船の排ガス規制強化~海運業界の2020年問題で脱硫装置SOxスクラバーが売れるか?
2020年から船の排ガス規制が強化されます。(海運業界の2020年問題)
現在、海洋汚染防止条約(MARPOL条約/マルポール条約)附属書Ⅵ(大気汚染防止)により、燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)が敷かれています。
この燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)は、船舶の排気ガスに含まれる粒子状物質PMや硫黄酸化物SOxの人体・環境への悪影響を軽減させるための規制なのですが、これが2020年から一気に強化されます。
具体的な数字としては燃料油硫黄分濃度規制値が現行3.50%以下→2020年1月以降0.50%以下となることが定められています。
ただ問題は、この船の排ガス規制がしっかり順守されるかどうか、ということ。
真面目に排ガス規制基準を遵守すればかなりの高コストになることは必至であり、真面目に遵守しない者が混ざっていれば国際的な海運事業者間の競争環境を歪めることになる・・・そういう懸念が出ています。
そのような懸念をふまえ、2016年の国際海事機関(IMO)における硫黄酸化物(SOx)排出規制強化方針で決定された内容を前提に、その後複数回開催された汚染防止対応小委員会(PPR)などにおいて具体的な実施体制に向けたガイドライン作成がされています。
この記事を書いているのが2018年8月ですから、船の排ガス規制強化がなされる2020年1月までは既に1年半を割っています。
この規制は新造船だけでなく現存船(就航船)についても適用されます。全く何もしないでいると、最悪の場合近海すら動けなくなってしまいます。このため、各社対応を急いでいるようです。
今回はこの、「船の排ガス規制」についてみていきたいと思います。
船の排ガス規制とは?
船の排ガス規制とは、マルポール条約(※1)の附属書VI 「船舶からの大気汚染防止のための規則」(1997年追加)を根拠に2005年から導入されている規制です。
※1・・・MARPOL条約/マルポール条約 正式名称:1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書/ International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973, as modified by the Protocol of 1978 relating thereto
現在、船舶用燃料のC重油に含まれる硫黄分濃度上限は3.5%とされていますが、欧州海域(バルト海、北海)と北米近海(ECA/米国、米国カリブ海沿岸、カナダ)には0.5%が適用されています。これが2020年1月からは全世界で0.5%規制となり、ECAでは0.1%規制となります。一気に規制が強化されることになります。
この件に関しては、当初は2025年からの導入が考えられていたようです。規制もここまで厳しいものを想定していなかったようで、2010年代前半までの新造船発注においては、この船舶排ガス規制に対応した発注が行われていなかったとのこと。
邦船各社は対応が遅れており、このことをもって「海運の2020年問題」などとも言います。
船の排ガス規制を回避するには3つの方法(LNG使用、SOxスクラバー搭載、低硫黄重油の使用)がある
船の排ガス規制を回避するには、3つの方法があると言われています。
ひとつは船の燃料を重油ではなくLNG(液化天然ガス)にしてしまおうというもの。
LNG燃料船・LNG焚きエンジン搭載船
などとも言われますが、これをやってしまえばほぼNOX、SOX問題は解決します。
実際、2000年代に商船三井はフェリー事業(さんふらわあ)をLNG焚きエンジンで更新しようと考えていたようですが、その時のPRによると「CO2は50%、NOX90%、SOXは98%から100%削減できる」としていました。しかし同社はその後、世界的な海運不況の波をかぶり、また原油価格の下落もあったことから、フェリーをLNG焚きエンジンで更新する計画を諦めてしまいました。
同時に、LNGで置き換えるためにはタンクが重油の二倍程度必要なこと、再液化設備が必要となること、船舶に供給するための港湾側の体制強化も必要とのことで、更新時期までに体制が整わなかったことも、さんふらわあのLNG燃料船化を妨げる要因だったと言われています。
なお、LNG燃料船はその性質上、新造船に限ります。このことも、全船をLNGに置き換えることが難しい所以です。
つぎに、次善策として
船舶用燃料を低硫黄燃料油に変更する
という策があります。ただこれもかなり難しい。
何が難しいかって、需要に見合う供給量が確保できるか疑問、というか2020年に絶対に間に合わない。間に合わせるためには時間が足りなすぎます。
また、ゆくゆくは燃料油に含まれる硫黄分の量を0.1%未満にすることが求められるでしょうが、0.1%というと軽油相当になるわけです。そこまで精製するとなるとビチューメンなどが大量にできてしまう。石油製品間で価格バランスが崩れる。
この石油製品の価格バランスの崩れを石油会社が喜ぶはずがない&設備投資に見合った利益が見込みにくいことから、どう考えても低硫黄燃料油には無理があると思われます。
もうひとつの手段は
SOXスクラバー(脱硫装置)を追加設置する
というもの。
これがまぁ、そこそこありうる手段でしょうか。
ただし装置にもよりますが、大きいし重たい。設置できるかどうかはその船によりけりですし、復原力にも影響しますので色々難しい。そもそも現存船を改修するにはドックが足りない・・・。
さらにいうと、脱硫には海水を大量に使いますが、その海水は再度海に流すので、海洋汚染に繋がるという問題も。
とりあえず、上記のように「船の2020年問題」解決策は、どれも一長一短で、絶対的なものがありません。
そこが一番の問題です。
いずれこれがボトルネックとして見え始めるときがくるかもしれない、と思います。
海運会社へ投資をするのであれば、現状において船舶排ガス規制対応が進んでいる銘柄を買った方がいいと思います。
また、造船各社などにおいては、特需が発生する可能性もあります。注視していくと良いと思います。
なお、SOXスクラバー関連銘柄としては、スウェーデンのアルファ・ラヴァル(ALFA LAVAL)やフィンランドのバルチラ(Wartsila)などがあります。日本企業では富士電機、三菱化工機などがありますが、納入実績からみて見劣りします。
とくにバルチラ(ワルチラ)は日本法人も設置し、日本の船主に積極的にスクラバーを売り込んでいるもよう。
ひとつあたりのユニットコストも非常に高いものですし、大きな金額が動くことになります。要注目です。
追記・訂正:内航船の方からお返事をいただきました。
「ROROやフェリーなどはスクラバーが搭載される可能性があるし、大型船はLNG船になっていくだろうが、それ以外のほとんどの内航船は低硫黄重油で回すしかないはず」
との指摘です。スクラバーがもっと小型化できなければ内航船のほとんどには搭載できないだろうとのこと。
内航船(小型商船)はスクラバー導入難しいので低硫黄C重油に変わると思います。ただ、需要が増え価格高騰も想定されるので…大型船はLNG自体の燃焼効率が良くなってるのでそちらにシフトしていくのかなと自分もみてます。
— おかしら⛴ (@ookasira) August 17, 2018
内航小型船はスクラバーの小型化が進まない限り無いと思います。ただROROやフェリーをはじめとする大型船はコスト面で導入もあると思います。
— おかしら⛴ (@ookasira) August 17, 2018
そのとおりですね・・・自分の考えが甘かったと思います。
低硫黄重油、間違いなく高騰しますね、これは。
モーダルシフトでトラックから船への動きが物流業界で出ていますが、かなりのコスト上昇が見込まれますし、物流費用にも大きく跳ね返ってくる可能性があります。
大変なことになってきたなぁと思います・・・。