国際貨物運送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(United Parcel Service Inc/ UPS)の業績と株価をみてみよう
今回は国際貨物運送業の世界的大手、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の業績と株価をみていきます。
まずユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)について説明します。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS/United Parcel Service)とは?
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)とは、米国内および国際的に物流事業を行う運送企業です。
とくに、国際宅配便(クーリエ)を行う企業としては上位3本の指に入る企業で、同業にはFedEx(フェデラル・エクスプレス/Federal Express)、DHLなどがあります。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はそのコーポレートカラーである濃いブラウン色のトラックと、盾のなかにUPSと書いたロゴで日本でも有名です。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と全米トラック運転手組合インターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズ(International Brotherhood of Teamsters /IBT)
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)といえば、その巨大すぎる労組、全米トラック運転手組合インターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズ(International Brotherhood of Teamsters /IBT)の影響について書いておかねばなりません。
インターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズは米国、カナダで約130万人?の加盟員を抱える巨大労組です。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はその提供するサービスの性質上、どうしても大型車を運転できる運転手が大量に必要で、このインターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズとの付き合いが非常に重要になっています。
インターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズによる大規模なストライキは1997年以降ありませんが、毎年のようにUPS側は賃金の高い伸びを飲まざるをえず、それゆえ、常に国内事業は利益率が小さく維持されやすい状況になっています。
インターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズの現在の総裁はジェームズ・ホッファ氏です。
そう、映画にもなったジミー・ホッファの息子さんです。
ジミー・ホッファはかつてインターナショナル・ブラザーフッド・オブ・チームスターズを率いた労働組合リーダーで、その巨大な労組基盤(と同時に、運送業なのでガタイが良い)を率いた彼は、マフィアやギャングとも癒着していたとして獄中にも入った人物です。(その後、娑婆に出てきたあとで失踪。殺害されたものと思われています。)
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)における労賃の高さ
このように強力な労働組合と対峙しなければならないことから、UPSの賃金は常に上昇圧力にさらされており、国内事業を中心としてなかなかマージンを確保しにくい環境にあります。
また、航空機による国際貨物輸送などもしていますから、パイロット不足による労賃上昇の影響も受けています。
近年、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は売上は伸びているのですが、利益の伸びが緩慢です。それは、上記のような人件費の上昇が一因となっています。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)における自動化
人件費の高騰を抑えるため、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はかなり以前から倉庫の自動化などを推し進めました。
今でこそ当たり前となっているベルトコンベアなどによる小包の自動振り分けシステムですが、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は90年代にはすでに導入。非常に効率的なサービスを展開していました。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)におけるハブ&スポーク
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は同業のフェデックスなどと同様、ハブ&スポーク戦略をとっています。
なお、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のハブ空港は、
マイアミ国際空港
ハミルトン・ジョン・C・マンロ国際空港
深圳国際空港
ルイス・ムニョス・マリン国際空港
ケルン・ボン空港
上海浦東国際空港
香港国際空港
となっています。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の運送業務向けナビゲーションシステム「ORION」(UPS On-Road Integrated Optimization and Navigation)
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はビッグデータを活用した交通情報管理システムの導入にも積極的です。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の利用するビッグデータ利用ナビゲーションシステム「ORION」は、実際の配送作業で得られたデータをもとに効率的な配送ルートを提案。(たとえば、右折で回った方が燃費を低くできるのだとか。)
これを利用することで、年間5000万ドル以上のコスト削減が可能になると同社は述べています。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)によるMarken買収と4温度帯物流
近年、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)はMarken、Polar Speed、Poltrafなど医薬品などの物流企業を買収しています。
これら物流企業は冷蔵物流(0~10度)、冷凍物流(-18度~-5度)、定温物流(10度~20度)に特徴があり、利益率の高いサービスを提供しています。
これらに常温物流を統合した4温度帯物流により、今までよりも付加価値の高いサービスを展開し、利益率を向上させていこうとしています。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と自動運転
上記労組の問題も絡み、今後同社は、自動運転を積極的に取り入れていくものと思われます。
自動運転であればフリート輸送などで多大な労働コストの上昇に見舞われることはありません。
ただそれは、Amazonなどの利用者側の物流投資ともバッティングする可能性があり、そのあたりがユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の長期的に考慮しなければならないポイントかと思われます。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の業績
ここからはユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の決算資料などをもとに業績を見ていきます。
(ここから先は2018年10月26日に書きました)
こちらはユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の2018Q3の業績になります。
こちらはユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の2018Q3業績を四半期ごとに見たものです。
上記を見て言えることは、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の業績は2017年をピークに利益ベースでは落ちているということ。
2018年は減税分で最終利益がかさ上げされています。
以下はユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の国内宅配事業の営業利益です。
以下はユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の国際宅配事業の営業利益です。
ごらんのとおり、国内、国際ともに2017年のあたりからユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の業績は落ちてきています。
この期間、売上は伸びているんです。
Amazonなどを代表とするネット小売りの台頭、EC(イーコマース)の伸びなどで運送事業の売り上げは伸びている。
けれど、それがユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の売り上げに直結していないのです。
これは燃料費の上昇、賃金の上昇のいっぽうで、Amazonなどへのサービスが買い叩かれているということ。
USPSやFedExなど他の事業者との競争によって、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の業績は芳しくない状況になっています。
ただし、最終利益は減税効果で押し上げられていますから、そこらへんがちょっとややこしいところ。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の株価
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)株価はボックス圏で推移しています。
上記のような業績の停滞をうけ、2016年頃から行ったり来たりを繰り返しています。
なお、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のバリュエーションは2019年通期予想ベースで13.6倍、EV/EBITDAは10.2倍となっています。
PERに比べてEV/EBITDAの数字がやたらズレているようにみえますが、これは、PBRがやたら高いため。
抱える労組が多いため年金債務が多く、そのことも含め、DEレシオがやや高めになっています。
バリュエーションとしては妥当~やや高めでしょうか。
配当は現状3%前後ついています。
個人的な予想としては、下がったところを買う、ボックス圏での推移を予想した売買が一番いいのではないかと思います。
この銘柄は初心者でも扱いやすい銘柄ですし、同社が赤字になるようであれば同業もみな赤字になるので、まぁ、潰れることもないし、動かし方によっては悪くない銘柄選択だと思っています。
なお、上記はあくまでも中卒くん個人の見解であり、特定の投資スタンスをお勧めするものではありません。投資にあたっては自己責任でされるようお願いいたします。