欧州で自動車販売が急増中。背景にWLTPを巡る混乱か?
欧州では、いままでの自動車試験基準NEDC(New European Driving Cycle)に代わり、2018年10月からWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Procedure)基準による自動車試験が義務付けられます。
このWLTP基準では、この基準を採用するすべての国が、おなじ基準で自動車の排ガス試験、燃費試験などを行うことになっています。
いままでのように各国別に地域に即したものではなく、WLTPではすべての国が同じ基準を利用することになります。
今までの自動車試験では、ともすれば自国産業を保護するための非関税障壁として、他国では到底採用されないような試験や基準を科すところもありましたが、WLTPではそういった手口は許されないことになります。
つまり、WLTPはとてもフェアなトレードを目指したものであり、より自動車本来の能力が表に出て見える、消費者にとってはありがたい基準改定だったりするわけです。
ちなみにWLTPでは、高速走行の比率よりも信号などで一時停止、発進などを繰り返すことに重きをおかれていますので、より日本の実情にあった試験になっている可能性があります。
しかしなにはともあれ基準改定です。
これまでのNEDC基準のみに適合していた乗用車は今まで通りには売れなくなります。(じつは売れるのですが、割当が厳しくなります)、
そこで、このWLTP基準の導入前に、WLTP基準適合外の乗用車を叩き売る動きが欧州で出ています。
まさにバーゲン状態となっており、8月の欧州自動車販売は今だかつてないほどの盛り上がりとなっています。
8月の欧州乗用車販売は、前年比で31.2%もの急増となりました。これは、WLTPによる自動車価格変更が消費を喚起したためと思われます。
Passenger car registrations: +6.1% eight months into 2018; +10.5% in July and +31.2% in August ACEA
この影響は小売統計などにも表れてきており、欧州の小売統計は非常に強く、家計消費支出もどこも軒並み増加。
一見すると非常に好景気なようにみえています。
しかし、ユーロ圏の景況感指数、ユーロ圏消費者信頼感指数などは逆に低下しています。
ユーロ圏景況感指数、9月は110.9 9カ月連続低下 ロイター
業況指数こそ横ばいでマシでしたが、製造業景況感指数が悪化中であり、基調がよろしくありません。
消費者信頼感指数もマイナス圏でマイナス幅拡大、とくにドイツやフランスなど自動車産業の多いところでここもとネガティブに動いています。
WLTPを巡る混乱が、ドイツ、フランスなどの製造業景況感を押し下げている可能性が示唆されています。
またBMWは、WLTPを巡る混乱が想定外の激しい競争に繋がっていると説明しており、業績見通しを下方修正しました。
UPDATE 1-独BMW、通年目標引き下げ 価格・貿易競争で ロイター
なお、トヨタ自動車などは事前にWLTP基準に適合した自動車を用意していました。
本来ならば今回のWLTPをめぐる混乱には巻き込まれなかったはずなのですが、欧州市場がこれほどのバーゲンセール状態になっているということは、値下げして販売するなどしている可能性があるように思われます。
とりあえず、WLTP前に自動車販売が膨らめば膨らむほど、その後の自動車販売には下押し圧力として働きます。
まだ9月の統計がみえてきませんが、とりあえず、10月のACEAのデータは要チェックだと思われます。
関連記事:18/6/7午後 WLTPと2021年EU規制で自動車販売はどうなるか
関連記事:欧州自動車メーカー 不正にWLTP基準の燃費を悪くみせかける行為が発覚 燃費改善数値目標達成のためか?
WLTPによる混乱は、日本車の欧州販売や、欧州での自動車部品各社の販売などにも影響すると思われます。
以上です。