ダフネ・カルアナ・ガリツィアさん爆殺事件から一年、ついにマルタ・ピラトゥス銀行が資金洗浄関与で免許取り消しへ
マルタ島で政府・金融界の癒着とマネーロンダリング疑惑を追及していたダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が爆殺されてから約一年。ようやく彼女が追及していたマネーロンダリングの舞台、ピラトゥス銀行がECBから銀行業免許を取り消されました。
ECB、マルタのピラトゥス銀行の免許取り消し 資金洗浄で ロイター/朝日
このマルタ政府とピラトゥス銀行、そしてダフネ・カルアナ・ガリツィア記者の爆殺事件に関する話題は、ロイターのコラムに詳しくまとめられています。
女性ジャーナリストは、なぜ爆殺されたのか/マルタとアゼルバイジャンを結ぶ点と線 ロイター/東洋経済
簡単にまとめると以下のようになります。
マルタ共和国のジョゼフ・ムスカット首相の汚職を追及していたダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が2017年10月、爆殺された。
ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が追及していたのは、マルタ島にあるピラトゥス銀行を舞台にした資金洗浄と、その周辺に群がる政府関係者との癒着体質
ピラトゥス銀行はアゼルバイジャン政府指導部と密接なつながりがあった。
ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者の指摘によると、ピラトゥス銀行の顧客のうち「需要な公的地位を有する者(Politically Exposed Person/ PEP)」とされる人物が二人いる。
PEPは政治家や政府高官、その親族が該当するが、ピラトゥス銀行にはアゼルバイジャン系のPEPが多数の口座を開設。
ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者によると、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の二人の娘、レイラ・アリエヴァとアルズ・アリエヴァがその二人であろうとのこと。この二人のPEPが作ったファミリー企業がピラトゥス銀行にとって最大の顧客。
こうした状況についてマルタ共和国の金融情報分析機関(FIAU)やEUの欧州銀行監督局(EBA)が調査をしてきたが、調査は遅々として進んでこなかった。
なお、ピラトゥス銀行はマルタ共和国のジョゼフ・ムスカット首相の政権下で2014年1月に銀行業の営業認可を与えられた。
ジョゼフ・ムスカット首相の最側近であるキース・シェンブリがピラトゥス銀行における口座開設の認可を行ったが、そのキース・シェンブリに対してはピラトゥス銀行から報酬が支払われているとのこと。
なお、ピラトゥス銀行の創業者はイラン国籍のアリ・サドル・ハシェミ・ネジャドだが、資金洗浄と制裁違反で米国に逮捕され、保釈拒否されたとのこと。
ピラトゥス銀行に銀行免許が与えられた翌年2015年、ピラトゥス銀行創業者のアリ・サドル・ハシェミ・ネジャドがイタリア・フィレンツェで結婚式を開いたが、その際にはマルタ共和国のジョゼフ・ムスカット首相や側近キース・シェンブリ氏も出席、親密さをアピールした。
そのほか、リンク先の記事にはその巧妙な手口がいろいろと書かれています。
しかし、このピラトゥス銀行の問題はなかなか調査が進展せず、闇の中に葬られそうになっていました。
それを暴いたのがパナマ文書です。
パナマ文書に記されたマルタ共和国政府関係者の汚職情報~ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が追及
パナマの法律事務所モサック・フォンセカによって作成された租税回避関連の機密文書パナマ文書にも、マルタ共和国における不透明な資金の流れが記されていたとのこと。
このパナマ文書は、マルタ共和国の政府関係者が2014年から手を染めた市民権、旅券の高額販売との関連が指摘され、ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者はジョゼフ・ムスカット首相の妻ミシェル・ムスカット、および官房長官コンラッド・ミッツィ、首席補佐官キース・シェンブリの関与を追及。
そうした活動のさなか、ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者は爆殺されてしまいます。
ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者、マルタ島で爆殺される
誰がどう見ても怪しい関係のピラトゥス銀行創業者アリ・サドル氏とジョゼフ・ムスカット首相、側近のキース・シェンブリ氏の関係。
さらにはマルタ政府関係者による市民権売買の実態や、マルタ島に登記されているオンラインギャンブル業界との関係など、こうした不正を追及していたダフネ・カルアナ・ガリツィア記者はマルタ島で爆殺されました。
10月16日、ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が自宅から自動車に乗り込んでエンジンを作動させたところ爆発。即死でした。
これに対してジョゼフ・ムスカット首相は「野蛮な行為」とこの爆殺を非難。
まぁ・・・どの口が言うのかって話ですが。
一応3人の実行犯が逮捕されましたが、その後、首謀者が誰であったのかまでは調査が進まず。
その後もマルタ島の首都バレッタではダフネ・カルアナ・ガリツィア記者殺害を見過ごした政府に対して抗議する集会が行われているようですが、うやむやにされそうな状況になっています。
ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が追及していたピラトゥス銀行がようやく免許取り消しだが・・・
今回、ダフネ・カルアナ・ガリツィア記者が不正を追及してきたピラトゥス銀行がようやく銀行免許取り消しになりました。
しかし、そもそもこのピラトゥス銀行は2014年に新規参入してきた銀行です。
問題の本質は、銀行免許や市民権の売買が安易に行われて、不正に使われる恐れがあるのにECBやEU当局が何も対応できない、という点です。
この部分が改善されない限り、第二、第三のピラトゥス銀、ダンスケ銀はは生まれるのであり、これはもうシステミックな問題だと思われます。
結局、今回のダフネ・カルアナ・ガリツィア記者殺害事件をめぐる問題のすべてが、トカゲの尻尾切りで終わりそうな雰囲気です。(ジャマル・カショギ記者殺害事件もかな?)
映画でいったらコスタ・ガヴラス監督のZとか、スティーブン・ギャガン監督のシリアナ、山本薩夫監督の金環蝕な世界。
いやはや、悪は蔓延る・・・。