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ロシア制裁強化法で潤うのは誰?~RUSAL(ルサール)、Norilsk Nickel(ノリリスクニッケル)の暴落~

RUSAL(ルサール)、Norilsk Nickel(ノリリスクニッケル)が暴落

 

米、ロシア新興財閥に制裁=プーチン氏周辺標的

昨日のニュースまとめ記事でも触れましたが、アメリカ政府は

大富豪オレグ・デリパスカ氏(Олег Владимирович Дерипаска/Oleg Vladimirovich Deripaska)

を含む24人の政府高官、新興財閥(オリガーキー/オリガルヒ)関係者に対し、米国内の資産凍結および米国企業/個人との取引停止などの制裁措置を発動しました。

これはロシア制裁強化法を根拠として、2016年の米大統領選へのロシア介入疑惑などに関連したものとのことです。

これを受けて昨日の香港市場では、デリパスカ氏が関係するアルミ新地金生産大手RUSAL(ルーサル/ルサール 0486.HK)の株価が半値近くまで急落するなど、大混乱となっています。

 

RUSALはボーキサイトやアルミナ、新地金などに集中したいわゆる上流部門のサプライヤーです。一応、ホイルや箔、ボトルなども生産しているものの、圧延や半製品など下流部門の多くはアルコアなどにほとんど売却済み(だったはず)です。

公式ページによると、世界のアルミナ市場におけるシェアは6.3%、アルミニウムの生産の5.8%を占めているそうです。(なお、同業には中国チャルコ、豪リオティント、米アルコアなどがあります)

https://rusal.ru/en/about/facts/

なお、RUSAL(ルサール)の株主構成は上位株主で固められており、半分弱をEN+(LSE:ENPL)というロシアのエネルギー&鉱山資源企業が握っています。

このEN+なんですが、本業は石炭の採掘を中心に、CHP(熱電併給システム/コージェネレーション)やHHP(水力発電)を行っています。また、RUSAL株の48.13%以外にも、

SMR(フェロモリブデン生産上位)

EuroSibEnergo(ロシアの水力発電大手)

などを保有しており、エネルギーからアルミの精錬まで一貫して行うことがウリの企業となっています。

 


そしてRUSALは、ニッケル生産大手(1位もしくは2位)のノリリスク・ニッケル(MMC Norilsk Nickel LSE:MNOD)株式の25%を保有しています。

個人的には、このノリリスクニッケルの暴落は僥倖ではないかと思います。

この会社は、ニッケル生産で世界一です。同業には

 

ヴァーレ(Vale/以前はヴァレ・ド・リオドセ)

子会社Vale Canadaで生産。

 

BHPビリトン(BHP/LSE:BLT/ASE:BHP)

子会社Nickel Westで生産。売却予定。

 

アングロ・アメリカン(Anglo American /LSE:AAL)

子会社Anglo Platinumで生産。

 

住友金属鉱山

上位と比較すると小粒ですが、上流から下流(例えばテスラモーターTesla Motors向けリチウムイオン電池に使われる正極材)までの一貫生産に強みがあります。

 

 

これらの企業ももちろん有力ですが、ノリリスクニッケルの鉱床は高純度であり、生産コストも低く、競争力がある・・・とおいらは思います。また、上記企業はニッケル以外の生産比率が大きく(BHPなどはほぼほぼ鉄鉱石マイナーのようなものです)、ニッケル市場の上昇の恩恵をフルには享受できません。

 

ニッケル先物

ニッケルは、かつてはステンレスや特殊鋼に使用する程度でしたが、最近はリチウムイオン電池の正極材材料としての需要が急激に膨らんできています。しかし、純度の高いニッケルを生産できるサプライヤーはニッケル生産者の半数程度であり、多くはEV向けには適さないと言われています。

アングル:EV普及で需要拡大、ニッケル市場の「勝者と敗者」

そんな状況において、ノリリスクニッケルは独化学大手BASFと提携しています。ヨーロッパメーカーとの協力体制、供給契約が既に出来上がっており、今回の米制裁措置が発動したとしても、この供給網は変わらないのではないか?とおいらは見ています。

また、ノリリスクニッケルは、ニッケルの副産物としてコバルトを産出しています。こちらも三元系(NMC)、NCA系のリチウムイオン電池正極材として必要です。非常に価格が高騰しています。

https://jp.tradingeconomics.com/commodity/cobalt

 

ルサールの関連企業、ノリリスクニッケルは、海外企業の買収を通じパラジウム生産量でも世界一位、プラチナ、ロジウムの生産でも有力です。

 

パラジウム

 

プラチナ

 

 

こんな企業ですから、以前から所有権の奪い合いになってきました。

登場人物はインターロス(Холдинговая компания «Интеррос»、Interros)グループを率いるウラジーミル・ポターニン(Владимир Потанин、Vladimir Olegovich Potanin)氏と、

もうひとりがRUSAL/EN+を率いるオレグ・デリパスカ(Олег Владимирович Дерипаска/Oleg Vladimirovich Deripaska)氏

そして、チェルシー(Chelsea)のオーナーでも知られるロマン・アブラモヴィッチ(Рома́н Арка́диевич Абрамо́вич、Roman Arkadievich Abramovich)氏です。

この件に関しては

ロンドンを舞台にロシアの新興財閥が大バトル

がわかりやすいので、詳しくはそちらを読んでいただきたいのですが、簡単にいうと

  1. ポターニン氏と共同経営していたプロホロフ氏が、デリパスカ氏にノリニッケル株を売却
  2. ポターニン氏とデリパスカ氏がノリニッケルを巡って経営権争い
  3. 仲裁役としてアブラモビッチ氏が登場(プーチン大統領の差し金との噂もありました)
  4. ポターニン氏、デリパスカ両氏が少しずつアブラモビッチ氏に株を売却し、アブラモビッチ氏は5年間売却禁止する和平案に署名
  5. 2017年12月にこの売却禁止期間が解除、アブラモーヴィチ氏がポターニン氏に売却することを希望。デリパスカ氏がこの計画に反対。法廷闘争に・・・

 

と、こんな感じで推移してきました。

かなり本気で殴り合っている状態なのがわかりますが、

そのくらいノリリスクニッケルは魅力的・・・ということだと思います。

 


ルサール(RUSAL)制裁で潤う企業

さて、市場では今回のデリパスカ氏に対する制裁にともない、露RUSALからアメリカへのアルミ地金輸入がなくなることでアルコア(Alcoa NYSE:AA)が儲かるのではないか?と言っている人が多いです。

俺もそう思います。

アルコアにとっては、先日の通商拡大法232条による鉄・アルミの輸入制限にひきつづき、強いフォローの風が吹いています。ありがとうトランプ大統領・・・と言ったところでしょう。たぶんロビイングのおかげでしょうけどね。

 

で、ノリリスクニッケルです。こちらはアルミのようなありふれた資源ではなく、供給元が限られている高純度ニッケルとコバルトです。そんな安易にノリリスクニッケルからの輸入をストップできるかというと、たぶん無理です。

個人的に、今回のノリリスクニッケルの暴落は僥倖ではないかと思っています。

たしかにRUSALはデリパスカ氏と密接ですが、Norilsk Nickelはそうではありません。デリパスカ氏は株主の一人でしかありません。資金繰りに困ったデリパスカ氏などからの売りはあるかもしれませんが、それでNorilsk Nickelの買い手が消えるとは思えません。むしろこの機会に買いたい人いるのでは?と思います。

 

 


ルサール(RUSAL)およびオレグ・デリパスカ氏への制裁はマナフォート関連?

ちなみに、ポターニン氏は今回の制裁措置の対象には含まれていません。

 

また、どうもキナ臭く感じるのは、以下の記事との関係です。

Manafort’s Offer to Russian Oligarch Was Tied to Disputed Deal

ロシア富豪、トランプ氏の元選対本部長ら提訴 資金流用の疑い

トランプ大統領(President Donald J. Trump)の選対本部長をつとめていたポール・マナフォート(Paul John Manafort Jr.)という人物がいるのですが、この人はいわゆるロシア疑惑(Russian interference in the 2016 United States elections)で目下訴追されています。(罪状はマネーロンダリングなど12の罪)

と同時に、デリパスカ氏とトラブルになっているようです。

ポール・マナフォート被告と同時に起訴されたリチャード・ゲイツ(Richard W. Gates III)という人物もいるのですが、このリック・ゲイツ被告が司法取引に応じた一方で、マナフォート被告は目下しっかりと黙秘?否認を貫いているそうです。

 

今回、デリパスカ氏はロシア疑惑への関与などを疑われて制裁を科されました。

しかし、この制裁を科したのは検察ではありません。

あくまでもトランプ政権内部である、財務省です。

そして、トランプ大統領に忠実に従って黙秘を貫くマナフォートと、ロシア人大富豪のデリパスカ氏は現在進行形でトラブっているという事実・・・

どう思われますか?

 

もしかして、マナフォートに対する論功行賞とかじゃないよね・・・?

 

と思ってしまったのですが、それは邪推というものでしょうか。

そして、何度も書くようですが、今回の制裁対象にポターニン氏が入っていないことも引っ掛かります。一番得をする立場にいるように思います。これで、トランプ政権とどこかで繋がっていたりすれば、石川達三の金環蝕もびっくりな経済小説のできあがりです。

 

 

 

なお、上記内容には憶測、数字の誤りなどがあると思います。あまり参考にならないと思いますので、投資の際にはあくまでも自己判断、自己責任でお願いいたします。この記事を参考にして損をされても、一切補償はしませんよー!

 

by中卒くん