インド準備銀行(中銀)ウルジット・パテル総裁が突如辞任~背景にノンバンク問題などを巡るモディ政権との確執か~
インド準備銀行(中銀)のウルジット・パテル総裁が辞任しました
Urjit Patel steps down as RBI governor, cites ‘personal reasons’
ウルジット・パテル総裁は「個人的な理由でやめた」と言ってますが、嘘でしょう。
完全にモディ政権からの介入に抗議の意思を示す形でやめたものだと思われます。
最近、インドでは政治による中銀への介入姿勢が露骨になっており、このことに中銀の上層部、副総裁などから激しい反発が出ていました。
ウルジット・パテル総裁も体調不良を理由に辞任の観測が以前からありましたが、映像に出てくる姿からは健康問題など一切うかがえず、多くの人がモディ政権との確執が背景にあるとみてきました。
ウルジット・パテル総裁とパンジャブ・ナショナル銀行PNB
今年2月、パンジャブ・ナショナル銀行PNBで巨額不正行為が発覚しました。
インドでは銀行はほぼすべて国有銀行であり(一部民間銀行もある)、金融指導も中銀の役割とされていますから、この責任を追及されたのがウルジット・パテル総裁です。
しかし、たしかに形式的には指導の責任は中銀にあるとはいえ、実質的な銀行の保有者は国です。
インドでは政権からの介入で情実融資が行われることは日常茶飯事といわれ、これをいちいちすべて中銀が管理することなどできるはずがない。
この件で、インド準備銀行側と政権のあいだに亀裂が生まれました。
ウルジット・パテル総裁は金融引き締め策を模索~モディ政権から介入招く
また、ウルジット・パテル総裁とモディ首相とのあいだでは、利上げ路線を巡る対立も起きてきました。
放漫な融資が行われているのは過剰に緩和しすぎた金融状況の問題と捉えたウルジット・パテル総裁は、積極的に金融引き締めに乗り出します。
しかし、来年に総選挙を控えるモディ首相側としては、いま引き締めをして景気を後退させることは断固阻止したいところ。
非常に厳しい介入姿勢をとっていたようで、これに対しては特にアチャルヤ副総裁が猛烈に批判を繰り返していました。
インド金融混乱~アチャルヤ副総裁がモディ首相批判、パテル総裁は辞任か?~
ウルジット・パテル総裁とノンバンク問題
ウルジット・パテル総裁とモディ政権とのあいだでは、ノンバンク問題を巡っても大きな確執がありました。
この件に関しては以下にも書きましたが
インド株指数が急落中~BSE SENSEX指数、NSE指数~背景にIL&FSやDHFLを中心としたノンバンクNBFC問題か?
【インド】インディアブルズ・ハウジング・ファイナンス、PNBハウジング・ファイナンスなど下落~シュリーニバス企業相が資金調達モデルに懸念示す
とりあえず簡単にまとめてしまうと、
- インドでは、低所得者が不動産を買いやすいようにノンバンクローンが積極的に活用された
- しかし、そのうちの数社の財務が非常に悪化していることが発覚
- 住宅系ノンバンクのIL&FSが実際に破綻
- 他のノンバンクにも波及して、社債価格が急落(金利急上昇)
- 資金調達に窮したノンバンクが資金供給を要請
- 政府がウルジット・パテル総裁に潤沢に資金を出すようプレッシャー
とまぁ、こんな感じです。
インドでは物価が上昇していますし、ウルジット・パテル総裁としては利上げをしたい。
けれどノンバンクの問題により政府からは金融緩和しろと言われる。
ガバナンスの問題もあるし、やりにくい。
という感じです。
ウルジット・パテル総裁は抗議の意味を込めて辞任
今回のウルジット・パテル総裁ですが、抗議の意味を込めた辞任だと市場では受け止められているようです。
個人的にも同感です。
先にも書きましたが、来年にはインドは総選挙が行われます。
どうも、直近の地方選の行方を見るに、与党の地盤が揺らいできているようにみえます。
今後、インドでは露骨な中銀への介入が増えることでしょう。
いろいろと注意してみていかねばならない局面下と思われます。
以上です。