前回の記事では、
新日鉄が赤子の頃から育ててやったPOSCOに、恩を仇で返された経緯について書きました。
今回は同様に、宝山鋼鉄について書きます。
宝鋼集団有限公司(Baosteel Group Corporation)
時価総額で世界二位、中国を代表する鉄鋼メーカーです。
この国有企業もまた、1985年に新日鉄と川崎製鉄(現、JFE)の技術支援で作られた上海宝山鋼鉄がルーツの国有企業です。
話は1972年に遡ります。この年、米中両国の急接近を察知した日本の財界主導で日中国交正常化が実現します。日本側の首相が田中角栄、中国側が周恩来首相です。この時に実は、財界主導で日中合作のプロジェクトが進んでいたのだそうです。
1978年、鄧小平副総理が新日鉄の君津製鉄所を視察しました(中国への技術供与はこういった流れを辿る例が多いです。たとえば習近平は副主席だった2009年、ロボットとサーボモータで有名な安川電機を視察しています。その後、安川電機は中国に本格進出。美的集団と合弁事業を立ち上げています。関連記事)。
この視察で、この日中合作プロジェクトの進展は決定的になります。それが、日本の鉄鋼メーカーが赤子のころから手取り足取り教えてやって大きく育てた世界第二位の鉄鋼メーカー、上海宝山鋼鉄です。詳しくは
中国をつけ上がらせた親中派の財界人&経済人列伝【1】新日鐵「中国の対日工作に絡め取られ鉄鋼技術を流出させた!?」
をごらんください。非常に綺麗に纏まっています。
(俺が書くより遥かに読みやすいです・・・)
ちなみに、この経緯をもとに山崎豊子は「大地の子」を書きました。NHKがドラマ化しましたので、ご覧になった方も多いかもしれません。(断っておきますが、おいらは嫌いな作品です)
90年代当時は、日本企業にとってはPOSCOの方が脅威でしたが、2000年代半ばくらいになると、中国経済の発展とともにBAOSTEELの力が目立って強くなります。中国国外のアジア市場などでも、新日鉄やJFEを脅かす存在になってきました。
特に最近では、今まで日本メーカーが競争優位に立っていた自動車用高級鋼板の分野でも競争が激化。豪州の鉄鉱石、原料炭の買い付けでも競合し、極端な原料価格の変動で日本の鉄鋼メーカーは何度も赤字に陥る結果となりました。
また、兵器と鉄鋼は昔から切っても切れませんが(ドイツ第三帝国とティッセンクルップ、大日本帝国と八幡製鐵所など)、宝山鋼鉄も中国兵器工業集団と提携しており、経済的な面のみならず軍事的な面からも日本の脅威になりつつあります。
それもこれも新日鉄など高炉各社が当時の政府(通産省と外務省)の要請で中国に技術供与したからなのですが・・・なぜ日本の政府、企業はこんなにお人好しなんでしょうか?戦後賠償の一環ですか?高炉設備の導入で利権がありましたか?
中卒のおいらにはよくわかりません。
今回の印エッサール社への新日鉄の出資も、きっと裏で政府(経産省・外務省)が動いています。日米印は対中国で協調路線をとろうとしていますから、その流れと無関係ではないでしょう。
そうした国益を考えての経営判断が、株主価値を毀損することが多々あります。東芝の一件なんて、その好個の例です。
今回の一件からも、日本企業のガバナンス不足問題の深刻さと、経産省主導のプロジェクトの限界を感じます。日本企業は結局のところ、あまり進歩していないようにみえます。いろいろとオツカレサマですね。
次の記事ではブラジル ウジミナスを見ていきます。