資源大手フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の2018年第1四半期決算
金鉱株として愛好されている資源大手フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の2018年第1四半期決算について、ホームページ上で同社が公開している資料をもとにみていきます。
まずは決算数字をみてみましょう。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の2018年第1四半期売上高 48億6800万ドル (前年33億4100万ドル)、 営業利益14億5900億ドル (前年5億9700万ドル)、EPS0.47ドル (前年0.16ドル)
資源価格の上昇によりフリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の業績は順調に推移しているようにみえます。同社の主要取扱資源である銅、金、モリブデンごとにみてみましょう。
前年同期比で、銅価格は1ポンドあたり2.67→3.11ドルに上昇。生産コストは1.60→1.67ドルに上昇しましたが、副生成物の価格上昇と生産量の拡大851百万→952百万ポンドにより、ネットキャッシュコストは1.39→0.98ドルに低下しています。
金(ゴールド)は生産量が239千→599千オンス、価格が1オンスあたり1229→1312ドルに上昇しています。
モリブデンは生産量が23百万ポンド→22百万ポンドに減少、価格は1ポンドあたり8.71→11.95ドルに上昇しています。
つぎに、地域ごとにみていきます。
まずは北米です。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の北米鉱山のうち、銅の副生成物でモリブデンを生産している(バイプロ)が、モレンシ(Morenci)、バグダッド(Bagdad)、シェリタ(Sierrita)、チノ(Chino)、銅単独がマイアミ(Miami)、タイロン(Tyrone)、フェルプスドッジから買収したサフォード(Safford)、モリブデン単独はコロラド州ヘンダーソン(Henderson)、クライマックス(Climax)
・・・などですが、近年はこれら鉱山からの生産量が全体的に減少してきています。増えているのはバグダッドのみ。資源価格は上昇していますが、人件費等も高騰しているため採算が厳しい鉱山が増えています。
次に南アメリカです。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の南米鉱山はエル・アブラ(El Abra)と、バイプロ鉱山のセロ・ベルデ(Cerro Verde)が有力
チリのアントファガスタ州エル・アブラ鉱山は、フリーポートマクモランとチリ国営鉱山会社コデルコ(CODELCO)とのジョイントベンチャー。周辺にはコデルコのチュキカマタ鉱山などもある良立地で生産量も増加中。
ペルーのアレキパ県セロ・ベルデ鉱山はペルーの産金大手ブエナベンチュラ(Compania de Minas Buenaventura )、住友金属鉱山、住友商事他のジョイントベンチャーが運営する銅・モリブデンのバイプロ鉱山。かつてサイプラスアマックスが所有していたものをフェルプスドッジが買収し、そのフェルプスドッジをフリーポートマクモランが買収して同社の権益となった経緯です。かつては世界有数の良い鉱山でしたが、近年は生産量が減少気味です。
総じてみると、南米事業はほぼ横ばい圏となっています。
最後にインドネシアをみてみましょう。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )のインドネシアにおける鉱山と言ったら、パプア州グラスベルグ鉱山(グラスバーグ/Grasberg)です。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の産金量のほぼ99%と、銅生産量の40%を占めるグラスベルグ鉱山は、世界最大の金鉱山でもあり、二番目に大きい銅鉱山でもあります。近年、生産量が回復しており、フリーポートマクモラン社にとっては減少の続く北米、南米と異なり、非常に有望な鉱山となっています。当然、インドネシアという国にとっても非常に大きな存在です。インドネシア政府の干渉を常に受け続けています。
パプアニューギニア島にあるグラスベルグ鉱山ですが、かねてより環境汚染と労働環境の問題が取り沙汰されてきました。鉱山の環境悪化に怒った地域住民との間で紛争がおき、軍による鎮圧で死者が出たことも一度や二度ではありません。
インドネシア・スハルト政権時代には、元CIAの軍事顧問などを利用して強姦や拷問が頻発していたとのことで、2012年のPublic Eye Awardsの6位に選ばれてしまいました。1975年から1997年の間にフリーポートマクモランが運営するグラスベルグ鉱山では160人もの原住民が殺されたとのことです。
そのような経緯を辿っていますので、スハルト政権が倒れて、かつてのスカルノ政権の流れを汲む闘争民主党系の政府に代わった現在のインドネシアでは、フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )への風当たりが非常に強い・・・接収とまではいかないのですが、安価で譲り渡すように様々な圧力がかけられることとなっています。その一つが環境規制の強化なのですが、あまりにも厳しい規制のために経営が成り立たないのではないか、とまで言われる状況になっているようです。詳しくはリンク先(フリーポートマクモラン株急落~世界有数の金鉱山閉鎖の可能性~途上国は中国と米国のあいだを泳ぐ~)をご覧ください。
先程も書きましたが、
グラスベルグ鉱山(グラスバーグ鉱山)はフリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の銅生産の約40%、金生産のほぼ100%を占めています。また、減少の続く北米や南米の鉱山と異なり、生産が回復してきています。
かつて金鉱株、鉱山株として人気を誇ったフリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )ですが、現在ではその産金拠点がほぼグラスベルグ鉱山ひとつになっています。
つまり、グラスベルグ鉱山(グラスバーグ鉱山)の一本足打法ということです。インドネシア政府が介入してきたら、すぐにぶっ倒れかねない危険な状況にあります。
とりあえず、同社はグラスベルグ鉱山と一蓮托生です。その命脈はインドネシアが握っています。そして、インドネシアに対して圧力を加えるアメリカ政府がケツ持ちです。ですから、拷問などに元CIAの軍事顧問なんて雇われることになったんでしょうが・・・。
問題は、このアメリカの外交力、軍事的圧力などが今後も機能し続けるか?という点だと思います。グラスベルグ鉱山は何度も書きますが、世界最大級の金鉱山であり銅鉱山です。銀も産出します。どこの国も影響力を持ちたいはずです。
中国が手を伸ばさないとも限りません。
個人的には、まだそこまではならないと思いますが、いずれリスクのひとつとして見えてくるのではないか?と思っています。その前に鉱山が枯渇する?いえ、たぶん周辺でまた良い鉱山が見つかります。そういう地域です、このパプアニューギニア島一帯は。
とりあえず、フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )の株価もみてみましょう。ティッカーはFCXです。
PERは2019年コンセンサスベースで15.7倍です。
EV/EBITDAは2019年コンセンサスベースで5.50倍です。
バリュエーションだけを見れば悪くないです。
問題は、地政学リスク、インドネシアの政治リスクです。
フリーポートマクモラン( Freeport McMoRan )への投資を考えるならば、インドネシアの政治リスクへの注意が一番大切です。金や銅の価格を追うよりも大切だと思います。政治リスクはマーケットに対しては突如降りかかります。長年この稼業をしてきて思いますが、チャートを見ていてもそれを見抜くことはなかなかに難しいです。そういう意味で、同社はトレーダーよりも国際政治学者向けな株式であると、おいらは思います。
以上です。