ダイキン工業がR32(HFC-32/ジフルオロメタン)空調機器の特許権不行使は株主にどんなメリットがあるのか?

ダイキン工業がR32(HFC-32/ジフルオロメタン)空調機器の特許権不行使は株主にどんなメリットがあるのか?

 

ダイキン工業、R32単体冷媒を利用した空調機器の特許権不行使へ

空調機器大手のダイキン工業は7月1日、同社が数多く特許を抑えているR32(ハイドロフルオロカーボンガス/HFC-32/ジフルオロメタン/フッ化メチレン)を利用した機器の特許権を行使しないと発表しました。

R32(HFC-32)はこれまで多くの機器で利用されてきたR410Aに比べて地球温暖化係数(GWP)が約1/3

単体冷媒のため回収して再利用しやすいなどの利点のある冷媒です。

ただ一方でR410Aに比べて微燃性があること、冷凍機油との相溶性の問題、高分子材料への影響の違いなどから、普及はさほど進んできませんでした。

今回、ダイキン工業はこうした部分をクリアするための特許を一気に開放し、R32単体冷媒の利用普及を目指します。

 

 

ダイキン工業が特許開放で推進するR32(ハイドロフルオロカーボンガス/HFC-32)諸元

名称:R32/HFC-32/ハイドロフルオロカーボン

化学名:ジフルオロメタン

化学式:CH2F2

分子量:52.02

沸点:-51.65℃

融点:-136.8℃

臨界温度: 78.1℃

臨界圧力:5.78(MPa・abs)

爆発限界:下 13.8 vol.% 上 29.9 vol.%

水への溶解度: 0.44 g/100g  (25℃、1気圧)

蒸気圧 :1.690 MPa (25 ℃)

蒸気密度比 :1.80 (空気=1)

飽和液密度 :0.961 g/cm3 (25℃)

地球温暖化係数(GWP):675

オゾン層破壊係数(ODP):0

なお、R32(ジフルオロメタン)を加熱・燃焼させるとフッ化水素、フッ化カルボニルなどが発生

フッ化カルボニルは水と接触するとフッ化水素と二酸化炭素に分解

 

 

 

ダイキンが特許開放で推奨するR32(ジフルオロメタン)のR410Aに対するメリットとデメリット

ダイキン工業は特許開放でR32を推進していますが、既存の冷媒であるR410Aに対してどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

とりあえずザックリとまとめると

・R32の地球温暖化係数GWPは675は、R410Aの2090と比較して約1/3

・R410AはR32とR125の擬似共沸混合冷媒だが、R32は単体冷媒のため回収して再利用しやすい。

・R410Aは不燃性だがR32は微燃性

・R410Aも冷凍機油との相溶性の問題があるが、R32単体はさらに悪く、分離傾向を示し、潤滑不良の可能性が高まる。特別な冷凍機油が必要。

 

 

 

ダイキン工業はR32(ジフルオロメタン)の特許開放で何を得るのか?

さて、ここで一つ疑問なことがあります。

ダイキン工業は今回、およびこれまでのR32(ジフルオロメタン)の特許全面開放でいったい何を得ることになるのでしょうか?

 

ダイキン工業はこれまでもR32(ジフルオロメタン)の特許を開放してきました。

2011年には発展途上国向けに特許を開放

2015年にはこの特許を全世界に開放

さらに2019年、今回は2011年以降に取得した特許も全世界に開放するということです。

HFC-32特許権不行使の誓約

これにより、世界中の空調機器メーカーがR32を利用した空調機器の設計にダイキン工業の特許を利用することができるようになります。

 

・・・で?

株主にどんなメリットがあるんでしょうか?

 

ダイキン工業は、今回の特許を研究するために多大なコストをかけているはずです。

そのコストは、会社の持ち主である株主が間接的に負担しています。

そうして開発された技術を無償公開することにどのようなメリットがあるのか、個人的によくわかりません。

 

R32は特殊なガスではありませんから、普及によってコストが安くなるということはないでしょう。

これを契機に各国でR32を利用した空調機器のみを認める流れになるかもしれませんが、だからといってダイキン工業が儲かるという話でもなさそうです。

ダイキン工業が外部に部品を販売して稼ぐというわけでもない・・・

 

なぜダイキン工業がわざわざ特許を無償公開したのか、そこが何とも理解できません。

 

 

ダイキン工業はR32(ジフルオロメタン)関連特許を地球温暖化対策というが・・・

ダイキン工業は今回の発表で、R32の地球温暖化対策上の効果をいろいろと宣伝しています。

しかし、この特許開放でどれだけの経済的メリットがあるのかを示していません。

株主価値を本当に向上させるつもりがあるのなら、この特許開放によってどういった株主のメリットがあるのかを示す必要があるはずです。

 

 

特許は、開放することで戦略的に得をする場合もあります。

しかし無闇矢鱈に公開したのでは損になります。

たとえば、デンソーはQRコードを開発しましたが、その重要性を理解しないまま特許を無償公開したせいで、スマホ決済やらゲームやら、あちらこちらに普及したのにビタ一文も稼げていません。

デンソーはそもそもQRコードを利用した機器で稼ぐようなこともほとんどしていませんでしたから、他社ががっぽり稼いだ一方で、ぜんぜんQRコードの恩恵を受けていません。

これでは研究開発コストだけ損をしていることに等しい。

 

 

研究開発はタダで行えるものではありません。

研究者への報酬、開発するための建屋・設備、その他もろもろのコストがかかっています。

それを無償公開するのなら、無償公開するメリットを示す必要があるはずです。

カネになれば株主も潤いますし、研究者も報酬を要求できます。

でも、一銭のカネにもならなければ、株主も研究者も損ばかりを被ります。

マネジメント側のせいで、そういうことにもなりかねない。

 

ダイキンの経営陣には、丁寧な説明が求められていると思います。

以上。