EV(電気自動車)に3000億ドル(約33兆円)投資~世界の自動車メーカーが今後5~10年で~

自動車メーカーがEVに3000億ドル投資~うち半分は中国~

 

今後5~10年で、世界の自動車メーカーがEVに3000億ドルを投資するとロイターが集計して報じています。

世界の自動車メーカー、EVに3000億ドル投資へ VW・中国がけん引

これは、過去2年間に自動車メーカー各社が公表した投資計画をもとにした分析。

総額3000億ドルのうち約半分が中国への投資になるとのこと。

 

環境対策としてのEV普及

中国では2010年代半ばころ、非常に深刻な大気汚染が発生。

大気中の窒素酸化物や粒子状物質の濃度が高まり、人々は外出を控えるほどの状況になりました。

 

なお現在、これとまったく同じ状況にインドが置かれています。

大気中のPM、NOx濃度は中国の最悪期を場所によっては大きく上回っている状況。

 

さらに、かつては大気汚染とは無縁と思われてきた欧州でさえも、大気汚染問題に悩まされていると報じられています。

この背景には、欧州の自動車メーカーが2010年代に推し進めてきたディーゼル車の問題があると言われています。

(また、ロンドンなどでは暖炉も問題視されています。)

 

 

こうしたことから、中国、欧州を中心に環境規制強化の流れが加速しており、EV化の流れが急激に高まっています。

 

EU域内では2021年から環境規制が厳格化

EU域内では、CO2排出量規制が2021年から大幅に強化されます。

【EURO7/ユーロ7】欧州自動車2021年CO2(二酸化炭素)排出量規制を考える~設備投資は2019年後半から?

ディーゼルでこれを乗り越えようとしてきた欧州系自動車メーカーでしたが、偽装なしでこの条件をクリアすることができないことが判明。

急いでEV開発、48Vマイルドハイブリッド化などに舵を切っています。

 

 

中国では2019年からNEV規制開始

中国では今年からNEV規制が開始しています。

これは化石燃料を使って走る車を売るなら、そのぶんの1割はEVや燃料電池車などのNEVを売りなさいというもの。

これをクリアできないメーカーは、NEVメーカーにクレジットを渡すことを強いられる、というものです。

カリフォルニア州で導入済みのZEV規制を参考にした政策となっていますが、こちらは週単位ではなく国単位で行うあたりにスケール感の大きさが表れています。

しかも中国は人口13億人の大国ですから、自動車販売の規模感も違う、そういう状況です。

 

 

 

世界の各社は完全にEVモード

ここもと自動車メーカーから発表される技術のほぼすべてが、EVか自動運転に関係するものです。

間違っても内燃機関の関係ではありません。

自動運転はちょっと未来技術という感じがしますが、EVに関しては目の前に転がった技術です。

もう、すぐそこまで来ている技術であり、各社ともに前のめりになってEVの生産拡大と普及を後押ししようとしています。

 

 

 

EV向け電池技術は負極材の改良により劇的に改善か?

個人的には、このEV化の進展を後押しするのは、規制のほかに電池技術の改善、とくに負極材の改良ではないかとみています。

先日質問箱に以下のような質問が来ていました。

電池がボトルネックになると思うけど、なにか注目する技術はありますか?

という質問です。

いつも質問箱のご利用いただきありがとうございます。

 

返事にも書いた通り、自分は負極材の改良が大幅な電池の性能向上に繋がるんじゃないかとみています。

少なくとも、あと3年以内には、何かが見つかるんじゃないかとみています。

もちろんこれはあくまでも現在の予測でしかありませんが、これまでの経緯からみて、技術開発はそのくらいのスピードで進むんじゃないかとみています。

もしそうなれば、EVの航続距離は一気に1.3倍程度以上にはのびるはずです。

ざっくりとした感覚ですが、そんな風に考えています。

 

 

 

EVは不便で高い、という状況は早晩改善する

いまは内燃機関の自動車の方が安いですが、個人的な見立てでは、いずれEVの方がやすくなるはずです。

これは、数年前まで火力発電の方が安いと言われていたのに、今では将来的に風力や太陽光発電が一番低コストだと言われ出したのと似ています。

 

もっというと、今どきは馬車を買う方がガソリン車を買うよりも高コストだと思われますが、たぶん100年前くらいなら、T型フォードよりも馬車の方が安かったはずです。

 

結局のところ、生産効率を高めるための技術開発にどれだけの伸び余地があるか、という点は非常に重要です。

ガソリン車は伸び余地が非常に限られており、EVはかなりの伸び余地があります。

内燃機関の部品をマシニングセンタで作るより、どう考えてもモーター作るほうが効率よくできるでしょう。

複雑なCVTを作るより、モーター側からのダイレクトな出力に多くを頼る方が単純、シンプルなはずです。(まったくトランスミッションが要らないとはいいませんが。)

もっというと、インホイールモーターを利用すれば、それこそシャフトなんかもいらなくなってしまう。

インホイールモーターに期待が集まるNTNの業績をみてみよう

こういうのを色々考えていくと、EVは確かにいろいろと難しい部分はありながらも、改善の余地がある。

そして、その余地が改善されまくったときは、内燃機関の自動車は太刀打ちできないくらいの低コスト化が実現するのが目に見えているのです。

 

 

 

 

思うに、現在のEVは90年代半ばのPC/AT互換機ブームに似ているように感じます。

当時、日本のパソコンの中心はNECのPC98占めていました。

しかし、徐々に徐々にPC/AT互換機が伸していった。

これには、クローズドに囲い込みとすり合わせを重視したPC98と、

技術情報をオープンにしまくって、いろんなメーカーの参入を受け入れ、不具合がいっぱいあるけれど安価で生産効率を高めたPC/AT互換機の戦略の違いがあります。

当初は相性問題ともいわれる不具合だらけだったPC/AT互換機は、やがて各社がオープンな環境で規格作りをするようになっていき問題発生は減っていきました。

それと同時に、非常に高性能でやすいマシンが大量に供給されるようになったのです。

 

 

いまの内燃機関の自動車は、まさにPC98などが陥ったクローズドなすり合わせと囲い込みの文化にみえます。

トヨタ自動車の豊田章男は、なにかというと「仲間づくり」が好きですが、やっていることはオープンイノベーションというよりも、囲い込みによるクローズドな内輪の利益の極大化にみえます。

そういったメンタリティを喜ぶような世界ではなくなってきている、と自分は思います。

 

 

いま、世界のEVメーカーをみていると、非常にシンプルな生産ラインを低コストで回して大量に作るビジネスモデルが出てきているように感じます。

今までは否定的に見られたそういったやり方が、もしも上手くいってしまったなら、既存の自動車メーカーはかつてのNECや富士通、アップルのようになりかねません。

また、EV生産に積極的に乗り出しているVWやダイムラーなどだって、パソコン業界の巨人として君臨していたコンパックやヒューレットパッカードのようになる可能性すらある。

もしも自動車がコモディティ化していくなら、そういう世界が待っていることになります。

そうした中では、より人員を削減して行く必要があるはずですが、日本の大手自動車メーカーは内向きの思考がなかなか抜け切れず、没落する危険性を孕んでいます。

 

長々となりましたが、個人的にこのことに危険性を感じています。

生産設備の需要変化も含め、いろいろと日本の製造業にとって試練となる可能性があります。

と同時に、中国や欧州のEV化の流れは、たぶん成功するだろうなと思います。

そういった未来にも生き残れる、EVの技術に噛める企業と噛めない企業、そこの対比がおきるのが2019年、2020年あたりから本格化するんじゃないかとみています。

以上です。