東芝メディカル買収手法はやはり非常識~ウェアハウジング方式を利用したキヤノンに欧州委が制裁金34億円~取締役たちは賠償すべきでは?

東芝メディカル買収手法はやはり非常識~ウェアハウジング方式を利用したキヤノンに欧州委が制裁金34億円~取締役たちは賠償すべきでは?

 

キヤノンによるウェアハウジング方式を利用した東芝メディカル買収手法に制裁金34億円

キヤノンに欧州委員会が2800万ユーロ(34億円)の制裁金を科すとのことです。

これは2016年のキヤノンによる東芝メディカル買収におけるウェアハウジング(2段階取引)方式を利用した買収スキームに対するもの。

欧州委員会の独禁法を仕切るベステアー女史は、今回も一歩も引かない態度を示しています。

 

 

キヤノンによる東芝メディカル買収はウェアハウジング方式そのもの、多方面から批判浴びる

キヤノンによる東芝メディカル買収手法については、発表された直後に日本の公正取引委員会も

「事前届け出制度の趣旨を逸脱している」

として独禁法違反の可能性を示唆して批判。

 

株式市場からも

「東芝の株主価値を最大限に尊重していない売却手法」

として批判が出ていたスキームでした。

 

その後2016年12月、中国商務部は、キヤノンは届出を行う以前に実質的な東芝メディカルの買収を行っていたとして、届出義務違反の罰金30万人民元を科しました。

欧州委員会も同様に、キヤノンによる東芝メディカル買収手法はウェアハウジング方式にあたる可能性があるとして異議告知をキヤノンに対して行いました。

今回の欧州委員会による決定は、そうした流れの中でのものです。

 

 

キヤノンによるウェアハウジング方式を用いた東芝メディカル買収スキームについて

さて、この問題視されまくりなキヤノンによる東芝メディカル買収スキームとは、具体的にどういったものだったのでしょうか。

とりあえず、時系列でみていくと、以下のようになります。

 

1.東芝メディカルが以下の3つの種類株を東芝に対して発行

a 議決権株式 20株

b 無議決権株式 1株

c 新株予約権 100個

 

 

2.東芝はb、cをキヤノンに6665億円と引き換えに譲渡

 

 

3.東芝はaをMSホールディングスという新設の会社に対し、bを98600円と引き換えに譲渡

 

 

上記1~3の譲渡契約では、競争当局による認可を受けたのちに以下の取引を行うことを契約

 

1.東芝メディカルがMSホールディングスからaを取得

 

2.東芝メディカルがキヤノンからbを取得

 

3.キヤノンはcを行使して東芝メディカルを子会社化、行使価格は100円

 

この一連の取引により、東芝メディカルはキヤノンに子会社化されるというスキームです。

(各種報道より引用)

こうした2段階取引手法を用いた企業結合はウェアハウジング方式と呼ばれています。

規制当局による審査を待たずに実質的な企業結合が行われていたとみなされ、あとから制裁金を科されるのは十分に予見されていたことでした。

 

 

 

東芝メディカル買収がウェアハウジング方式にあたると確定したなら、当時のキヤノン取締役は賠償責任を負う可能性

今回のキヤノンによる東芝メディカル買収のスキームは、当時から非常に疑問の多いやり方でした。

いずれ制裁を科されることになるのではないか、と指摘する声も多々ありました。

専門家であれば、取締役であれば、その程度のことは十分にわかっていたはずのことです。

 

予想通りに今回、欧州委員会から34億円もの制裁金を科されました。

当時のキヤノン取締役たちは、このような状況に陥ったことを十分に予見できたはずであり、善管注意義務違反に当たる可能性が出てきていると思われます。

キヤノン側は今回の欧州委員会の決定に対して異議を申し立てるようです。

たぶん司法の場でも争われることになるでしょう。

仮に、もし欧州委員会の制裁金が確定したなら、その時は当時の取締役たちの責任問題が炙りだされるかもしれません。

株主は会社側に対して当時の取締役への損賠請求をさせる可能性が出てくるのではないか、と思われます。

 

 

 

ウェアハウジング手法を用いてでも東芝メディカルを安値で買収したがったキヤノン

当時のキヤノンは、何故こんな複雑なスキームを用いて、司法リスクも抱えながら東芝メディカルを買収したのでしょうか?

 

その背景には、富士フイルムの存在があります。

キヤノンには御手洗冨士夫、富士フイルムには古森重隆という名物経営者がいますが、この二人、ともに高齢です。

高齢になると医療にやたら興味が沸くもんで、両社ともメディカル分野の充実を社の方針に据えました。

東芝メディカルの買収でも両社は争う可能性があり、キヤノンとしては無駄に高い買収価格を払いたくない、という意識があったものと思われます。

本来であれば東芝は東芝メディカルを高値で売るべきところ、なぜか裏取引でもあったかのように、キヤノンにさらりと売り払ってしまいました。

これはどう考えても東芝の株主価値を毀損する行為だと思うのですが、日本では許されてしまいます。

 

とりあえず、こうした経緯で、キヤノンは東芝メディカルを手に入れました。

 

 

ウェアハウジング方式を利用したキヤノンによる東芝メディカル買収を問題視する欧州委員会は至極真っ当

個人的に、今回のキヤノンへのEU制裁は妥当だと思います。

むしろ、日本の公取委が事実上見て見ぬふりをして事後的に改訂して終わりにしようとしているのとは大違いです。

こんなふざけた手法が罷り通ってはおかしいと思います。

社会的にも問題ですし、企業統治的にも問題ありすぎです。

さっさと欧州委の制裁が司法でも確定して、キヤノンの取締役連中に損賠請求が行われればいいのになぁと思います。

取締役の善管注意義務について、問われるべき問題であると思います。

以上です。