「SaaSの40%ルール(Rule of 40)」を盲目的に信じるのは愚かだと思う件
「SaaSの40%ルール」とは?
「SaaSの40%ルール」という考え方があります。
「売上高成長率 + 利益率 ≧ 40%」
であれば良いSaaS企業だ。
・・・という一種のモノサシです。
ご存知の通り多くのSaaS企業は赤字ですから、PERなどで企業価値を推し量ることができません。
そこで、新たに作り出されたのがこの「SaaSの40%ルール」という考え方です。
これは北米のVCが利用し始めた尺度だと言われており、今ではスタートアップ企業への投資だけでなく、広く上場しているSaaS企業の評価の際にも利用される指標になっています。
「SaaSの40%ルール」に根拠なし?
広く一般的に利用されている、この「SaaSの40%ルール」ですが、
個人的にはその根拠がまったく理解できません。
自分は多くのSaaS投資家のブログやtweetなどを眺めてみましたが、なぜ「SaaSの40%ルール」が重要なのか、しっかりした説明をされている方はついぞ見当たりませんでした。
- なぜ利益率と成長率を足すのか
- なぜ40という数字なのか
自分は中卒なので、まったく理解できません。
そもそもにおいて、「SaaSの40%ルール」に当てはまるからといって、ではどの程度まで株価は正当化されるのか。
そういった株価への落とし込みという点でも、よくわかりません。
「とりあえず、これら赤字のSaaS企業はいずれ必ず大きく育つから、それらの銘柄のなかでキャッシュに余裕ができそうな企業を買っておこう。株価の評価はあとからついてくるさ。」
・・・という楽観が、この「SaaSの40%ルール」には含まれているような気がしてなりません。
「SaaSの40%ルール」の問題点~使用する利益率は営業利益率なのかFCF(フリーキャッシュフロー)なのか
またこの「SaaSの40%ルール」ですが、どうもよくわからないのが利益率の取り扱いです。
古い比較では営業利益率の赤字を利用しているものが多いのですが、最近ではFCF(フリーキャッシュフロー)をもとにしている企業が多いのです。
FCFを基にするということは、それだけ数字は嵩上げされることになります。
さらにいうと、「SaaSの40%ルール」を維持するために、よからぬ操作をできる余地を増やします。
「SaaSの40%ルール」をよく見せたいなら、株式による報酬を拡大すればいい
上で「SaaSの40%ルール」を維持するために、よからぬ操作をできる余地・・・と書きましたが、それはつまり、株式による報酬を増やすということです。
株式による報酬はキャッシュアウトを伴いませんので、FCFは傷まないのです。
しかし当然、株式による報酬が増えまくれば、それだけ株式は希薄化されますし、売り圧力は強まります。
既存の投資家にとっては良いことはあまりないのですが、「SaaSの40%ルール」の維持・改善のためには役に立ちます。
物差しの長さにあわせて業績の数字をいじくるというのは、まるでプロクルステスの寝台のようですが、そういったフザケタ会計が罷り通るようになっているのが、ここもとのSaaS界隈です。
本末転倒もいい所だと思います。
株式報酬が意味を持つのは、当該株価が将来的にもっと上昇するという前提があるからです。
そうでなければ、誰も現在の報酬額に納得しないでしょう。
つまり、SaaS企業の多くは、株価が下向きになれば、より多くの株式発行を余儀なくされるはずです。
たとえば、金利上昇などの外部要因による株価下落トレンドが始まると、いっきに連鎖する可能性があるのが、このSaaS企業群の問題だと思います。
「SaaSの40%ルール」なんかより金融緩和継続か否かだけを気にした方がいい
自分は、SaaS企業の株価が維持されているのは業績のためでなく、金融緩和のおかげだと思っています。
じゃぶじゃぶの金融緩和で株価が上がって、維持されているだけで、「SaaSの40%ルール」なんてどうだっていいと思っています。
実際、「SaaSの40%ルール」をクリアしている企業もしてない企業も上がってますしね。
赤字企業でもこれだけ大量の資金を集められるのは、20年ぶりくらいじゃないでしょうか。
サブプライムローンバブルの頃ですら、こんなにベンチャーにカネが集まる時代ではありませんでした。
むしろ、ITバブルに懲りて、格付けのついた金融商品を皆が求めすぎて、それがゆえに起きたバブルだったと思います。
現在のSaaSバブルはむしろサブプラよりもITバブルの方が近い。
赤字垂れ流しでもカネがガンガン集まるのはITバブルの時代以来じゃないかと思います。
そして今回は、当時よりも一社あたりの桁がデカい。
それを正当化させるための
「SaaSの40%ルール」
だと思います。
「SaaSの40%ルール」はPSRなどと同じレベル
思えば、ITバブルの頃にもPSRなどという指標が大手を振って広まっていました。
利益が過少であることを覆い隠すために、PER(株価収益率)ではなく、PSR(株価売上高倍率)に着目して選ぶような動きがありました。
さらにはキャッシュフローに注目する動きもありました。
結局、最後にそれらはあまり意味がなかったことが判明し、PERに収斂していくことになったわけですが・・・
「SaaSの40%ルール」には普遍性がないのではないか
とりあえず、PERは他アセットとの益回り比較・金利比較も可能ですし、株価のバリュエーションを評価する手法としても機能します。
EV/EBITDAもそうです。
割高、割安の定義がわかりやすく、比較がしやすい。
しかし、「SaaSの40%ルール」にはそんなものはありません。
自分には、どうもこの「SaaSの40%ルール」というのが普遍性のある指標になるとは思えません。
金融緩和姿勢の変化などで大きく評価は変わるように思います。
とりあえず、「SaaSの40%ルール」を訳知り顔で利用している奴は、
- よっぽど理解力のある天才か
- よっぽどわかったふりが得意な嘘吐きか
- よっぽど騙されやすい情弱か
のどれかだと思っています。
以上です。