「カリオカのトランプ」ことブラジル大統領候補ジャイル・ボルソナロ氏の政策は米国にとって都合がいい。案外悪くないかもしれない~ブラジル総選挙をひかえて~
ブラジル連邦共和国では、今年2018年10月7日に総選挙が行われます。
この2018年ブラジル総選挙では、大統領選挙、国民会議上下両院議員選挙、州知事選挙、州議会議員選挙が行われることになります。
大統領選挙に関しては、10月7日の選挙で得票率トップの候補者が過半数を獲得しなかった場合、10月28日の決選投票で大統領が選ばれることになります。
この2018年ブラジル大統領選ですが、現職で中道右派のテメル大統領(ミシェル・ミゲル・エリアス・テメル・ルリア / Michel Miguel Elias Temer Lulia )が自身への汚職疑惑(※1)を受けて出馬を断念。
また、テメル大統領の前のルセフ元大統領(ジルマ・ヴァナ・ルセフ / Dilma Vana Rousseff )も汚職疑惑(※2)の追及にあっています。
さらには、ブラジル国民に圧倒的な人気を誇るルラ元大統領( ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ / Luiz Inácio “Lula” da Silva )も国営石油会社ペトロブラスを巡る巨額贈収賄事件とマネーロンダリングの罪で禁固12年の有罪判決が下り、さらには司法妨害の罪でも訴追中。
MDAの直近(8月20日)世論調査によると、ルラ大統領はいまだに37.7%と高い支持率を誇っており、本人も今回のブラジル大統領選に再出馬を目指していたようですが、ルラ氏は収監中であり、また控訴審で有罪判決を受けたものは大統領選挙に出馬できない規定があるそうで、立候補は阻止される可能性が極めて高いとのこと。
これを受け、俄然注目を浴びている候補がいます。
ブラジル大統領選に向けた世論調査で2位18.8%の支持率となっている、元軍人で「ブラジル・カリオカのトランプ」とも評される下院議員ジャイル・ボルソナロ氏です。
ジャイル・ボルソナロ氏は昨年時点では一桁後半の支持率しかありませんでしたから、この1年程度で支持を2倍に伸ばしています。
なお、日経新聞6月1日朝刊記事によると、
ボルソナロ氏は歯に衣着せぬ発言で物議をかもすことも多く「ブラジルのトランプ」「カリオカのトランプ」とも言われているそうです。
ボルソナロ氏は元軍人で陸軍出身。かつてアメリカとつるんで左派系団体を弾圧した60年代の軍事政権を擁護・称賛するような発言しているとのこと。
選対幹部を務める息子のエドゥアルド・ボルソナロ氏、トランプ氏元側近のバノン元首席戦略官と会談しているとのこと。
また、ボルソナロ氏は上記の通り極右的であり、労働党左派政権へ極めて批判的。政敵に対して「公開処刑されるべき」などといった発言で注目をあびてきたとのこと。
ボルソナロ氏の政策は極めて単純。「ブラジルでは政府が関与すると汚職が発生する」との発言にすべてが集約されています。
ボルソナロ氏は徹底的な民営化と、それを財源にした債務の削減を表明しています。
ボルソナロ氏は「現在150程度ある国営企業を民営化や閉鎖で半減させる」と語っています。国営石油会社ペトロブラスや公共インフラの経営を民間資本に任せる意向とのこと。
中国企業による出資に批判的、いっぽうで日本企業の進出には好意的とのこと。
とくに日本に対しては南米南部共同市場(メルコスル)を通じた自由貿易協定FTAではなく、二国間でのFTAを要求とのこと。
ボルソナロ氏の政策について個人的見解
個人的には、ボルソナロ氏の政策は「意外と悪くないんじゃない?」という気がします。
かなりアメリカ寄りです。
むしろ、露骨すぎるほどアメリカというか、トランプ大統領にすり寄っている姿がみえます。
ボルソナロ氏には軍部がバックについており、クーデターの心配もまずないでしょう。
もしボルソナロ氏が大統領になったなら、かなり魅力的な投資環境になるかもしれないな?という感じが個人的にはしています。
ブラジルは現時点ではかなりリスキーな投資先です。
財政状態も悪く、通貨リラも急落しています。
政治も汚職まみれでろくでもないです。
年金支給が早すぎて勤労意欲が低いことも問題です。
でも、こういう国は大統領次第でがっつり方向が変化します。
ボルソナロ氏にはちょっと、注目してみていっても良いかもしれないな、という気がしています。
まだ政治的にどうなるかはわかりませんが、面白い展開になってきています。
大手メディアはボルソナロ氏に対して軒並みネガティブに報道しています。ジェラルド・アルキミン氏の方がいい、と。
しかし、可能性のひとつとして、アルキミン氏がボルソナロ氏に近づく可能性もあるんじゃないの?という気がしています。これはあくまでも思い付きレベルで根拠が希薄ですが。
とりあえず、このブラジルの大統領選挙、総選挙は見ものです。非常に面白そうです。どうせボルソナロは泡沫政党からの出馬ですから議会とはねじれます。そこをどう纏めていくか。
あと二か月・・・きっと何かいろいろ出てくるはずです。
たのしみに見ていきましょう。
以上です。
※1 同僚議員の資金洗浄疑惑を隠ぺいしたことと、食肉企業JBSから50万レアルの賄賂を受け取っていたとのことです。 https://www.bbc.com/japanese/40413890
なお、JBSの成長スピードは本当に凄まじい。
2006年の収益18億ドル→2016年の収益460億ドル
この急成長はM&Aによるものとのことですが、それを支えたのがブラジル開発銀行など政府系金融機関からの融資。この融資を引っ張るためにJBSは総勢1829人の政治家や候補に違法献金を繰り返してきたのだとか。
この違法融資に絡む捜査対象にされたことで、JBSは司法取引に応じて上記のテープを検察に渡したとのこと・・・
要するに、ブラジルは政治がそれくらい腐敗しているということですね。
追記:2018年9月7日
ブラジル大統領選候補ボルソナロ氏刺される
Brazil Presidential Candidate Jair Bolsonaro in Intensive Care After …
ブラジル大統領選の一番人気の候補者だったボルソナロ氏が遊説中に刃物で刺されて重体。ICUに運ばれたそうです。
復帰すればボルソナロ氏が勝つが、できなければアルキミンになるんじゃないか?という論調が増えているそう。
つまり、ボルソナロ氏は復帰できないくらい酷い状況の模様。
ブラジル、ほんとどうしようもないですね・・・。
それと、今回の報道でボルソナロ氏に多くの注目が集まっていますが、その多くが紋切り型で「ボルソナロはバラマキ主義」「ボルソナロはブラジルのトランプ」「ボルソナロは極右」と報道しています。
実際の政策をちゃんとみてみましょうよ、と思います。
少なくとも今までの左翼政権がやってきたようなバラマキ政策にはボルソナロは反対しています。だからこそ支持を集め切れていない部分があります。
単純な批判ばかりをするのではなく、もっと建設的な報道があっていいと思います。
追記(10月16日)
10月28日に決選投票を迎えるブラジル大統領選2018ですが、依然としてジャイール・ボルソナロ候補が第一人気となっています。
Ibope pollの集計によると、ジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro )候補が59%の支持を集めてトップ。フェルナンド・アダジ候補(Fernando Haddad)は41%に留まるとのことです。
Brazil’s far-right presidential candidate Bolsonaro holds wide lead: poll
ジャイル・ボルソナロの政策~シカゴ大出身パウロ・グエデス
ジャイル・ボルソナロ候補の政策は「小さい政府路線」です。
大統領になったあかつきには、財務大臣にシカゴ大出身のパウロ・グエデス氏をあてるとのことです。
つまり、ジャイル・ボルソナロ候補の経済政策は非常に市場フレンドリーなものになることが期待され、これを好感してブラジルの株式市場はここのところ非常に好パフォーマンスとなっています。
世界経済が軟調に展開する中、ボルソナロ候補のリードとともにブラジルの株価指数であるボベスパも上昇しており、市場が同大統領の誕生を待ちわびているのがよくわかります。
パウロ・グエデス氏が過去の不透明な資金移動で捜査対象になっていると報道された時には株価が下落しており、市場は政治的な面に大きく振れやすくなっています。
ボルソナロ候補、自衛のための銃の所持を認める政策で農業票を確保
ブラジルはオリンピック後の大不況のなか、治安が極度に悪化しています。
これは都市部だけでなく、農業の盛んな地方でも同様の傾向にあるとのこと。強盗などが多発しており、農家は銃による自衛をしたがっているそうです。
ボルソナロ候補は銃所持の解禁を政策として掲げており、これが農業票の確保に繋がっているそうです。
ボウソナロ候補はアメリカのトランプ大統領よりも、フィリピンのドゥテルテ大統領に似ていると思います。
「良い悪党は死ぬ悪党になれ」
といった感じの主張を繰り返しており、悪党を殺したら褒められる、そういう社会の実現を掲げています。
ボルソナロ候補は治安の改善を最大のテーマとしています。こういった点が多くの国民の心に届いています。
ボルソナロ候補の政策、人工妊娠中絶反対
またボルソナロ候補は妊娠中絶の反対も掲げています。
これが保守的で熱心なキリスト教信者の心に届いています。
妊娠中の子供であっても一人の人間であり、親の勝手で殺すことなど罷りならん。という価値観です。(ちなみに自分はキリスト教ではありませんが、この価値観は正しいと思っています。妊娠中絶には大反対です。)
ボルソナロ候補の政策、社会保障
ブラジルはすでに生産年齢人口が減少に向かいつつあり、このまま左派的なバラマキを続けていては年金財政の破綻もありうる、という状況になっています。
ボルソナロ候補は左派的なバラマキで票を買うような真似はしないとのことです。
この点はマーケットだけでなく、富裕層や軍人など一部の国民にも受けています。
なお、左派系の候補はどれもこれも汚職で捜査対象となっており、こういった醜聞が一切聞こえてこないこともボルソナロ人気に拍車をかけています。
ブラジル国民は過去の左派政権での汚職蔓延にほとほと飽きているのでしょう。貧困層へのバラマキがすぎる、票をカネで買うようなやり方には大反対・・・それが今のブラジルなのだと思います。発展途上国で軍部出身の者が人気になる時は、いつだってそうです。日本でもかつて、そういう時代がありました。
とりあえず、ボルソナロ候補はこのまま何も失言しなければ次期大統領になるでしょう。
個人的には、ボルソナロが率いるブラジルが非常に楽しみです。