経産省所管・産業革新機構(INCJ)が改編され、産業革新投資機構(JIC)が発足~過去の総括をしないまま見切り発車へ~
改正産業競争力強化法施行を受け、経済産業省所管の官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」が発足しました
将来の成長企業 選別 産業革新投資機構が発足 日本経済新聞
産業革新投資機構(JIC)の当初の投資能力は産業革新機構(INCJ)と同じ2兆円ですが、産業革新機構(INCJ)時代の未回収資金一兆円分などを今後上乗せすることで、投資規模は現時点より大きくなるということです。
ふつう、ファンドなどはいったん解散したあとで新たなファンドを組成すると思うのですが、産業革新機構(INCJ)は産業革新投資機構(JIC)に改組され存続、さらに新たな資金が投入される・・・という不思議なことになっています。
しかも、産業革新機構(INCJ)発足時には投資期間を2025年と設定していたのに、それも延長されてしまいました。
これまでの総括を好い加減にして、追加で数兆円単位でファンド組成・・・ほんとにこれでいいんでしょうか?
しかも、ベンチャーキャピタル的な役割に立ち返るといいながら、2兆円も3兆円も必要なんでしょうか?
いろいろと突っ込みどころが多い今回の再編
とりあえず、これまでの経緯を振り返ってみましょう。
産業革新機構(INCJ)は企業救済型プライベートエクイティファンドか?それともベンチャーキャピタルか?
もともと産業革新機構(INCJ)は2009年に発足した当初から「産業革新機構のカネはゾンビ企業救済に使われるのではないか?」と危惧されてきました。
当時、サブプライムローン問題を起点にした世界的不況のなかで日本株はメタメタに売り込まれていました。
そんなさなか、
「日本株が海外企業に買収されるのではないか?」「ハゲタカ・アクティビストファンドに狙われる!」みたいなヒステリーが日本を覆っていました。
ちょうどドラマ「ハゲタカ」などがNHKで放映されていたのが2008年頃です。
村上世彰氏(村上ファンド代表)に東京高裁が有罪判決を下したのが2009年です。
「(デイトレーダーは)最も堕落した株主の典型。ばかで浮気で無責任だから、議決権を与える必要はない」と発言した北畑隆生(きたばた たかお)が経済産業事務次官をつとめていたのが2006~2008年です。
スティール・パートナーズがブルドックソースの「濫用的買収者」であると東京高裁に言われてしまったのが2007年です。(どこらへんが濫用なのかサッパリわかりませんが)
ようするに、当時の日本株市場っていうのはそういう世界でした。経産省が主導するムラ社会だったんです。
何となく当時の空気感が伝わればいいなぁと思います。
そんな集団ヒステリーの中で作り上げられたのが、産業革新機構(INCJ)です。
産業革新機構(INCJ)は設立当初から、企業救済が目的なのはミエミエでした。
また、情実による投資が行われる可能性を指摘する声もありました。それでも麻生太郎内閣はリーマンショック後の補正予算に強硬にねじ込み、法案を通し切りました。
その結果、どうなったでしょうか?
産業革新機構(INCJ)はベンチャー投資で失敗し、逆にプライベートエクイティ(PE)的な投資で成功するという、本来の役割からほど遠い結果が待っていたのです。
革新機構、苦戦のベンチャー投資 日本経済新聞
産業革新機構(INCJ)のベンチャー投資は8割が失敗、しかも全額損失というすがすがしさ。
もちろん、ベンチャー投資ですからモノになる率が低いのはわかります・・・しかし・・・どうも個人的には産業革新機構(INCJ)はあかんように思います。
Wikipediaに産業革新機構(INCJ)の投資先が載っていますが、果たしてどれだけ有望だと思いますか?
産業革新機構(INCJ)にはMiseluという投資先がありました。
このMiselu、産業革新機構(INCJ)が追加投資してから半年後に破綻したんです。
どう考えても産業革新機構(INCJ)にはベンチャー投資をしていくだけの能力がない・・・目利き力もなければ、インキュベーターとしての能力もないように思います。
逆に、ルネサスへの投資では利益を出していますが、これはあくまでもプライベートエクイティ的な投資であって、なにも産業革新機構(INCJ)がやる必要はなかったはず。
産業再生機構や企業再生支援機構とやってることが同じ。それは産業革新機構(INCJ)はやらんというのが当初の約束だったはず。
「儲かったんだからいいだろ?」という話ではないんです。
官が儲かったということは、民がそのぶん割りを喰らったということですから。
本来なら官がやらずに民がやっていればよかったんです。
エルピーダはマイクロンになりましたし、シャープは鴻海傘下になりました。それでいいんです。
そういうのを嫌がって、政府が企業救済に走ったのが、ルネサスであり、ジャパンディスプレイJDIでした。
あきらかに、これは産業革新機構(INCJ)の仕事ではなかったはずです。
これをふまえて、新たに作る産業革新投資機構(JIC)では、育成重視のベンチャーキャピタル的な立ち位置に戻るそうです
脱・延命で原点回帰 投資基準明示、育成重視へ 日本経済新聞
・・・が、これはどうにも疑問です。
産業革新機構(INCJ)の設立から10年程度経ちました。
この間、ベンチャーキャピタルの多くは莫大な利益を上げています。
しかし、産業革新機構(INCJ)のベンチャーキャピタル部門は赤字です。
これがすべてを証明していると思います。
なお、会計検査院の調べによると、政府系ファンドの投資損益は2017年3月時点で全体の4割強の6つが損失を抱えた状態とのこと。
この記事の表をみればわかりますが、実質的にちゃんとした利益を出しているのは産業革新機構(INCJ)と地域経済活性化支援機構(REVIC)だけでしかない。
しかも地域経済活性化支援機構(REVIC)は大きな黒字を出しているようにみえますが、これ、別に地域経済活性化で上がった累積損益じゃありません。
地域経済活性化支援機構(REVIC)が企業再生支援機構だったころのJAL再生&再上場によるもので、本来の目的(中小企業融資)と違った稼ぎだったあたりは、産業革新機構の問題点と同じです。(しかもJAL再上場までの動きは非常にズルが多かった。このことについてはいずれ書きたいと思います。)
つまるところ、産業革新機構(INCJ)は本来の役割であるベンチャーキャピタルをちゃんとやっていないし、地域経済活性化支援機構(REVIC)は本来の中小企業融資でたいして稼いでいない。
稼いでいないし、できるだけの能力もない。
にもかかわらず、今回、政府は追加出資で産業革新機構(INCJ)を規模拡大させ産業革新投資機構(JIC)を作ろうとしているわけです。
っていうか、そもそもなんでベンチャーキャピタルやるのに2兆円も3兆円も必要なんでしょうか?
PEファンドやめるっていってましたよね?
もうこの時点でいろいろ終わってると思います。
これをプランつくった奴がどうかしてます。
産業革新投資機構(JIC)は産業革新機構(INCJ)時代の失敗を総括していないのですから、きっとまた、同じことが繰り返されます。
一番の失敗は、ガバナンスの問題だと思います。
結局のところ、官によるチェックは民よりも甘すぎる・・・
この問題が解決されていないのですから、うまく行きようがないんじゃないかと思います。
いずれ、財政投融資資金を財源としている産業革新投資機構(JIC)は公的資金で救済されることになるでしょう。
一時的に皆は騒ぐでしょうが、きっとすぐに忘れます。
産業革新投資機構(JIC)の失敗はすでにみえていることなのに、人々はいま騒がずに後になって騒ぐんです。
ほんと、いろいろお疲れ様です。。。