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独露首脳がノルド・ストリーム2の推進で合意~ウクライナの立場が危うい~

メルケル首相とプーチン大統領が会談、海底ガスパイプライン・ノルドストリーム2の推進で合意~ウクライナの立場が極めて危険になる可能性~

 

ロシアのプーチン大統領が2018年8月18日にドイツを訪問し、ドイツのメルケル首相と会談しました。プーチン大統領がドイツを訪問するのは2014年以来4年ぶりです。

この会談の中で両者は、先月トランプ大統領が間接的に批判したロシア産ガス供給パイプライン「ノルドストリーム2」の推進で合意しました。

7月のNATO北大西洋条約機構年次首脳会議の会談冒頭で、トランプ大統領はロシアとドイツが進める海底ガスパイプライン・ノルドストリーム2を指し「ドイツはロシアの捕虜だ。ロシアから大量のガス、石油を買っている。」などと批判しました。

これを受けた7月25日のユンケルEU議長とトランプ米大統領との会談では、EUが米国産LNGの購入を拡大することを約束。米国による追加関税措置の回避が図られました。

そして今回メルケル首相とプーチン大統領の間では、やはりノルドストリーム2の推進が合意されました。

これはロシア産天然ガスの輸入拡大を合意したも同然であり(パイプラインが増強されるのですから)、今後この件でトランプ大統領の不評を買うことがあるかもしれません。

これらの出来事からは、EUが現在、うまい具合に中立外交を展開していることがみてとれます。

ただし、この中立外交はあくまでもEU西側のためのもの。この中立外交方針の帰結として、ウクライナの立場は非常に危ういことになる可能性があります。

 

 

とりあえず、ノルドストリームとはなんぞや、というところからちょっと説明したいと思います。


ノルドストリーム(Nord Stream)とは?

ノルドストリームとは、ロシアのヴィボルグ(Vyborg)からバルト海を経由し、ドイツのグライフスヴァルト(Greifswald)までを繋ぐガスパイプラインのことです。

このノルドストリームが最初に計画されたのがいつなのかは定かではありませんが、明らかなことは「ウクライナによる相次ぐガス代未払い」と「2004年のウクライナのオレンジ革命が大きな影響を及ぼしている」ということです。

ウクライナには、領内を通る天然ガスパイプライン(兄弟パイプラインとソユーズパイプライン※)があるのですが、ウクライナは長年ロシアから格安価格で天然ガスを供給して貰っていました。※ソユーズ=同盟

ところが、ウクライナはあろうことか、この代金の支払いをしょっちゅう渋り、未払い問題をおこします。(これはユシチェンコ/ユーシェンコの時代だけでなく、親露政権であるクチマ政権の時代からかわらずです。)

ロシアがこれに対抗してウクライナに供給していたぶんの天然ガス供給を削減したところ、ウクライナはパイプラインから天然ガスを勝手に窃取・流用するなどの行為を頻繁に行い、欧州側でガスの圧力が不足する事態が発生しました。

さらには2004年にオレンジ革命が発生、ウクライナとロシアとの関係は徐々に険悪化に向かいます。

この時点でウクライナを経由するソユーズパイプライン、兄弟パイプラインは既に建設から40年近くが経過していたのですが、ロシア側としてはこのウクライナを通過するパイプラインの修繕をするよりも、新たに別の場所にパイプラインを作った方がいいかも・・・ということになりました。(なお、のちにこの方針の正しさは2009年1月のウクライナとロシア間のガス紛争で証明されることになります。)

当時のドイツ首相であったシュレーダー首相とプーチン大統領の会談で、バルト海の海底をとおるガスパイプラインの敷設案が合意に至り、これがのちのノルドストリームとなりました。

ちなみに、シュレーダー首相はその後、ノルドストリームAGの取締役ポストに天下り。正式署名をしたのはメルケル首相になってから(2005年)だったと思います。

とりあえず、そんな経緯を辿っています。

 

 

 

次にノルドストリームの諸元や出資状況についてみてみます。

第一期であるノルドストリーム1のスペックは全長1222㎞、最大流量550億立方メートル、口径1220㎜(48インチ)、総工費は134億ユーロ(海底部で74億ユーロ、陸部60億ユーロ)
事業主体のノルドストリームAGにはガスプロム(Gazprom)が51%出資、他にUniper(事業開始当初はE.ON、のちに上流部門と下流部門で分離)、BASF傘下のエネルギー企業Wintershall、オランダのガス配給会社Gasunie
ノルドストリーム1は2011年5月までに敷設され、2011年11月8日に稼働開始

Wikipediaによると以上です・・・が、これはちょっと訂正が必要。

以前のEU規則ではパイプラインの容量の半分を空けて置く必要があったのですが、ノルドストリームから陸揚げしたあとのパイプラインの容量は大きくなかった。そんなわけで、2017年までは本来の輸送能力の半分以下しか送れなかったはず。

なお、第二期であるノルドストリーム2のスペックは概ねノルドストリーム1に同じ。事業主体企業には当初Gazprom 、英蘭系エネルギー大手Royal Dutch Shell、オーストリア系エネルギー企業 OMV 、電力ガス大手Uniper(もとE.ON)、フランス系インフラ大手Engie(元GdF Suez)、オランダ系ガス配給会社Wintershallが出資する予定でしたが、ウクライナ、ポーランドなどの横やりで出資は頓挫(※1)、結局ガスプロム一社がノルドストリーム2期を担当することとなった。

※1 ウクライナはロシアとクリミア半島の帰属を巡って紛争を抱えており、かつこのパイプラインが完成したあかつきには、老朽化が進むウクライナ経由のソユーズ・ガスパイプライン、ブラザーフッド・ガスパイプラインへの修繕・更新投資が行われない可能性が出てきます。そんなわけでウクライナは欧州エネルギー共同体参加国であるため、拒否権を行使しました。

 

なお、ノルドストリームに流すための天然ガスはユズーノ=ルスコイ、先日書いた記事でも紹介したヤマル半島のヤマルガス田、また最高に難度の高いと思われるシュトックマン・ガス田なども開発され次第、このパイプラインを利用することが想定されているようです。

(ただ、シュトックマン・プロジェクトはかなり難易度が高そう。天然ガス価格がよほど高騰しないかぎり無理だと思われます。)

商船三井の砕氷LNG船が中国入港 ヤマルLNGプロジェクト本格稼働へ

 


なお、ご存知のとおり、ロシアとウクライナはクリミア半島の帰属問題を巡って紛争中です。

一応今回、独露会談のなかでは、

「ノルドストリーム2の完成によって既存のウクライナを通るソユーズ・ガスパイプラインの供給量が減少することがない」

旨の声明を織り込むことには成功したもようですが、明らかにウクライナとしてはロシア側に強く出にくくなったのは確かだと思います。また、

ノルドストリーム2完成後もソユーズ・ガスパイプラインの存続を確約することは、ある意味で逆にウクライナの危険性を高めることになるのではないか?

と個人的には思います。

というのも、先ほども書いたとおりノルドストリーム2はロシア側100%資本なわけです。しかもロシアから直接ドイツに送ガスできます。

これに対して、ソユーズ(同盟)ガスパイプラインや兄弟ガスパイプラインはウクライナを通過します。途中で抜き取られたり、送ガスのコストを請求されたりします。

ロシア側としては、ブラザーフッド・パイプラインとソユーズ・パイプラインを経由するガスは減少させたい、、、そう考えても不思議じゃないと思います。

でも約束ではウクライナ経由のガスの送気量は維持しなければならない・・・

どうするでしょう?

ロシア側は、わざとウクライナとの紛争を激化させたり、ガスの料金設定を巡って揉めたりするのではないか?

そんな気がします。

そこまでしないにしても、ウクライナに対してかなり強気な交渉をしかけてくることが予想されます。

 

この懸念はポーランドも持っているようで、さっそくポーランドのチャプトウィチ外相が、独露首脳間でノルドストリーム2の推進が決定されたことに対して懸念を表明しています。

「ポーランドは米国と同じ意見。ノルドストリーム2は欧州ガス市場におけるロシアの支配力を増強してウクライナにとって脅威となる有害なプロジェクト」

要約するとそんなことを言っています。

Poland and Germany disagree over planned Russian gas pipeline …

 

 

自分もまったく同意見です。

ノルドストリーム2はロシアにとって非常に有利。そして、ウクライナにとってかなり危険だと思います。

東欧からウクライナにかけての一帯が、またロシアとドイツの利害調整に使われようとしています。

この動きは、なんだか既視感があるような気がしてなりません。。。