JR東海が大井川水系の流量減少問題を無視してリニア新幹線工事を強行するならば、コンプライアンス上の問題があるのではないのか?・・・という話
JR東海、リニア新幹線のトンネル工事に伴う大井川水系の流量減を巡る問題について、水利権者側との協定未締結のまま工事強行か?と伝えられています。
2027年に品川~名古屋間の開業を目指すJR東海のリニア新幹線ですが、ここにきて大井川水系の流量減少問題が浮上してきています。
建設計画では、大井川の地下にリニア新幹線用トンネルを掘り、工事用の斜坑も二本設置することが計画されています。
これがちょうど水抜きパイプのような役割を果たしてしまい、流量が毎秒2トン超減少すると試算されているそうです。(なお、この試算はJR東海がしたものであり、実際にはそれ以上である可能性があります。)
小学校でも習ったとおり、大井川は急峻な山間を一気に下る暴れ川としてかつて有名でした。
その後、大井川の高低差に着目した中部電力と東京電力による水力発電所建設が相次ぎ、流量が著しく減少。
大井川下流域では水産業が被害を受けただけでなく、川霧が発生しないことで茶畑が被害を受けるなどの被害が発生。水返せ運動が発生するなど社会問題化します。
長年の水利権者側の抗議運動の結果、中部電力と東京電力は大井川に対して流量3~5立方メートル/秒を戻すことを約束しました。
ところが今回、これがまた2立方メートル/秒減少する可能性がでてきているわけです。
この件にかんしては以下のサイトが非常に詳しく解説しています。
リニア中央新幹線は大井川の巨大水抜きパイプ 外部リンク
この大井川流域の水利権者たちの抗議に対して、JR東海の金子慎社長が2018年9月5日、名古屋での定例会見で語った内容が各報道機関より伝えられています。
まず産経新聞ですが、
「今の段階では理解を求める糸口を探っていきたい」
「地域の方と協定を結ばなくてはいけないルールはない」
と伝えています。
リニア、静岡工区の地元同意「必須でない」 JR東海・金子社長 産経新聞
また静岡新聞は
「本体工事まで時間はあるので、理解を得る取り組みをしたい」
「協定を結ばなくてはいけないということではない」
と伝えています。
どちらからも言えることは
「とりあえずまだ交渉している時間があるからしてるけど、別に協定を結ぶ必要はないし、スケジュール通りに工事は始めるからな」
ということですね。
JR東海社長のこの発言は、あまりにも酷いコンプライアンス違反事例じゃないでしょうか?
水利権者の権利を侵害するのはわかってる。だから一応こちらはそれなり誠意をみせている。納得してくれ。とりあえずこっちにも都合があるから工事は進めさせてもらう。文句あるなら裁判でも起こしてくれ。あとはカネで解決しよう。
そういうことですよね?
先ほど貼ったこちらのサイトの方も書いていることですが
リニア中央新幹線は大井川の巨大水抜きパイプ 外部リンク
そもそもの環境アセスが「超おおざっぱ」なんですよ。
水平スケール100m垂直スケール25mの解像度で地質構造を捉えているそうで、とりあえずそれ以下の水脈、礫層などは無視されているとみてよさそうです。
こちらから中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書(平成26年8月)をみることはできますが、あまりにもグッダグダでイライラします。
はっきりいって、三流大学の卒論でもここまで酷いものは学位が出されないんじゃないかと思えるほど杜撰。
意図的なデータの採り逃しが行われているんじゃないかと疑ってしまいます。
pdfファイルを小分けにして見にくくしているあたりも厭らしい。検索するなと言いたげです。
とりあえず、JR東海はもう一度まじめに環境アセスメント評価からやり直すべきだと思います。
大井川の流量を解析をもとに推定するのでなく、実際の数字を工事前に調査すべきです。
大井川の水利権者への悪影響をJR東海は理解しています。にもかかわらずリニア工事を強行するなら、完全にコンプライアンス違反ではないでしょうか。
というか、そもそもにおいて、JR東海の中央リニア新幹線はコンプライアンス上において重大な問題を孕んでいました。
それは、株主価値にかなうのか?という点からです。
さらにいうと、善管注意義務の点においてです。
2013年、当時のJR東海社長であった山田佳臣は「リニアは絶対にペイしない」と発言しました。
なお、山田佳臣は現在JR東海会長です。
当時この発言を聞いた時
「そらみたことか」「とうとう口を滑らせたな」
と俺は思いました。
「ペイしないのをわかっていて推進したのなら、アメリカなら訴訟もんだな」
とも思いました。
というのも、中央リニア新幹線の発表当時から、自分は
「資本コストの面から問題が大きいこと」
「株主価値を最大限向上させるには自社株買いが有効であること」
を2chなどで書いていたからです。
ちなみに資本コストでリニアをみるべきという意見は、株板、ビジネスニュース板など、ある程度リテラシーのあるはずの連中が集まる場でも完全にガン無視されました。
当時の日本には資本コストの概念を理解している人が非常に少なかったのです。
なお、自分は北海道新幹線に関しても同じ論調を張っていました。Goldfishとかいうバイアスかかりまくりのコテハン阿呆が北海道新幹線は儲かるとか書いていて、ほんとしょーもないなと呆れたものですが・・・一応検索すると今でも残骸らしき試算が残っていて、あわれを誘います。完全に間違ってますから。
なお、当時自分がリニアについて試算した資料はどこかに行ってしまったので、バイアスを無視するためにも週刊東洋経済2017年9月25日の試算をもとに話していこうと思います。こちらの記事では、
「定額法の場合は当初から2000億円を超える経常黒字。売上高の上昇に合わせ緩やかに経常増益が続く。定率法の場合は、初年度は経常赤字。ただし減価償却費が年々減っていくので、2030年度には黒字化。その後の利益は右肩上がりになる。だが開業から15年を経ても経常利益は3000億円前後となり、2016年度の5639億円には及ばない」
グラフはこちらにありますが、どこからどうみても株主価値の増大には繋がっていません。
JR東海は2007年12月25日、突如としてリニア中央新幹線の建設を発表します。
言うまでもありませんが、株主価値の極大化を図るのが株式会社の役目です。ましてや上場している株式会社であればなおさらです。
JR東海は、リニア投資をぶち上げる直前に完全民営化を終え(つまり国保有分を売り出して100%を民間所有にし)、海外からも出資を大量に受け入れたばかりでした。
上記で書いているとおり、この事業はペイしない事業です。投下資本に見合った利益は儲からないんです。
株主価値の極大化を考えるならば、JR東海は巨額の営業CFを使って自社株買いを行い、株主還元をしまくればいいんです。
すっごいですよ。この会社のCFは潤沢そのものです。利益剰余金にプールするだけでも株主に対する背信的行為だと思います。
これに対してJR東海の経営陣たちは
「輸送手段を二重にすることで経営が安定する」
などと言っているようですが、
事業安定のために新幹線網を多重化する必要があり、そのために多額の資金が必要になるのなら、JR東海は上場時および完全民営化による売り出し時の目論見書や有価証券報告書などに事業リスクとして書くべきだったのです。
つまり、当時のJR東海の経営陣(葛西敬之会長)は、株主がまったく予想できない状態でリニア中央新幹線建設をブチあげたんです。
これが許されたのが、日本の株式市場です。
中国のことをわらえません。
アメリカだったら訴訟が起きたと思います。
というか、今でもたぶん、日本なら許されてしまうと思います。そのくらい有報が日本では軽く扱われています。
こういう部分も含めて、JR東海による中央リニア新幹線の建設推進はコンプライアンス上に問題があったのではないか、と個人的に思っています。
とりあえず、大井川の水利権問題が騒がれる前から、コンプライアンス上に大きな問題点を抱えていたのがJR東海の経営であり、中央リニア新幹線の問題だったのではないかと、個人的には思っています。
これはもう、同社の体質じゃないかと思ってますし、このJR東海という会社の重役たち(葛西敬之など※1)が日本経済の中心的人物であることからしても、この国の株式市場が外資に嫌われるのも当然かな、という気がします。
※1 葛西敬之・・・
2006年 国家公安委員( – 2011年)、政府の教育再生会議委員
2011年 政府の東京電力に関する経営・財務調査委員会委員、原子力損害賠償支援機構運営委員会委員、内閣府宇宙政策委員会委員長
JR東海、トヨタ自動車、中部電力の共同出資による全寮制男子校海陽学園の理事長
安倍首相を推す財界人の集団「四季の会」の幹事も務めてきた、まさに安倍政権とずっぷりな関係の方です。
なお、安倍政権とズップリと書きましたが、当初発表時にはJR東海が全額を自前で負担することになっていた中央リニア新幹線ですが、いつのまにやら日本国が低利融資で支援することが決定しました。
ここらへんの経緯をみると、もはやこのコンプライアンス問題は、JR東海というよりも、日本国全体の問題のような気がしてきます。
こういう部分が治らない限り、本当の意味で日本経済が欧米に伍していくことは不可能じゃないかと思います。というか、たぶん、やっぱり、日本は所詮、「アジアの国」なんだと思います。
他国の人から見れば、なおさらそう見えると思います。
残念ですが、根本的な部分で「信用とは何か」がわかっていない気がします。おつかれさまでした。