX(コベックス)社をPEファンドのトライトンから買収すると発表しました。
COBEX(コベックス)社はアルミ精錬用カソードで世界トップシェア、高炉用ブロックなどでも有数のポジションにある企業です。
東海カーボンによるCOBEX(コベックス)社の取得価格は約1000億円とのこと。
資金調達は手元資金を活用するほか、ブリッジローンによる借入を行うとのことです。
COBEX(コベックス)社は元SGLカーボンの一部門SGL CFL
ここでCOBEX(コベックス)社の沿革について軽く触れておきます。
COBEX(コベックス)社はもともと黒鉛電極大手のSGLカーボンの一部門でした。
それが2016年に分社化され、SGL CFLとなりました。
(この時点で、SGL社は人造黒鉛電極事業とアルミ精錬用カソード事業などを売却予定でした。)
その後、SGLカーボンの黒鉛電極事業は昭和電工が買収。
2017年、SGL CFLはPEファンドのトライトンが買収することになります。
トライトンによるCOBEX(コベックス)社の買収金額は2億5000万ユーロ?
トライトンは2017年8月8日にSGL CFLをSGLから買収すると発表します。(のちのCOBEX(コベックス)社です)
この時点で発表されたのは、2億5000万ユーロ(現金・債務なし)です。
SGL側が年金基金の整理などを行った上で、現金と債務を付けずに2億5000万ユーロで売却する、という内容だったようです。
その後、この契約に基づく取引は2017年第4四半期に行われたようです。
当時のユーロ相場は1ユーロ130円程度ですから、およそ325億円の買収金額ということになります。
トライトンはCOBEX(コベックス)社への約1年半の投資で700億円弱の儲け?
上述するように、トライトンがCOBEX(コベックス)社へ投資した時点では約325億円でした。
今回、東海カーボンがCOBEX(コベックス)社の買収に使う金額は1000億円。
差額の700億円弱はトライトンの稼ぎになります。(もちろん仲介手数料やマネージャーの報酬などもありますが。)
たった1年半の投資期間で700億円弱の儲けとは驚きです。
トライトンに売却したSGL社が損をしたか、東海カーボンが損なディールをしているか、どちらかではないでしょうか。
東海カーボンによるCOBEX(コベックス)社買収は収益のピークでの投資?
東海カーボンは今回の買収につき、個人投資家にもわかりやすいように資料を提供しています。
これによると、
- 大型高炉の改修が増えることで高炉用ブロックの需要が増えること
- COBEX(コベックス)社の技術力・シェアが高いこと
- COBEX(コベックス)社の事業領域と自社の既存事業とのかぶりがないこと
などの利点が挙げられています。
たしかにそういった意味では悪くないかもしれません。
ただ、同社はこの買収の根拠となるEBITDAを単年度でしか公表していません。
こういったものは経過をみせるべきで、本来であればSGLカーボンから分離された2016年頃からの業績の推移を開示するべきでしょう。
それをせずに、景気のピークだった2018年のEBITDAしか見せないのでは、投資家としても不安感を覚えるのは当然ではないかと思います。
(基本的に、アルミは市況に大きく振れる製品ですから、景気悪化で市況が落ちた時の痛みがどの程度あるのかをみるためには、過去の経過をみることが重要です。)
ホール・エルー法からの転換は、COBEX(コベックス)社にとっては死活問題?
現在、唯一商業的に成立しているアルミ精錬方法は、ホール・エルー法といわれるものです。(高校の無機化学の教科書にも出てくるくらい有名かつ単純なものです。)
ボーキサイトからバイヤー法によってアルミナを濾過抽出し、そのアルミナをホール・エルー法によって電気分解してアルミニウムに精錬します。
この大きな問題点としては、大量の電力を消費することと、大量の二酸化炭素を放出することです。
現在、アルコアやリオティント、Appleなどがこのホール・エルー法に代わるアルミ精錬方法の開発を急いでおり、もしそれが実用化されることになると、COBEX(コベックス)社が得意とするアルミ精錬用部材の多くが影響を受けることになります。
具体的にどれだけの期間で新しい技術が開発され、その技術がどれだけの優位性を持っているか、そういったものはまだ不明です。
ただ、リスクのひとつとしては理解しておいた方が良いと思います。
とりあえず、今回の買収は個人的にはかなり高い印象があります。
以上。