サウジ反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏(Jamal Khashoggi )がサウジ領事館内で殺害された可能性~トランプ大統領の対応に焦点集まる可能性
サウジ王室に対する批判記事を書いてきた反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏(Jamal Khashoggi )がトルコ国内サウジ領事館内で殺害された可能性
In days before he disappeared, Jamal Khashoggi told friends ‘not to … Washingtonpost
Journalist Jamal Khashoggi ‘killed inside Saudi consulate’, Turkish … The Independent
サウジアラビア出身の反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(Jamal Khashoggi )が何者かによって殺害されたとのことです。
ジャマル・カショギ氏は生きていれば13日で60歳、インディアナ州立大で経営学を学んだのち、いくつかの仕事をしてサウジ・ガゼット誌などの特派員を経験。
その後、ジャマル・カショギ氏はサウジアラビアの英字新聞アラブニュースの副編集長に就任(1999~2003年)。
ジャマル・カショギ氏はその後、2003年にサウジアラビアの日刊新聞Al Watanの編集長をつとめましたが、すぐにサウジ情報省によって解雇されたため、その期間はたった52日間だったとのこと。
その後、英国への一時的な拠点の移動を経て、再度2007年4月からAl Watanの編集長に復帰。しかしその後また辞任。
2010年にはアルワリード・ビン・タラール皇子( Al-Waleed bin Talal )に任命され、バーレーンのアル・アラブ・ニュース・チャンネル(Al Arab News Channel )のディレクターに就任。
また、ジャマル・カショギ氏はMBC、BBC、アルジャジーラ、ドバイTVなどのコメンテーターとして活躍。
2017年9月18日にサウジアラビアを脱出後、米国に居住してワシントンポストなどにサウジ王室を批判する記事を書いていたとのことです。
ジャマル・カショギ氏はムハンマド・ビン・サルマン皇太子の批評家として知られ、サウジによるイエメンへの侵攻に批判的だったとのこと。
以上、Wikipedia
ジャマル・カショギ氏はかつてはサウジ王室のために働いていていましたが、その言動を巡って問題となり、現在は米国に在住してワシントンポストなどにコラム記事を寄稿していたとのことです。
ジャマル・カショギ氏は現在婚約中のトルコ人女性ハティージェ・ジェンギズ(Hatice Cengiz)さんと結婚するため、その手続きのために今月2日、トルコ国内のサウジ総領事に赴いたとのことです。
ところがいつまでたってもジャマル・カショギ氏が出てこない・・・
トルコ政府はジャマル・カショギ氏が拷問の末に殺害され、ミンチ肉にされて持ち出されたとしてサウジ当局を非難。
これにたいし、サルマン皇太子はブルームバーグニュースのインタビューに対し、ジャマル・カショギ氏がサウジ領事館にいた事実を否定。トルコ側に領事館内の捜索を認めるつもりと語ったそうです。
ジャマル・カショギ氏はウサマ・ビン・ラディン氏にもインタビューをしたことがあるほか、ムスリム同胞団の擁護をするなど、サウジ王室の方針とは異なる見解を述べてきたとのことです。
また、現在のサウジの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の行動に対しても批判的な見解を示していました。
なお、ジャマル・カショギ氏をアル・アラブ・ニュース・チャンネルのディレクターに推したアルワリード・ビン・タラール皇子はサウジ王室の投資家として知られていましたが、2017年11月にムハンマド・ビン・サルマン皇太子に拘留され、金銭などを支払うことで解放されたと伝えられています。
そうやってみていくと、今回のジャマル・カショギ氏の一件は、ようするにサウジ国内における派閥争いのひとつなのかもしれません。
はたしてこれをトルコがどれだけ追求できるか。
また、アメリカはこのジャマル・カショギ氏の一件にどれだけ関与していくのか。
(かつてサウジ出身で、しかも米国、英国で活動、ビンラディンにも90年代にインタビューしていたということは、たぶんジャマル・カショギ氏はキャリアのいずれかの時点で、米国の特務機関との繋がりもあったはず。アメリカとして見殺しにしていいか、わるいか。現場の士気も含めて対応に難しいものがあるかなと思います。)
米トランプ政権(とくにペンス、ポンペオ)は現在、サウジ王室、イスラエルと密接な関係を築いており、いきなり人権問題を持ち出して騒ぐとは思いませんが、はたしてこの件を穏便に処理できるのかどうか。
非常に難しい事件が起きてしまったな。ちょっとオイタがすぎるんじゃないかな、と思います。
以上。
(10月16日追記)
サウジ政府、ジャマル・カショギ氏殺害を認める方針
サウジ政府はとうとう殺害への関与をゲロったようです。
ここまでの経緯を纏めます。
ジャマル・カショギ氏、在トルコ・サウジ領事館に赴く
ジャマル・カショギ氏は2018年10月2日にトルコにあるサウジ領事館に赴きました。
目的は、現在の婚約者であるハティス・チェンギスさんとの結婚のため。前の奥さんとの離婚証明書をとりにいったとのことです。
このとき、ジャマル・カショギ氏の婚約者ハティス・チェンギスさんはサウジ総領事館の外で待機していたとのことです。
ジャマル・カショギ氏は独りでサウジ領事館に離婚証明書をとりに乗り込みます。ただ書類をとりに入っただけですから、手続きが済めばすぐに帰ってくるはずでした。
ところが、いつまで経ってもジャマル・カショギ氏は外に出てこない・・・ハティス・チェンギスさんは11時間?外で待っていたとのことですが、カショギ氏は出てこなかったそうです。※1
(※1 実はこの時、ハティス・チェンギスさんはジャマル・カショギ氏が内部で拷問を受けていたことを知っていた可能性があります。あとからの報道によると、ジャマル・カショギ氏は特別製造のアップルウォッチなのか、なになのか、そういったデバイスを身に着けており、外部に自身が拷問されている録音をペアリングで流していた可能性が出てきています)
このとき、数台のサウジ外交当局のクルマが出入りしていたことが、周辺の監視カメラから確認されています。何人の人物が乗っていたのかは不明。※2
(※2 あとからの報道によると、二機の小型ジェット機ガルフストリームに分乗した15人がサウジからトルコの空港に急遽やってきたとのこと。そして、このジャマル・カショギ氏の殺害事件疑惑のあとすぐ、この二機のガルフストリームはサウジに帰ったとのことです。)
なお、のちにわかったことですが、米情報機関もジャマル・カショギ氏の身に危険が及びつつあることは把握済みだったとのこと。
どうもいろいろな情報から判断するに、このジャマル・カショギ氏もその婚約者も、実は事前にこうなることはある程度予測の上で行動していたのではないか・・・という気が個人的にはしています。
ハティス・チェンギスさんは上記の事実をもとに、ジャマル・カショギ氏が拷問のすえ殺害された可能性があることをトルコ当局に連絡。
トルコ当局は証拠や状況を確認後、捜査を開始しましたが、やはりその情報はメディアに漏れました。
「サウジの著名な反政府ジャーナリスト・ジャマル・カショギ氏、トルコのサウジ領事館内で殺害される」
この報道が世界に一気に流れたことで、サウジ政府を糾弾する動きが広がります。
サウジ政府は急いで証拠隠滅を図ります。
いつの時点で行われたかわかりませんが、ジャマル・カショギ氏の死体をミンチ肉にして排水溝から下水に流したとのことです。
しかし、そんなことをしても証拠はガッツリと婚約者ハティス・チェンギスさんとトルコ側が握っています。
トルコ側は追及の手をやめず、総領事館内を捜査させるようサウジに要求します。
サウジはこれに応じて合同捜査部を立ち上げることに同意しますが、のらりくらりと時間をかけて先延ばしをしようとします。
トルコ側の追及が苛烈になります(当然です、動かぬ証拠を持っているのですから。)
あまりにもトルコ側の追及が激しい。
また、トルコはすぐにサウジを非難する声明を発表していたので、これはトルコが何かを握っているのではないか?と多くのメディアも本腰を入れ始めました。10月9日前後のことです。
このあたりからメディアの報道も「ジャマル・カショギ氏がサウジ上層部の指示で殺される」といった感じの報道に切り替わります。
ジャマル・カショギ氏殺害事件を受け、ビジネス関係者、メディア関係者が「砂漠のダボス会議」に出席を相次いで取りやめ
サウジアラビアでは、10月23日~25日の日程で「未来投資イニシアチブ」(別名:砂漠のダボス会議)といわれる経済フォーラムが行われる予定でした。
この「砂漠のダボス会議」(未来投資イニシアチブ)はサウジの実質的な権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主催する経済フォーラムで、同国の政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)による投資先を選ぶ場、そして世界からサウジの権益への投資を呼び込む場でもありました。
しかし、これを主宰するCNBCとBloombergがジャマル・カショギ氏殺人事件を受けて出席をキャンセル。
CNN、NYタイムズ、フィナンシャルタイムズなども参加拒否。
経済関係者もVirginグループ、ブラックロックなど軒並み参加をとりやめています。
なお、アメリカのムニューチン財務長官は参加する模様。
ソフトバンクの孫正義氏も参加をとりやめたという報道は聞いていませんからするのでしょう。
ジャマル・カショギ氏の殺害にサウジが関与していたとの疑いを深めた米上院外交部がサウジ制裁を検討
ジャマル・カショギ氏の殺害にサウジ上層部が関与していたと、米国の情報機関も認めているようです。
これを受け、米上院外交筋はサウジへの武器売却の停止や経済封鎖などの措置をとるようトランプ大統領に圧力をかけ始めています。
これに対してトランプ大統領は
「いまサウジと手を切ったなら、ロシアや中国がサウジを囲い込みにくる。」
と兵器売却を続けることを主張。
そりゃそうです。この1100億ドルにも上るサウジへの武器弾薬の売却契約は、トランプ大統領が最初の歴訪でとってきた成果です。そう簡単にはこのディールを破棄できません。
しかし、だからといってこのまま放っておいてはまずいことは確か。
そこでトランプ大統領自らが電話会議してみたり、ポンペイオ米国務長官を急遽サウジに派遣して直接交渉させてみたりと色々やっています。
ジャマル・カショギ氏の殺害状況はアップルウォッチ(Apple Watch)で記録されていた?
今回の事件ですが、トルコ側は当初から強気です。
サウジがいくら
「ジャマル・カショギ氏の殺害に関与していない。」
「ジャマル・カショギ氏は領事館の外に自分で出ていった」
と主張しても、「領事館内で殺害された証拠がある」とトルコ側は主張して一歩も引きません。
この件について、中東カタールのテレビ局アルジャジーラなどは、トルコ側が確実な証拠を握っていると伝えています。
また、その証拠はロイターなどの各種報道によりますと、
「ジャマル・カショギ氏が身に着けていたアップルウォッチ(Apple Watch)を利用して録音・配信されたもの」
とのことです。
しかし、自分はこの件に関しては非常に疑問を持っています。
というのも、アップルウォッチのペアリング機能というのは、あくまでもポケットやバッグの中にiPhoneをいれたままでもアップルウォッチから通話や音楽を聴くなどの操作をiPhone経由でするためのもの。
決して何十メートルも離れたところで行うためのものではないからです。(しかも領事館ですから壁なども厚く作られているでしょう。到底、ふつうの電波が届くとはおもえません。)
また、公衆ワイヤレス通信などを使って飛ばすこともできないでしょう。トルコにはそういったサービスはないはずですから。
というわけで、この信ぴょう性はやや薄い・・・わけですが、しかし証拠は残っている・・・のだとすると、考えられるのはただ一つ
ジャマル・カショギ氏と婚約者は情報機関勤務経験があるか、そういった方面に顔が効き、高出力のワイヤレス通信環境を作れるルーターを保有していた
ということ。
そして、
ジャマル・カショギ氏と婚約者は、拷問されて殺される可能性を十分予想しながら、ジャーナリスト精神に突き動かされて行動した
のではないか。
ジャマル・カショギ氏は、近しい友人に対し7月ごろから身の危険を感じる旨の話をしていたそうです。
「いずれ殺されるなら、犬死したくない。どうせならサウジ皇太子の悪事を暴いて死んでやる」
そう考えた可能性は十分にあるんじゃないか、と個人的に見ています。
(ぶっちゃけた話、ジャマル・カショギ氏の経歴をみればわかりますが、あっちこっちの特派員をしています。どうも、なんとなく、そっち方面の人の匂いがします。)
とりあえず、どんな機器を使ったのかわかりませんが、ジャマル・カショギ氏の婚約者は同氏が拷問を受けるときの音声などを手に入れているようです。
それをトルコの機関が入手し、誰かがそれを暴露してしまった。。。ということになります。
ジャマル・カショギ氏殺害の手口
ジャマル・カショギ氏はどのように殺されたのか。
これについて、アルジャジーラのJamal Elshayyal記者は以下のようにTweetしています。
LATEST: Turkish sources reveal details of how @JKhashoggi was murdered. #JamalKjashoggi was beaten as soon as he entered the consulate. He was not interrogated. After being beaten he was killed by lethal injection. This happened in the consul generals office & in front of him!
— Jamal Elshayyal جمال الدين الشيال (@JamalsNews) October 16, 2018
ジャマル・カショギ氏は領事館に入ってすぐに殴られた。彼は尋問をされなかった。殴られたあと、致死性の注射を打たれて殺された。
They have told #Aljazeera that #JamalKhashoggi’s body was then dismembered by the head autopsy doctor at the #Saudi defense forces Salah Altubaiqi who flew in earlier that day! This happened also inside the @KSAconsulateTR
— Jamal Elshayyal جمال الدين الشيال (@JamalsNews) October 16, 2018
その後、サウジの軍医であり剖検医長でもあるSalah Altubaiqi なる人物によって、ジャマル・カショギ氏の死体は解体された。このサウジの軍医は当日(ガルフストリームに乗って)トルコにやってきた人物、、、とのこと。
LATEST According to the recordings that #Turkey’s investigators have, the doctor dismembering @JKhashoggi body asked that music be played while he cut up the journalist’s body! #JamalKhashoggi
— Jamal Elshayyal جمال الدين الشيال (@JamalsNews) October 16, 2018
トルコ捜査当局が持っている録音によると、この軍医はジャマル・カショギ氏の死体解体作業中に音楽を鳴らすよう頼んだとのこと。
LATEST when #JamalKhashoggi entered the consul generals office he saw the needles and asked what are they for, within seconds he was being beaten, and then was injected and killed.
— Jamal Elshayyal جمال الدين الشيال (@JamalsNews) October 16, 2018
ジャマル・カショギ氏が事務所に入ってすぐ、針を見て何をするつもりかと叫んだ、間髪いれず殴られて、注射されて、殺された
意訳も含みますが、そういう内容です。
これが事実なら、本当におぞましい。
まるでオウム真理教やカルト教団の手口じゃないですか。
ジャマル・カショギ氏の殺害時の録音は真実か?
「ジャマル・カショギ氏の録音とされるものが正しかった場合、これが世界的に流布することをトランプ政権は恐れるのではないか。」
そんな気がします。
そして、表ざたにならないように、消去しようとするのではないか・・・
そんな気がします。
となれば、このコピーが流布するのを阻止しようと、婚約者に対して圧力をかける可能性がある。
ジャマル・カショギ氏の婚約者が危ないかも
はっきりいって、あの婚約者の方も肝が据わってます。
夫が殺害されて、切り刻まれるのをしっかり録音とっていたわけでしょう?かなりのキモの座り方です。
たぶん、通常の人じゃないと思います。情報機関所属歴があるかもしれない、と自分は感じます。
ジャマル・カショギ氏のような人物が選んだ女です。
世界がサウジに寛容な態度を示そうとし始めたら、握っている最後の何かを炸裂させる気じゃないか、そんなふうに思います。
逆に言うと、それを阻止しようとする動きも確実にあるはず。
サウジとの関係を決定的に悪化させたくないとアメリカは考えています。
ジャマル・カショギ氏の婚約者のかた、あぶないかもしれない、と思います。
トランプ政権はジャマル・カショギ氏殺害事件の幕引きをしたがっている
トランプ政権は、サウジアラビアとの関係を断ちたくありません。
一つの理由は、サウジとの経済的関係。
アメリカは原油の輸入国ですが、サウジからの輸入が2位です。もしも禁輸となれば、アメリカ経済に大きな影響が及びます。
また逆に、サウジはアメリカから兵器を大量に購入しています。
トランプ政権は最初の歴訪先にサウジを選びましたが、ここで1100億ドル(12兆円)もの武器弾薬の売買契約を結びます。
ボーイングやロッキードマーチンなどの航空機、レイセオンのミサイル、ロケットなどを売却する契約です。
こういったサウジとの契約がご破算になることは、アメリカの輸出産業である軍需産業に大きな影響を与えることになります。
また、もしもサウジとアメリカが断交することになれば、サウジは間違いなくロシアや中国に近づくでしょう。
それは米国の覇権の裏付けのひとつであるエネルギー政策の掌握を失うことになります。これは大きな問題です。
もうひとつ、イランとの関係があります。イランはイスラエルに対して非常に敵対的です。
中東戦争を繰り返した結果、アラブの諸国は総じてイスラエルとは和解の方向に向かっています。
しかし、イランだけは頑なにイスラエルとの敵対姿勢を鮮明にしています。イスラエルに向けてミサイルの照準を定めている、、、はずです。
イスラエルとしては、このイランへの牽制をしておきたい。
そのためにイスラエルは、アメリカを抱き込んでサウジと近づいています。
この関係が壊れることは、中東の安全保障問題にも関わりますから、絶対にサウジを切ることができない・・・そう考えているのだと思われます。
つまり、ジャマル・カショギ氏がどんなに残忍な手段で殺されたのだとしても、アメリカのトランプ政権としてはサウジを庇いたい。サウジの王室、サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王とその息子ムハンマド・ビン・サルマーンの派閥とのルートは作っておきたい・・・と考えているのだと思います。
問題は、これがアメリカの総意かというと微妙なところ。
トランプ政権がいくらサウジ王室を庇おうとしても、議会の方が納得しない可能性があります。すでに上院外交部は動いています。
そもそも、国民やメディアが納得するか?という問題もあります。他国の眼もあります。
このような状況で、トランプ政権がジャマル・カショギ氏殺害事件の問題で上手く立ち回ることができるかどうか。
非常に難しい局面にきている、と感じます。