NHKのネット同時配信を考える~放送と通信を同じ次元で考えるのはキケンすぎる~
NHKがネット常時同時配信を始めるとのことです
これは改正放送法が5月29日に可決成立したことを受けたもの。
NHKがネットへの常時同時配信を打ち出したのが2010年でしたから、かれこれ9年がかりで実現した法案になります。
この背景に、
- 英国BBCがネット同時配信をするようになったら視聴者が増えた
- 「テレビを持っていない」と主張して受信契約を結ばない世帯に払わせるため
- 全国民に受信料契約を義務付けるためのワンステップ
- 逼迫する電波帯域の有効活用のため放送と通信を融合する必要
などが語られています。
そうした流れに対して、「NHKの肥大化を招く」「民業圧迫だ」と批判するメディアの声もあり、賛否両論の展開となっています。
しかし、どうも個人的には、いちばん大事な部分が議論から抜け落ちているんじゃないか?と感じています。
それは、放送と通信の違いについてです。
放送は匿名性が保たれるが、通信は匿名性が保てない~NHKのネット常時同時配信に潜む危険~
放送というのは、文字通り、放って送るものです。
語源について調べてみると、大正6年(1917年)1月に
日本郵船の三島丸の無線電信局長・葛原顕という方が最初に使ったものだそうで、
「ドイツの巡洋艦に警戒せよ」
という電文を無線受信したが、誰が送ったのかわからない・・・
(当時、日本はドイツと戦争中)
無線受信を記録に留めるのに相手方がわからない。
そこで、「放送を受信した(放って送った電波を受信した)」という言葉をつかって事務処理したのだそうです。
その後、この放送という言葉が対象11年から公式文書でも利用されるようになったのだそう。
で、ここで重要なのは、送った側も、受け取った側も、匿名であるということです。
受け取った証、送った証を誰も確認できない・・・それが放送です。
その逆に、通信は違います。
どこの誰が、誰に送ったのか、送り返したのか、把握できるのが通信です。
一般的なインターネットプロトコルでいうと、パケットがどこをどうルーティングして、ちゃんと届いたのか届かなかったのか、それは逐次確認されていきます。
もちろん、それを傍受して記録することも可能です。
よく「Cookieを利用すると個人情報が収集される」なんていいますが、あんなもの使わなくたって、政府レベルの機関が利用するマシンなら膨大なデータを収集可能です。
そこが、個人的には一番恐ろしいところです。
NHKのネット同時配信で、誰がどんな政治思想を持っているか丸わかりに?
放送と通信は違います。
放送には匿名性がありますが、通信は匿名性がありません。まったくありません。
そもそも匿名性を確保するように規格が作られていません。
そんな状況で、国営放送であるNHKがネット同時配信に乗り出します。
もちろん、現在の日本は個人情報を常時収集して危険思想者を取り締まるような、そういった怖い国ではありません。
性犯罪などがおきると、警察はTSUTAYAやゲオにアダルトビデオのレンタル履歴と監視カメラの写真提供をさせているそうですが、それはまぁ、性犯罪が起きたときだけの話です。
⇒アダルトビデオのレンタル履歴で性癖チェックか!?~Tポイントカード(ツタヤカード)で収集した個人情報や顔写真をTSUTAYA(ツタヤ)運営会社は警察に流していた!
しかし、いずれかの時点で、日本の政治が危険なものになる可能性も否定はできません。
独裁じみた政権ができ、既存の法律の枠組みを拡張する形で個人情報を収集するような社会になるかもしれない。
そのときにNHKの番組視聴履歴などを政権が収集しないとは言い切れないと思います。
もっというと、現状の計算能力では、さすがにすべての人物のすべての行動を把握することはできませんが、いずれ処理能力が上がればそういったことすら可能になります。
そうしたとき、放送と通信を融合させてしまっていたら、政府に巨大な取り締まりツールを与えることになってしまいます。
個人的には、そのことに誰も言及しないことが恐ろしいです。
セキュリティ関連の方、ネットワーク技術関連の方も誰もコメントしていない。
たぶん、自分の守備範囲の隣の出来事には興味がないんでしょう。
平和すぎると思います。
とりあえず、放送と通信を融合することは危険です。
放送には放送の良さがあります。
何でもかんでもIPベースにすることは危険です。
その危険性が具体的事例として認識できた頃には手遅れです。
今からでも遅くありません。
立ち止まり、考え直すときです。
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