三井E&Sホールディングス/三井造船の業績と株価
今回は、インドネシアの発電所建設事業の採算悪化で二期連続赤字に転落した三井E&Sホールディングスの業績と株価をみていこうと思います。
まずは三井E&Sホールディングスの会社紹介から始めます。
三井E&Sホールディングスとは?
三井E&Sホールディングスとは三井造船を母体とした持ち株会社で、三井系の重工業メーカーとして傘下にロボット、クレーン、橋梁などの事業を抱えているホールディング(持ち株会社)です。
三井E&Sホールディングスはおもに官需に強く、これまでも多数の防衛省からの発注を受けた艦艇建造、海洋調査船、TSL(テクノスーパーライナー)、素粒子関連大型施設、メタンハイドレード調査、国発注の橋梁、トンネルなどで稼いできました。
(※つまり、単純な技術力ではなく、国との密接な関係で稼いできました。その多くが赤字プロジェクトであることは言うまでもありません。)
また、筆頭株主が三井物産であることから、三井物産や三井海洋開発などから発注された石油化学プラントやLNG関連設備、浮体式石油生産・貯蔵・積出設備(FPSO)などの生産を行うことも多く、単純に技術力で稼ぐというより、繋がりで稼ぐ企業といえると思います。
三井E&Sホールディングス/三井造船の千葉事業所閉鎖
三井E&Sホールディングスの母体である三井造船はかつては商船を千葉事業所(千葉県市原市)で建造していましたが、しかし近年、中国、韓国勢など競合他社との価格競争に敗れて撤退を決断。
2019年に引き渡しを予定する大型タンカーを最後に新規の商船受注はしないとのことです。
なお、三井造船千葉事業所は首都圏最大のドックであり、3本のドックのうち最大の3号ドックは長さ400m、30万トン級の超大型タンカーも建造できる能力がありますが、今後はこの設備は別の用途に使うとのこと。
三井E&Sホールディングス/三井造船の千葉事業所は沈埋函(ちんまいかん)を建造
三井E&Sホールディングスの千葉事業所では臨海部の再開発に利用する沈埋函(ちんまいかん)を建造。
沈埋函(ちんまいかん)は重さ3000トン、縦28メートル、横134メートル、高さ8メートルの巨大建造物(サッカー場の半分)。
この沈埋函を7個つなげるようにして海中に沈め、有明地区と中央防波堤を繋ぐ全長1キロの海中トンネルにするとのこと。
この沈埋函の建造を三井E&Sホールディングスと三菱重工が受注。
ようするに、これも官需に頼った三井E&Sホールディングスらしいビジネス。
三井E&Sホールディングス/三井造船と常石造船との提携
三井E&Sホールディングス/三井造船は千葉事業所の閉鎖のいっぽうで、商船事業を広島県福山市の常石造船と委託。
今後は商船分野の共同研究、設計製造の技術協力、調達活動における協力、製造拠点の相互活用などを行っていくと発表。
常石造船は創業100年を超える造船、海運業の常石グループの中核企業。フィリピンや中国などにも拠点を持ち、TESSシリーズやKAMSARMAX BULK CARRIER(カムサマックス)などのばら積み貨物船で有名な企業です。
エネルギー分野に強い三井E&Sホールディングス/三井造船の技術を導入することで、常石造船はLNG船などの分野に乗り出していくものと思われます。
三井E&Sホールディングス/三井造船が揚子江船業と合弁会社設立
三井E&Sホールディングス/三井造船は中国の造船会社、揚子江船業と合弁会社を設立。
三井造船が設計などの面で技術協力する形で、揚子江船業が実際に造船をするライセンスビジネスに移ることを鮮明にしました。
今後はLNGタンカーなどにも展開していくとのこと、中国はLNGの輸入を増やしており、需要開拓を目指す方針です。
三井E&Sホールディングス/三井造船の玉野事業所
三井造船の造船拠点の片方、玉野事業所(岡山県玉野市)は今後も存続。
今後も海上自衛隊からの発注を頼りに細々とやっていく予定の模様。
三井E&Sホールディングス/三井造船の建造してきた艦艇
なお、三井E&Sホールディングス/三井造船の扱ってきた艦艇(主だったもの)は以下のようになります。
護衛艦
- あきづき型 DD118 ふゆづき
- むらさめ型 DD-102 はるさめ
- あぶくま型 DE-229 あぶくま
- あぶくま型 DE-231 おおよど
- あさぎり型 DD-152 やまぎり
補給艦
- ましゅう型:AOE-425 ましゅう
掃海母艦
- うらが型:MST-464 ぶんご
潜水艦救難艦
- ASR-403 ちはや
- ASR-404 ちよだ
海洋観測艦
- AGS-5106 しょうなん
輸送艦
- おおすみ型 LST-4001 おおすみ
- おおすみ型 LST-4002 しもきた
なお、三井造船は戦前は日本海軍の占守型海防艦(甲型海防艦)や択捉型海防艦、鴻型水雷艇などを建造。小型艦艇を中心にしていました。
戦前から完全に官需に頼ったビジネスであり、三井E&Sホールディングスのその体質はなんら変わっていません。
三井E&Sホールディングス/三井造船が作ってきた特殊船(深海無人探査機「かいこう」、地球深部探査船「ちきゅう」)
三井E&Sホールディングス/三井造船は政府発注の特殊船も多く手掛けています。
「深海無人探査機かいこう」、「地球深部探査船ちきゅう」なども三井E&Sホールディングス/三井造船の建造になります。
三井E&Sホールディングス/三井造船の手掛けた大赤字事業~テクノスーパーライナー~
三井E&Sホールディングス/三井造船といえば忘れてならないのがホバークラフトのようにファンで空気を送り込みながら浮力による抵抗低減を利用して高速航行する、水面効果船(SES /Surface Effect Ship) の一種、空気圧力式複合支持船型テクノスーパーライナー(TSL-A船型)です。
この船、小笠原TSL(SUPER LINER OGASAWARA)は、石原元都知事肝入りの事業として多額の公的支援を受けて開発、三井造船玉野事業所で建造されましたが、実際に稼働させる段になり燃料費の問題で事業頓挫(東京ー小笠原の一度の航海で2500万円近い燃料費がかかったとのこと)。
これを受けて支援予定の東京都が撤退、国土交通省も撤退したことで、導入を予定していた小笠原海運が苦境に陥り受け取りを拒否。
その後、裁判になって小笠原海運は20億円の賠償を命じられたり、TSL保有会社のテクノ・シーウェイズが負債総額153億円で破綻するなど踏んだり蹴ったり。民間事業者も巻き込んで壮大なムダを垂れ流しました。
結局、ほとんど運航しないまま三井造船玉野事業所の岸壁に係留されたまま放置。
経済産業省(当時は運輸省)の無駄遣いを象徴するようなプロジェクトでした。
三井E&Sホールディングス/三井造船は経済産業省・防衛省のお気に入り
ようするに三井E&Sホールディングス/三井造船という会社は、昔からまともに民間事業者として稼げてきていません。
ずっとこんな調子で官需に頼って生きてきました。
ですから企業統治もグダグダですし、民間商売が下手糞です。
三井E&Sホールディングス/三井造船はすごいポカをやって赤字を垂れ流す癖がありますが、詰めの甘さは昔から変わりません。
三井E&Sホールディングス/三井造船の業績
ここから先は三井E&Sホールディングスの業績を同社決算資料や会社説明資料をもとにみていきます。
(以下は2018年11月1日に書きました。)
やはり三井E&Sホールディングス、期待通りやらかしてくれました。
インドネシアの火力発電所の土木建築工事で多額の損失が発生です。
海上取放水間工事において、使用しているガラス強化繊維プラスチック製のGRP管に複数個所の破断が発見されたとのこと。
現地の脆弱な地盤と海流などの条件からすると、GRPでの対策は難しく、GRPはすべて撤去して、新たに鋼製の管を据え付けし直す必要がでたとのこと。
この追加費用、後戻り費用により413億円の損失発生。
これで三井E&Sホールディングスは二期連続の赤字は免れないでしょう。
今回、一株あたり当期純利益が531.99円も毀損することになりますが、とりあえずまだ資本には余裕があるため、ただちに三井E&Sホールディングスが倒産する、破産するようなことはないと思われます。
ただ、あまりにも初歩的すぎるミスをやってしまう同社のEPCとしての資質のなさには唖然とするのも事実。
ハッキリ言って、エンジニアリング事業は売却した方が良いと思いますが・・・。
三井E&Sホールディングス/三井造船の株価が20%暴落
上記プロジェクトの失敗を受け、2018年11月1日、三井E&Sホールディングス/三井造船の株価は暴落しました。
原油価格上昇を受け、三井E&Sホールディングス/三井造船のFPSO事業が好調に推移することを市場は想定。
ここもと株価は大きく上昇してきていました。
ですから、今回のエンジニアリング事業の大赤字は非常にショックを持って受け止められたと思います。
これで二期連続の赤字は確定。
前期、今期で予想される赤字はEPSベースで650円くらいでしょうか。
絶好調なときの三井E&SホールディングスのEPSの6~7年分くらいをパーにしたかたちになりますから、そりゃショッキングです。
ただ、とりあえずチャートを見る限りはボックス圏での推移に見えますから、今回の下落が一時的にとどまる可能性はあります。
三井E&Sホールディングス/三井造船の株価は本当に長期ボックスです。2009年くらいからずっと1000~2500を行ったり来たりです。
業績で買われる銘柄ではなく、単に値ごろ感、値動きで買われている部分は多く、三井E&Sホールディングス/三井造船の株を売買する相場参加者にそれほど深い考えがあるように思いません。
よって、1000円に近づくほど大きく下がったところはむしろ買いかな、という気もします。もちろん、日中の値動きを追えるセミプロ以上限定ですが。
とりあえず、上記はあくまでも中卒くん個人の見解であり、特定の投資スタンスをお勧めするものではありません。投資にあたっては自己責任で行っていただきますよう、お願いいたします。
以上です。