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ベネズエラ国有石油会社『PDVSA』について

ベネズエラ国有石油会社『PDVSA』について

 

今回は、いま話題のベネズエラの国有石油会社、Petróleos de Venezuela, S.A. 略してPDVSAについて書いていきます。

まずはPDVSAの説明をする前に、ベネズエラの石油について先に書いておきましょう。

 

 

 

ベネズエラは世界一の原油埋蔵量を誇る国。その国の国有石油会社がPDVSA

ベネズエラは、世界一の原油埋蔵量を誇る国です。

一般的には、原油というと中東のイメージがあると思います。

古い知識の方ですと、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、クウェートやイラクやイランが頭に浮かぶ人が多いと思います。

また、いくらか新しい知識の方でも、ロシアが世界一の原油埋蔵量の国だと思っている人もいるかもしれません。

しかし、現在判明しているところによると、ベネズエラが可採埋蔵量で世界一と言われています。

【統計】国別原油埋蔵量とシェア~ベネズエラが原油埋蔵量1位

なお、この判明分は隣国ガイアナとの国境紛争地域の部分は含みませんので、それも分割すると非常に大きな埋蔵量の積み増しになります。

のちほど書きますが、現在隣国ガイアナではアメリカのエクソンとヘスが、単独の油田としては世界最大級の埋蔵量を誇る油田の開発を進めています。

ベネズエラは国境確定していない地域での開発に対して権利を主張しており、ベネズエラの埋蔵量はまだ積み増される余地があります。

 

 

オリノコタール(オリノコ超重質油・ウルトラヘビーオイル)を開発するPDVSA

PDVSAが主として扱う原油は、一般的な原油とは大きく異なります。

ベネズエラは上記のとおり大量の原油埋蔵量を誇る国なのですが、そのほとんどがオリノコタールといわれる、超重質油です。

超重質油というのは、簡単にいうと重質油の中でもさらに重質。

ほとんどの部分が固形状態のような、ビチューメンと同じようなものとなります。

ただし現状ではPDVSAは油分の多い箇所のみをくみ上げているので、オイルサンドのような開発方法ではなく、普通にポンプによるくみ上げを行っています。

オリノコタールは軽質分に乏しく、粘性が高く、硫黄を多く含み、重金属も多いです

このままでは使い物にならないので、水素添加や熱分解などの改質作業(アップグレード)をしっかりやることで脱硫、重金属除去して、利用可能になります。

 

 

 

PDVSAがオリノコ超重質油を開発するオリノコデルタ

オリノコタール(オリノコ超重質油)はオリノコ川(オリノコデルタ)周辺に広がっており、これがPDVSAの主たる生産拠点です。

なお、マラカイボ湖周辺からは軽質油も産出されますが、長い間採掘し続けたせいで採掘量は衰えています。

 

 

PDVSAが改質(アップグレード)を行う石油精製施設がある場所

上記のオリノコ川周辺などから集めたオリノコタールは、ベネズエラ国内のプエルト・ラ・クルスやカラカスの精製施設で改質・精製されます。

また、オランダ領のキュラソー島やボネール島にあるPDVSA施設でも精製や改質が行われ、貯蔵が行われます。

これは、輸出向けに積み出しをするためには、ベネズエラだけでは港湾設備上の問題があるからと言われていますが、他の意図もあるようで、よくわかりません。

 

 

 

ここからはようやくPDVSAの話になります。

『PDVSA』とは?

『PDVSA』とはベネズエラ国有石油会社Petróleos de Venezuela, S.A. の略称です。

ベネズエラ国有石油会社では長すぎるので、基本的にはPDVSAと略されます。

欧米の新聞などでもPDVSAの表記が一般的です。

 

 

1976年の国有化で誕生したPDVSA

1960年代、70年代は、世界の原油産業が国有化された時代でもあります。

それまでセブンシスターズと呼ばれる欧米系の石油メジャーが国家の後ろ盾を得て反植民地化した国々で暴利をむさぼってきました。

それが60年、70年代の反植民地機運のなかで国有化されていく流れになります。

ベネズエラのPDVSAもそんな中で生まれた企業です。

 

 

国営企業として自由度のある経営をしていた90年代までのPDVSA

しかし、国営企業になったからと言って、国の財政と統合された存在になったわけではなく、あくまでも独立した経営が行われていたのがPDVSAの特徴でした。

これはたとえば、現在で言えばサウジのサウジアラムコ、ブラジルのペトロブラスなどを見てみればわかります。

そういった、国営だけれど、財政とは統合されていない時代がPDVSAにもありました。

さきほども書きましたが、PDVSAの生産する原油は非常に重質のオリノコ・ウルトラヘビー・オイルといわれるもので、ベネズエラ国内だけの精製技術では石油として使い物になる段階にもっていけません。

高度な改質作業を導入するためにも外資との提携が必要であり、そのため、PDVSAはコノコフィリップスやエクソンモービルなどの米国資本と提携してオリノコヘビーオイルの開発を進めていました。

 

 

ウーゴ・チャベスの誕生とともに財政に組み込まれるPDVSA

しかし、こうした自由だった時代のPDVSAの経営は、超左翼主義のウーゴ・チャベス大統領の誕生とともに終わります。

反米左翼のウーゴ・チャベス大統領は、娘が

「国旗の馬の絵がどうして右を向いているか?」

を尋ねたら、

「それは資本主義陣営への礼賛だからだ」

と答えて馬の向きを左向きに換えるような、そんなガチな左巻きの大統領でした。

このウーゴ・チャベス大統領がPDVSAの経営に介入します。

まず、PDVSAが使用する開発権利料(利権料)を高く設定します。

さらに、税金と社会開発支出費用を拠出させます。

これらすべてをあわせると、単年度のPDVSAの粗利益のうち8~9割が国庫に納められるかたちとなり(年度によって異なる)、残りの1割でCAPEXを賄わねばならないことになりました。

 

 

ウーゴ・チャベス大統領による国有比率引き上げとPDVSA~コノコフィリップスとエクソンモービルが撤退することに~

上記のような経営をPDVSAは強いられていましたから、業績は悪化します。

これを避けるためにウーゴ・チャベス大統領はPDVSAと外資合弁事業について、60%をPDVSAのシェアにするよう要求。

しかも無償で。

これを断ったコノコフィリップスとエクソンモービルはその後PDVSAとベネズエラ政府と賠償訴訟を繰り返します。

 

 

 

コノコフィリップスやエクソンと喧嘩したせいで設備投資ができなくなったPDVSA

なお、さきほども書きましたが、オリノコタールの開発には高度な改質設備が必要です。

それなのに、アメリカ企業のコノコフィリップスやエクソンと喧嘩したせいで、米国による制裁措置などを招くことになり、しかも米国企業もカントリーリスクを嫌って受注をとらなくなり、設備投資をまともにできなくなりました。

 

 

設備投資が滞ったせいで原油生産量が激減しているベネズエラおよびPDVSA

ベネズエラの原油生産量は、設備の問題から大きく減少しています。

【統計】ベネズエラの原油生産・石油精製能力・石油精製量・原油埋蔵量

なお、公式統計では設備の問題は書かれていませんが、たぶんかなり老朽化しています。

だって、シュルンベルジェやハリバートン、ベーカーヒューズなどの米国企業がカントリーリスクを嫌って参入してくれないから。

 

 

 

 

PDVSAの稼ぎのほとんどは米国シットゴー(CITGO)を通じた輸出

なお、アメリカと喧嘩をしているベネズエラですが、PDVSAの売上のうちほとんどは米国の石油販売会社、シットゴーCITGOを通じた稼ぎです。

だいたい95%程度でしょうか。

その貿易相手国に喧嘩を売っているのが、現在のベネズエラです。

普通に考えてありえません。

 

 

コノコフィリップスとの訴訟に負けてオランダ領キュラソー島やボネール島の製油施設・貯蔵施設を差し押さえられたPDVSA

さきほど書いたキュラソー島やボネール島のPDVSAの製油施設ですが、これを裁判に負けたカタにコノコフィリップスに差し押さえられています。

これにより、積み出しに時間がかかりまくって輸出が激減しているといわれています。

18/6/8午前 ベネズエラPDVSA、原油積出待ちの滞船深刻化 不可抗力条項発動か?

6月には滞船深刻化で不可抗力条項発動しました。

 

 

マドゥロ政権打倒のため、米国はPDVSAに経済制裁

なお、先ほども書きました通り、PDVSAの稼ぎ頭はシットゴーを通じた米国への石油売却です。

これらが、米国の推し進めるマドゥロ政権打倒の方針により経済制裁対象になっています。

万事休すといったかんじです。

 

 

とりあえず、そんなこんなでPDVSAについて書いてみました。

以上です。