ウーゴ・チャベスのもと国有化が進行したベネズエラの原油・エネルギー事情をみてみよう【PDVSA】
今回は、ウーゴ・チャベス大統領の下でエネルギー産業の国有化を進めた結果、外資が撤退しまくって上流権益の更新ができなくなり、結果としてハイパーインフレを招いてしまったベネズエラの原油・エネルギー産業についてみていきます。
まずはこちらをご覧ください。
こちらはベネズエラの原油・エネルギー事情をグラフ化したものです。
近年、急激に原油生産量、石油精製量が落ちています。
これは、上流権益の更新が滞り、原油生産に障害を抱える施設が増えているためです。
このきっかけを作ったのが、南米左派政権のリーダー的存在であった、ウーゴ・チャベスです。
「21世紀の社会主義」を掲げたベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は、低所得者層に住居を無料で与えたり、国民皆医療を実現するなど強権的なポピュリズム政策を乱発します。
2007年、ウーゴ・チャベス大統領はベネズエラ国営石油会社PDVSAに外資(コノコフィリップスとエクソンモービル)のエネルギー上流と中流権益を接収させました。(超重質油を改質するための設備なども含む)
当然、こういったことをすれば米国から経済制裁を受けるのはアタリマエ。
金融制裁、経済制裁措置が発動されます。
なお、それでも米国内の関連ガソリンスタンドへの供給を継続し、2015年の時点でベネズエラの石油販売先の1位は米国になっていました(全売り上げの45%くらい)。
とりあえず、大口販売先に喧嘩を売ったベネズエラはなかなかに阿呆だと思うのですが・・・
経済制裁によって、ベネズエラ国営石油会社PDVSAは上流権益の維持、更新に必要な設備・資材に問題が発生することになります。
シュルンベルジェやベーカーヒューズなどの掘削機器、サービスを提供する企業はすべて米国企業ですから、経済制裁でこれら企業と取引できなくなるということは、現在くみ上げている原油を売ったらそれでおしまい、ということです。
かくして、ベネズエラの原油生産量は激減することになっているわけです。
なお、ベネズエラは1976年にエネルギー産業を国有化していますが、この時も同様の減少を示しているのはたまたまではないでしょう。
ベネズエラの人はつい四半世紀前のことすら学ばなかったということになります。
なお、ベネズエラは世界一の原油埋蔵量を誇ると言われています。
ベネズエラの原油埋蔵量はなんと、サウジアラビアよりも多いんです。
実際にはさらに多いと思われています。つい最近も同じカリブ海に面した南米ガイアナやスリナムなどで世界最大級の油田が見つかっています。※1
ちなみにベネズエラのオリノコ川流域には超重質油が大量に埋蔵されているオリノコベルトといわれる地帯があるのですが、このままだとこれが全く手つかずのまま、再生可能エネルギーの時代に突入してしまうことになります。
いわゆる座礁資産(Stranded Asset)というやつです。
エネルギーがコストゼロで調達できる時代になったら、原油埋蔵量なんて意味を持たなくなります。
そういう時代になる前に、埋蔵している原油を汲み上げて、精製して現金化することが必要なのですが、ベネズエラはそれができそうにありません。外資が入ってきてくれないからです。
世界一の原油埋蔵量を誇るベネズエラが経済的に困窮してインフレ率1000万パーセントとか、すごい教訓話だと思います。
重要なのは新しい権益を手に入れようと頑張ることではなく、いまあるリソースをより効率的に利用すること。
これは第二次世界大戦前の日本にもいえることです。南インドシナなんて行かずに大慶油田掘ればよかったということ。
すぐ足元にちゃんと大きな油田があるのに、それをみすみす逃して他の国と衝突して自滅。
とりあえず、いまのベネズエラはそれと似ています。
とりとめのない文章になりましたが、今回のコラムは以上です。
※1・・・なお、ガイアナの巨大油田はエクソンとヘスが開発していますが、この海域に関してベネズエラは領海であると主張しており、いろいろとやっかいなことになっているようです。