この記事はコラムです。
読んでもまったく利益になりません。
とりあえず、ニュースまとめなどに書くには長すぎるし、個人的意見が強すぎるのでこちらに書きます。
興味のない人は読み飛ばして大丈夫です。
優れた経営者とは、株主に尽くす経営者だと思う~BHPビリトンのチップ・グッドイヤーとドン・アーガスから学ぶこと
先日、質問箱に
「日本人で尊敬できる経営者はおられますか?」
という質問が入っていました。
個人的な答えとしては、ノーです。
まず第一に、一般的に経営者というと創業者社長、職業経営者、サラリーマン経営者に分かれると思います。
創業者社長は、海外には優秀な経営者もいるんですが、日本の創業者社長はちょっと能力に偏りがあるように思います。
日電産の永守さんなんかは、技術動向を読むのは上手いし、企業を再生するのも上手い。けれど、一般株主との対話という点ではちょっと違うなぁと感じる部分が大きいです。どちらかというとCTO的な感じがします。
また、職業経営者やサラリーマン経営者と言われる人たちは、資本関係からみるとあくまでも株主のServantであり、召使い、使用人、執事です。
株主から報酬を受け取り、企業という城を任されているだけです。
ちゃんと統治をしていれば「よくやったね」と労う気持ちはありますが、どう考えても使用人に対して尊敬という意識は(自分は)持てません。
で、ここからが本題なのですが、自分は
優れた経営者とは、顧客や社会のことよりも、株主価値の極大化をガムシャラにめざす経営者
だと思っています。
(もちろんこれには、自分が株主という立場だというポジショントークも含まれています)
この点で、日本の経営者は悉く評価対象に入りません。
日本の経営者は、株主価値よりも、従業員の生活や、顧客のことばかり考えているように感じます。政治的、社会的な圧力に屈して株主価値を毀損するような決断を下す経営者も多すぎるように思います。
一言でいえば、日頃付き合いのある強引な人達の要求に屈しやすい経営者ということだと思います。
日頃付き合いのある、うるさい人たちからの要求は呑むけれど、顔の見えない投資家の言うことは無視する。
ここ30年の日本企業の体たらくは、まさにこの経営者たちのせいなのではないか?
と思っています。
(中卒くんは経営学を学んでいるわけではありませんし、どのような企業統治が好ましいかを法学や社会学的観点から語ることはできません。何が社会にとって良いことかを定量的に語ることもできません。主観的にしか発言はできません。)
とくに後者の「政治的、社会的な圧力に屈して株主価値を毀損するような決断を下す経営者」は最悪です。
この一例をあげると、国策という旗印の下に中央リニア新幹線を作ろうとしているJR東海の経営陣とかは本当に最悪のレベルだと思います。
13年9月、JR東海の山田佳臣社長(現会長)は、「リニアは絶対にペイしない」と記者会見で公言しました。(Business Journal、東洋経済、日経ビジネス、共産党赤旗、参議院質問主意書)
ペイしないものに数兆円ものカネを突っ込むことが企業統治上問題ないのでしょうか?
中央リニアに関しては、自分も00年代の初めにザックリした試算をしてみたことがありますが、どう考えても黒字化する見通しが立ちませんでした。
黒字化する見通しが立たないどころか、配当、自社株買いなどで株主に還元する場合に比べて企業価値がおよそ1/3程度になってしまう結果になりました。
自分は、ネット上(おもに2ちゃんねる)でひたすらこのことを主張していましたが、当時はまだ今ほど資本コストの意味、企業統治の意味、善管注意義務の重要性を理解する人がいなかった。
公益企業と民間企業の区別を資本構成から眺める風潮も多くなかったこともあり、まったく広まらなかったように感じました。
いまなら多くの人が理解できるでしょうが、資本コストに見合わないものに投資をしてシレッとしている経営者というのは、まぁ、論外でしょう。
ちなみに、JR東海と同じように国策に阿ってしくじった企業が過去から今に至るまで日本にはゾロゾロとあるわけです。
例えば東芝のウェスチングハウス買収だとか、ドコモによる一連の海外通信会社買収だとか、現在進行形で進んでいる日立の英原発ホライゾン・ニュークリア・パワー社への投資だとか。
すべて国策によって捻じ曲げられた経営判断の帰結が、株主価値の毀損という形で表面化しています。(日立の件はまだですが。)
そして、こういった間違った経営判断を国策によって行った人たちが、日本では良い経営者として褒めそやされてきた傾向があります。ドコモの立川とか、東芝の西室とか、そういう人たちです。
まぁ、どちらもその後、失敗が明確になって市場からの評価が地に堕ちましたが、失敗が明らかになったころには鬼籍入りです。良い思いを随分できたことでしょう。
なお、JR東海の葛西さんとかはいまだにお元気そうでなによりですね。
個人的にはこういう連中は社会主義者なのだと思います。資本主義社会で生きる社会主義シンパなのだと思っています。こういった人たちが経営に携わるのは、株主にとって百害あって一利なしです。
とりあえず、批判ばかりしていてはなんですので、優れた経営者、優れた統治機構の例も示したいと思います。
BHPビリトンの元議長Don Argusと元最高経営責任者Chip Goodyear氏のコンビは、とても好ましい企業統治の一例だと思います。
とくにチップ・グッドイヤーの方に目が行きがちですが、Broken Hill Proprietary Company:BHPとBillitonの合併を主導したドン・アーガスの手腕は見事だったと思います。
BHPビリトンは、いわずとしれた資源メジャ―です。とくに鉄鉱石と石炭、そして当時は銅鉱石でも大きなシェアを持っていました。
彼らは、顧客のことなんて全く考えずに、自分たちが責任を負っている株主利益極大化に邁進します。
まず合併によって市場を寡占化し、その後に資源価格を吊り上げる、という手法です。
折からの中国の市場開放&世界経済の発展を受けて、銅鉱石、鉄鉱石、原料炭の価格は上昇します。それを最大限に享受するために、できるかぎり引き上げていきました。
当時相場を張っていた人なら覚えていると思いますが、「これからは資源メジャ―が資源価格を吊り上げるから、資源はずっと上がり続ける」みたいな論調が巷にあふれていました。
みんなの不安、不満をよそにどんどん吊り上げた結果、BHPビリトンの業績は急拡大、株価はかるくテンバガーになりました。
この規模の会社がテンバガーですから、当時は本当に世界がBHPビリトン(とリオティント、ヴァレ・ド・リオ・ドセ)に支配されるのではないかと多くの人が感じました。
実際にはその後、中小規模も含めた資源開発が活発化して価格がおちるのですが、とりあえず、このBHPビリトンの黄金の時代を作り上げて、そして去っていったのがドン・アーガスとチップ・グッドイヤーです。
ドン・アーガスもチップ・グッドイヤーも、2000年代後半にはBHPビリトンを去ります。
本当に見事な身のこなし方だったと思います。(ドン・アーガスの主導した買収先には失敗したものもありますが、しかしその買収へのプロセスに問題があったとは思えません。良かれと思ってしくじるのは、しかたのないことです。)
とりあえず、チップ・グッドイヤーやドン・アーガスのように、経営ゲームを楽しめるような人材が日本には足りていません。とことん強欲な経営者が育っていません。
先日、以下のような記事がありました。
要約すると、「車載向けMLCC(積層セラミックコンデンサ)の需要が2025年までに4倍規模に拡大し、他の業界で深刻なMLCC不足が起きている」という内容です。
これは以前から言われていた内容で、自分もこれに関しては
積層セラミックコンデンサ(MLCC)需給逼迫 ~Yageo、村田製作所、太陽誘電の株価上昇~ 5月14日
などで紹介してきました。
記事の内容として今さら感があります・・・が、この記事のなかのちょっとした部分が自分は非常に気になりました。それは中段に書かれた
「主要各社の18年度能力増強と対応」
という表に関してのものです。
ここに書かれた、村田製作所、TDK、太陽誘電の販売面での対応で、村田製作所とTDKが「値上げを含む価格是正の交渉」と書いているのに対し、太陽誘電は「値下げの低減など価格是正の交渉。小型化提案」などと書いているわけです。
あほかと。
車載向けMLCCはほぼほぼ日本企業の寡占状態ですし、スマホ向けや家電向け、AV向けなどあわせてトータルしてみても、上位4社で80%近いシェアを握っているのがMLCC市場なんです。
これって実は、2000年代の銅とか資源メジャ―の比率と同じなんですよ?
なぜこの環境で大幅な値上げをしないのでしょうか。稼げるときにガッポリ稼いだらいいじゃないですか。
とくに、2000年代の金属資源がボトルネックとなった資源高のときと異なり、MLCCは設備メーカーにも余力がありません。今回の方が、より大きな儲けを確保できるはずなんです。
せっかく周りの村田製作所やTDK、ヤゲオやウォルシン、サムスン電機が値上げをしていっているのに、太陽誘電の経営陣はなんで顧客の方ばかり向いているんでしょうか?
そもそもね、こんなにMLCCが足りなくなっているというのなら、そのまた上流の細かくしたチタン酸バリウムとかも足りなくなるはずなんですよ。もしもMLCC価格を十分に引き上げなければ、それら上流の素材価格が上昇して、今度は自社のマージンを削ることになりかねませんよ?
個人的に、こういうアマッタレタ経営判断はクズだと思います。
チップ・グッドイヤーとドン・アーガスがこの業界にいたなら、世界中でMLCCが欠乏して価格は数倍に跳ね上がり、各社の株価は10倍以上になるでしょう。
日本のサラリーマン経営者とプロ経営者の違いは、まさにこの
「顧客に嫌われる勇気があるかどうか」
だと思います。
そして、そういう嫌われる勇気を持った経営者が率いていないと、往々にして企業は上流コストの転嫁が遅れて低マージンの商売に陥るのです。
悪者に思われてでもいいから株主価値の極大化のためにひた走る・・・それが優れた経営者の資質です。
モノポリーで他のゲーム参加者を怒らせたり泣かしたりすることができるかどうか、そこが経営者としてみた場合の有能か無能かの違いです。
ムカつかれても、キモがられても、シレッとしてしこしこ稼ぐ、それが有能な経営者ってもんだと、俺は思いますし、そういう奴が俺は好きです。
日本にはそういう優れた経営者が足りません。
日本がいまの状況から脱却するためには、本当の意味でのプロ経営者の登場が望まれると、おいらは思います。
長くなりましたが、以上です。