新日鉄住金、印エッサールをミタルと共同買収・・・の愚 その1

新日鉄住金がインド製鉄4位エッサールをアルセロール・ミタルと共同で買収するそうです。

新日鉄住金:印エッサール共同買収へ、「成長ドライバーに」

新日鉄住金に迫る保護主義 「西に進路を取れ」

 

 

まったく、新日鉄という会社は過去から学んでいません。

POSCO宝鋼ウジミナス・・・と続く失敗を完全に忘れ去っているかのようです。これら鉄鋼メーカーと新日鉄住金との関係について、ちょっと思い出してみましょう・・・

 

 

新日鉄が支援したPOSCO(Pohang Iron and Steel Company,ポスコ,浦項総合製鉄)

時価総額世界第三位の鉄鋼メーカー。株式コードは005490.KS、PKX(NYSE)

韓国を代表するこの製鉄企業は、もとを辿れば1973年に新日鉄住金(当時は八幡製鉄と富士製鉄)と日本鋼管(現在のJFE)の技術導入により、日本側の全面的資金協力のもとに設立されました。その後も日本側の資金で拡張を繰り返した企業です。

ところがこのPOSCO、大きくなるにしたがって徐々にその本性をあらわし始めます。

90年代の日本は構造不況により鉄鋼メーカーも大赤字に転落するのですが、そんな状況でもPOSCOはせっせと設備投資を繰り返します。もとより日本側の資金で作られてますから資本コストが低いですし、日本側の技術協力で最新鋭設備を導入していますから、日本のメーカーよりも低コストで生産できました。だいたい日本企業の2/3のコストで生産できると言われていました。90年代後半以降、日本の鉄鋼メーカーは大規模なリストラと業開再編を余儀なくされます。NKK(日本鋼管)と川崎製鉄が合併してJFEに、新日鉄と住友金属が合併して新日鉄住金になりました。

さらにPOSCOは日本企業を追い詰めます。

なんと、これほどの恩義を受けておきながら、POSCOは新日鉄の電磁鋼板のパテントを盗んでいました。裁判の結果、新日鉄住金はPOSCOから300億円の支払いを受けることで和解しましたが、たった300億円とも言えます。

この裁判において、ポスコ本社の社長の意思決定により日本から機密情報が盗用されており、同社東京研究所の実態については、「研究所とは名ばかりで実験設備は何もなく、もっぱら日本の鉄鋼メーカーの情報を収集し韓国の本社に送っていた」とする同社元社員の陳述書 (Wikipedia)

が提出されたそうです。あきれてものが言えません。さすがです・・・

ちなみに新日鉄とPOSCOは株式の持ち合いをしていますが、韓国企業にはそんなことは関係ないようです。仁義もへったくれもないです。恩を仇で返すとはまさにこのことです。


新日鉄による印エッサールへの出資は、これと似た展開になりかねません。

過半出資をとれればいいですが、マイナー出資であればエッサールを通じてミタルに技術がダダ洩れする可能性が高いと思います。

きっと今回も政府・経産省の圧力がかかっているのでしょうが、長い目で見た場合に企業価値向上につながるようには到底思えません。

まったく愚かだと思います。

 

 

とりあえず、長くなりましたのでウジミナスと宝鋼については次の記事に回します。

 


 

追記:新日鉄・ミタルによるエッサール・スチール買収が決定したようです。

 

新日鉄住金の連合、再建手続き中の印鉄鋼エッサールの落札者に … 時事通信

インドの破産法手続きの面倒くささから買収・入札作業が滞っていたエッサール・スチールへの買収ですが、ここにきて進展がありました。

やはり、下馬評通り、新日鉄とアルセロール・ミタルの連合がエッサール・スチールの買収をするそうです。

 

先にも書きましたが、これは全く愚かなことだと思います。

間違いなく、今回の件で新日鉄の優れた技術がエッサール・スチールを経由してアルセロール・ミタルへ流れることでしょう。

新日鉄はブラジル、ウジミナスでの経験から、自社単独での公道よりも現地で有力者に繋がる企業と提携した方がいいと判断したのかもしれません。

しかし、それは間違いなく仇となります。

POSCOや宝鋼集団など、新日鉄が合弁を組んだ企業はどうなったでしょうか?

いまでは新日鉄のライバルとして、鉄鉱石や原料炭の調達では競合し、販売面でも価格競争を仕掛けてきています。

しかも、POSCOに至っては新日鉄が大事に隠していた電磁鋼板の技術すら盗みにかかりました。

 

 

ミタルはただ図体が大きいだけの鉄鋼メーカーだが、エッサール経由で新日鉄の技術を得られれば無敵化する可能性があります。

アルセロール・ミタルはただただ図体が大きいだけで、古い設備を寄せ集めた、低付加価値大量生産モデルの企業です。

たしかに粗鋼生産量シェアは世界一、9700万トンクラスで新日鉄住金の2倍以上ありますが、新日鉄が供給するような高付加価値な電磁鋼板、ハイテンなどの比率は極めて低い。

今回、新日鉄とエッサールスチール買収で合弁を組み、そして出資比率はアルセロールミタルの方が上であることは、新日鉄にとっては特許や、特許に載っていない知財の流出の危険性を非常に強めます。

もちろん、新日鉄とアルセロール・ミタル、新日鉄とエッサール・スチールとの間では、それなりに守秘義務契約などが結ばれているはず。

しかし、そういった条項の隙間をつくのがインドの上手なところです。

また、条項に隙間がなければゴネるのもインドの上手なところです。

今後、エッサール・スチール、そしてアルセロール・ミタルと新日鉄との間で、宝鋼やPOSCOとかつてあったような知財問題が繰り返されるでしょう。

 

あのときエッサール・スチールの買収をやめておけばよかった・・・

きっといずれ、新日鉄はそう考える日が来ると思います。

 

今回のインド事業への新日鉄の投資は、経済産業省が後押ししているとも聞きます。

ようするに、中国に対抗する拠点としてインドで製造拠点を作りたいが、化学製品はサウジのプラントから送れるとして、鉄鋼が良いものが手に入らない。新日鉄さんどうよ?

というわけです。

これにポンと乗ってしまった新日鉄。

いままで経済産業省の進めるものに乗っかって良いことなったのってあったんでしょうか・・・MRJ含め、いろいろ疫病神な気がするんですが。

 

 

とりあえず今回、新日鉄住金はエッサールへの投資を決めてしまいました。

もう引くことはできません。

最後にひっかぶるのはどうせ株主です。

おつかれさまでした。