サウジ反体制派コラムニスト・ジャマル・カショギ氏が在トルコ・サウジ領事館で殺害されミンチ肉に?~米・英・土が徹底調査を求める展開に~
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に批判的なコラムを書いてきたサウジ出身のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された可能性
サウジの実質的な権力者、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子に批判的な記事をワシントンポストなどに掲載してきたコラムニスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された可能性が出ています。
ジャマル・カショギ氏はサウジ政府からの圧迫を逃れ、現在米国に生活の拠点を移し、ワシントンポストなどに寄稿していました。
ジャマル・カショギ氏はトルコ人女性ハティス・チェンギスさんとの結婚を控えており、前の妻との離婚証明書類をとりに在トルコ・サウジアラビア領事館に赴いたとのことですが、11時間たっても出てこず、その後消息不明。
この件に関しトルコ政府筋は、ジャマル・カショギ氏が領事館内にて、サウジから派遣された特殊工作員15人によって拷問され殺害された可能性に言及。
ジャマル・カショギ氏の遺体はミンチ肉にされ領事館外に持ち出されたとの情報が流れています。
これについて、サウジ政府は事実を否定。
ジャマル・カショギ氏は自分で外部に出ていなくなったと説明しています。
ここまでが、前回の記事で書いた内容。
サウジ出身の反体制記者ジャマル・カショギ氏がサウジ領事館内で殺害された可能性
その後の展開
Turkey says will search consulate where Saudi journalist vanished Cyprus mail
エルドアン大統領はジャマル・カショギ氏が領事館から出た証拠を示すようにサウジ政府に要求。
また、ポンペオ米国務長官もサウジ政府に対し徹底究明を要請。
ハント英外相は駐英サウジ大使にカショギ氏問題に関して早急に状況説明するよう要請。
なお、この件に関してムハンマド・ビン・サルマン皇太子はブルームバーグに「何も隠していない、トルコ当局の捜査を受け入れる」といっています。
が、実際にはいまだにトルコ政府の捜査は行われていません。
個人的に、これは
「やっちまったな」
と思います。
このジャマル・カショギというコラムニストですが、経歴をみるとどうやら、米国の関係者だったのではないか、と感じます。
現在、アメリカに居住中とのことですが、単に住んでいるというよりも、これまでの功績をみとめられての、亡命みたいなものでしょう。
BBCのこちらの記事によると
Jamal Khashoggi: Turkey says journalist was murdered in Saudi consulate
ジャマル・カショギ氏は2017年9月のワシントンポスト紙のコラムのなかで
“I have left my home, my family and my job, and I am raising my voice,”
“To do otherwise would betray those who languish in prison. I can speak when so many cannot.”
「私は家と家族と職を離れ、声を上げることにした」
「そうしなければ、牢屋の中で衰えていく人々を裏切ることになる。私は話すことができる、多くの人が話せないことを。」
この2カ月後、ジャマル・カショギ氏のバックアップをしていたアルワリード・ビン・タラール皇子などが、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の組織した反汚職委員会によって逮捕、拘束されます。
表向きの理由は反汚職でしたが、これは王族内の政治争いであったというのが多くのウォッチャーの見立てです。
サルマーン・ビン・アブドゥルアジーズ・アル・サウード国王と、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の方針に反対する勢力の一掃が目的だったのではないか、というものです。
アルワリード・ビン・タラール王子は世界的に著名な投資家として知られていましたが、この件で多くの資産をサウジ政府に接収されたといわれています。
なお、このアルワリード・ビン・タラール王子はトランプ大統領(当時は大統領候補)とツイッター上で罵りあいをしたことで知られています。
ですから、2017年にムハンマド・ビン・サルマン皇太子によって失脚させられたときも、結局、アメリカの後ろ盾のある人物(ムハンマド・ビン・サルマン皇太子)が、アメリカの後ろ盾のない人物(アルワリード・ビン・タラール王子)を消しただけ・・・というふうに自分は感じました。
今現在、サウジの実質的権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は米国による強力なバックアップを受けています。
しかし、さすがに今回のジャマル・カショギ氏の一件は、いろいろヤバいのではないか、と感じます。
アメリカとしては、疑わしきは罰せずを貫きたいところですが、それが果たして可能かどうか。
ジャマル・カショギ氏の問題に関し米国がサウジの支持を決め込んだならば、トルコとサウジとの関係というよりも、トルコと米国との関係が一段と悪化するものと思われます。
トルコとアメリカとの関係は既にアンドルー・ブランソン牧師問題で拗れています。
エネルギー利権を狙うためにクルドを焚き付けて、トルコの分断を図っているとして、トルコ国民は米国に対して敵意を抱いています。
そこにさらに今回の件でサウジを擁護したなら、米国へのトルコ国民の眼は最悪になるでしょう。
オリエントと西側を繋ぐこの地域の足掛かりを失うことがどれほど大きな問題になるか、アメリカはまだ理解できていないように思います。(東西の交易路です。パイプラインの問題もあります。)
今回のジャマル・カショギ氏の問題、本当に大きな転機になりかねない事件です。
しっかり見ていくべきと思います。
以上です。
(2018年10月11日更新)
トランプ政権は、ジャマル・カショギ氏の失踪問題に関して、婚約者のハティージェ・ジェンギズ(Hatice Cengiz)さんと会談へ
サウジ領事館で失踪の記者、トランプ氏が真相解明を約束 BBC
記者不明 米に婚約者招待、トランプ氏意向 毎日新聞
トランプ大統領は、ジャマル・カショギ氏がサウジ当局者に殺害された疑いについてコメント
「記者だろうと誰だろうと、こんな目に遭うのは許せない」
「我々はあらゆる要求をしている。あそこで何がどうなっているのか見せてもらいたい」 BBCより
ジャマル・カショギ氏の婚約者ハティチェ・チェンギスさんはトランプ大統領に書簡で助けを求めてきましたが、この件に関してトランプ大統領はチェンギスさんをホワイトハウスに招く考えを表明。
トランプ大統領はジャマル・カショギ氏の事件に強い関心を示していることをアピールしました。
またトランプ大統領は、ワシントンポストが
「米国諜報機関はジャマル・カショギ氏の身に危険が及んでいることを把握していた」
という報道にも興味を示しているようで、この件についても調査を要求していました。
(ソース探し中)
(2018年10月13日)
トルコ政府関係者「ジャマル・カショギ氏殺害の証拠ある」
どうやら、ジャマル・カショギ氏の殺害時の録音があるそうです。
これがどのように録音されたのかは不明。
もしこの録音が真実だとすると、それもそれで重大事
つまり
ジャマル・カショギ氏の殺人時の録音がある=在トルコのサウジ総領事に盗聴器が仕掛けられていた
ということに等しい(笑)
それもそれでやばいと思います。
なんでもアリな展開になってきています。
ジャマル・カショギ記者行方不明事件に関し、米超党派議員団が調査要請
米超党派議員がトランプ政権に調査要請-サウジ記者の行方不明問題 Bloomberg
米上院議員の超党派グループがトランプ大統領に対し、2016年成立の「グローバル・マグニツキー法(マグニッキー法)」(Global Magnitsky Act of 2016)を根拠に、ジャマル・カショギ氏の問題の調査を要請。
超党派グループには、上院外交委員会の共和党トップであるボブ・コーカー議員と、民主党トップのロバート・メネンデス議員、歳出小委員会のリンゼイ・グラム議員、パトリック・リーヒ議員が含まれるとのこと。
ジャマル・カショギ氏問題に関するトランプ大統領への調査要請の書簡には、上院外交委員会19人のうち18人が署名しており、圧力の強さがよくわかります。(ってか誰が署名してないのかが気になりますが。。。)
ジャマル・カショギ氏の失踪問題で、米国からサウジへの武器輸出はどうなる?
どうやらトランプ大統領は、サウジへの武器輸出を継続する方針の模様。
米大手軍需企業、トランプ政権に懸念 サウジ記者失踪問題で Reuter
ジャマル・カショギ氏の失踪事件にからみ、上院外交委員会からはこの問題を調査拡大するようトランプ大統領に要請が出ています。また、武器の売却などを凍結するようにうちうちに圧力が出ているようです。
これに対し、トランプ大統領はサウジへの武器輸出を継続する方針を示しています。
トランプ大統領が、大統領就任最初に訪れた国はサウジアラビアです。
その訪問で総額1100億ドル、日本円にして12兆円規模の武器売却の商談をまとめます。
今回、ジャマル・カショギ氏の一件でこの商談がパアになりそうになっているわけです。
トランプ大統領としては、自身の成果のひとつを失うことになります。引くに引けません。
今起きていることは、そういうことです。
(10月14日)
トランプ大統領「ジャマル・カショギ氏事件にサウジが関与した可能性はある」「関与していたなら厳罰を与える」「でも武器の売却は続ける」
トランプ大統領がかなり怒っている様子。
しかし、自分がディールしてとってきた12兆円分の兵器輸出の確約は放棄できないようす。
あとは世論次第。アメリカの世論が、トランプに正義を求めるか否か。
それによってはサウジとアメリカのみならず、イランやトルコも含めた中東地域のバランスも変化してくる。
10月15日更新
今回のジャマル・カショギ氏殺人疑惑は、事件発覚の当初から「なぜそんな重大な事実をトルコ政府は安易にリークするんだ?」という疑問が多くの人々の脳裏をかすめたと思います。自分もそうでした。
「これはかなり確実な証拠がある」と感じていましたが、やはり、トルコ側は音声などなんらかの重大なデータを握っていたようです。
一説によると、AppleWatchを利用して録音していたとの報道もあります。
しかし、それはちょっと考えにくい。特別仕様のAppleWatchならともかく、ワイヤレス環境を利用できない状況で同期をとるのは無理。
ワイヤレスルーターの超出力の強いものを用意していたりすれば可能だけれど、それはほとんど国家情報部の使うようなもので、一般人が保有しているはずがない。
もし持っていたのなら、ジャマル・カショギ氏が情報部所属だった経歴があり、過去の人脈にそういったアイテムを提供できる人がいる・・・ということになるわけだけど。
そして当然、外で待っていた婚約者というのも、その道の人ということになるのだけど。
もしそこまで徹底してやっていたのなら、たいしたジャーナリスト魂だと思います。
最初からこうなることを予想して、死ぬことを覚悟で乗り込んだということになります。
10月24日更新
ジャマル・カショギ記者について、前回書いた以降の経緯をまとめておきます。
10月11日付 日経新聞夕刊 ジャマル・カショギ氏の殺害に関しては、米情報当局が事前に計画を傍受していたとのことです。
これはジャマル・カショギ氏の古巣ワシントン・ポスト紙が報じたものなのでバイアスがかかっているかもしれませんが、可能性としてありえるかもしれないと思われます。
10月13日日経新聞朝刊9面 ジャマル・カショギ氏の殺害疑惑に絡み、サウジとの関係を見直す経営者が出てきているとの記事。
ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏は11日、サウジと進める観光事業から撤退。宇宙ビジネスでもサウジとは協力しないと述べたとのこと。
10月15日日経新聞朝刊4面 ジャマル・カショギ氏殺害に絡み、トランプ大統領がコメント。
もしサウジ政府が関与したのであれば厳罰に処す、とのこと。
以前より、対サウジを巡っては議会は強硬論が多かった。
それを抑えてきたのが大統領、およびその周辺だったのだが、さすがに今回のジャマル・カショギ氏殺害疑惑を受け、これを庇いとおすことができなくなってきた・・・という記事。
いっぽうでトランプ大統領は、ミサイルなど兵器をサウジに売却する方針は維持。
ジャマル・カショギ氏殺害疑惑をめぐり議会が求めるサウジへの武器輸出停止については、「非常に愚か、自分たちを罰するようなもの」とトランプ大統領は発言。
また、この時点ではムニューチン財務長官はサウジで開かれる砂漠のダボス会議(フューチャー・インベストメント・イニシアチブ)への出席を予定。(のちに撤回します)
10月15日日経夕刊三面 トルコとサウジがジャマル・カショギ氏殺害疑惑をめぐり合同捜査班を結成
トルコのエルドアン大統領とサウジのサルマン国王が電話会談。
お互いへの尊重を確認。
なお、この時点ではサウジは領事館内での殺害疑惑は否定していました(現在は口論の末殺害と供述変更)
10月16日 日経朝刊9面 トランプ大統領がジャマル・カショギ氏殺害疑惑をめぐり、ポンペイオ国務長官をサウジに派遣
あわせてトランプ大統領はサウジのサルマン国王と電話協議。
協議後、「サルマン国王による否定はとても力強く、まったく迷いがないようだ」と記者団に話す。
何を否定したのかはわかりません。ジャマル・カショギ氏の殺害を否定したのか、殺害はしたけれど政府としての関与はないと否定したのか。(なお、この時点ではジャマル・カショギ氏は死んでいないというのがサウジの公式見解でした)
10月16日 日経夕刊1、3面 サウジがようやくジャマル・カショギ氏死亡をみとめる
このときになってとうとう、サウジはジャマル・カショギ氏の死亡を認定する方向で調整・・・というニュースが駆け巡りました。
米ポンペイオ長官との会談を前に、態度を明確にしておこうという態度。
そして、合同捜査が行われるのでどうせ、じきにバレるという諦めでしょう。
とりあえず、ジャマル・カショギ氏は領事館内で死んだけれど、自分たちは経緯を知らない、サウジ政府は関与していないという態度。
10月17日 日経朝刊3面 ジャマル・カショギ氏殺害問題を巡り米議会有力議員がコメント
リンゼー・グラム上院議員「サウジ政府の(ジャマル・カショギ氏)殺害関与が確認されれば、米・サウジ関係が崩壊する」
トランプ政権は11月の中間選挙を控えて議会に配慮しなければならない。
しかし、サウジとの経済的関係を保つ旨みは捨てたくない・・・
そういう状況にこの時点のトランプ政権はありました。
サウジとの関係は1100億ドルにのぼる兵器売却契約がご破算になり、対イラン制裁の履行においても障害になる。とても手を切れる相手ではない、というのがトランプ政権の主張でした。
この時点での報道をもとにすると、サウジは「館内で尋問中に誤って殺してしまった」という説明を選択しようとしていたふしがあります。
10月17日 ポンペイオ米国務長官がサウジ国王らと会談。ジャマル・カショギ氏の殺害問題に関して協議。
10月17日 日経夕刊3面 ジャマル・カショギ氏殺害疑惑の捜査がひろがるなか、オタイビ在イスタンブール・サウジ総領事が合同捜査が直前になって延期。
また、オタイビ在イスタンブール総領事が開始前に急いで帰国していたことが判明。
このオタイビ総領事ですが「私の目の前でやらないでくれ」といったようなことを話しているのが録音されているそうです。
ジャマル・カショギ氏殺害事件を巡り事情聴取をされることを嫌った可能性、と報じられていますが
それと同時に口封じ、トルコ側が身柄確保することへの警戒があったものと思われます。
10月17日 日経夕刊3面 ジャマル・カショギ氏の殺害にサウジが関与していたと強く批判する議員がコメント
リンゼー・グラム上院議員「ムハンマド皇太子はサウジを堕落させた」
マルコ・ルビオ上院議員「人権という観点から取り組むべきだ」「ロシアのプーチン大統領やシリアのアサド大統領を批判する倫理的な土台が失われる」
と激しく非難
10月18日 日経朝刊12ぺージソフトバンクのマルセロ・クラウレ思考執行責任者COOがジャマル・カショギ氏殺害を巡るサウジの動向に対しコメント
「何が起きているのか心配している。」
ソフトバンクビジョンファンドへの影響は「判断するには時期尚早だ」との認識を示す。