中国全人代で『外商投資法』が可決される
中国全人代で『外商投資法』が可決成立しました。
『外商投資法』は、簡単にいってしまえば、外資企業に対して中国企業と同じような市場アクセスをみとめるための法律です。
わずか三カ月の審議で成立したこの『外商投資法』は、米中貿易協議のなかでアメリカ側が強く求めてきた条項を多く含んだものとなっています。
今回の『外商投資法』の成立により、今後は外資系企業が中国市場に参入しやすくなることが期待されています。
今回は、この『外商投資法』についてみていきます。
『外商投資法』とは?
『外商投資法』とは、外資系企業が中国国内で活動をしやすくするための法律です。
具体的な内容はまだ正式に公表されていませんが
- 中国企業への技術移転の強要を禁止。
- 外資が行う事業に対する地方行政府などによる介入を禁止。
- 中国企業を優遇するような補助金を禁止
- 知財分野で外資企業を保護する
などが柱になっているようです。
また、上記を実効的にするために罰則規定なども導入されているとのことで、実際の効果はどのように出てくるかはわかりませんが、とりあえず、今までよりも外資企業にとっては中国国内で経営しやすい環境になっていくことが期待されています。
『外商投資法』の成立以前は?~外資に合弁企業設立を半ば強制
『外商投資法』の成立以前は、中国の中央政府および地方行政府は、外資系企業に対して半ば強制的に合弁設立を指示してきました。
そうして外資系企業の持つ技術や特許などをしっかり合弁企業に吸収させた後で、その合弁企業を資本の理屈でなかば接収のようなことを行ったり、
または合弁企業から中国側出資企業に向けて技術を提供したりなどの行為を行ってきました。
例えば日本の新幹線などがいい例です。
日本は2000年代初めころ、経済が勃興する中国への鉄道設備の売り込みを図ります。
しかし中国側は、売り込むなら合弁企業を作って、その企業に作らせること、技術移転をすることを要求。
日本の川崎重工業がこれにのってしまいます。
その結果、日本の虎の子の高速鉄道技術がごっそり奪われ、信号制御技術なども奪われてしまいました。
今では、そうして合弁を作った中国の鉄道メーカーは、
『中国中車』という世界一の鉄道メーカーとして君臨しています。
世界一も世界一です。
中国中車は世界二位、三位メーカー、シーメンスとアルストムをあわせたよりも二倍くらい大きいのです。
とてもとても資材調達コストなどの面で太刀打ちができません。
このように、中国は各産業分野で非常に大きな国際的企業がいくつもできており、競合する他先進国からは不平が出ていました。
特にその不平を強く言っていたのが、アメリカです。
米国が『外商投資法』の成立を強く求める。
トランプ政権は2018年ころから、対中国の外交路線を非常に硬化させています。
この背景には中国製造2025などを前提とする中国の産業保護政策への懸念と、
それら産業政策が、将来的にアメリカの軍事面でのアドバンテージを覆す可能性を秘めているとの警戒感によるものと言われています。
簡単にまとめてしまえば、覇権争いですね。
こうした覇権争いへの懸念から、トランプ政権は中国製品に対して高関税をかけ始めました
⇒トランプ関税の行方1 中国がもし輸入関税をかけるなら・・・
そして、片一方では外交的解決をめざし昨年12月から本格的な貿易交渉に入っています。
⇒G20開幕~米中首脳会談を予測~いよいよ習近平とトランプのサシの交渉実現へ
その協議の進展の結果、中国側もかなり折れる態度を示しています。
⇒中国が『中国製造2025』を棚上げへ~米中貿易戦争解決のため市場開放へ転換か~
こうした経緯を踏まえて、たった3カ月たらずで成立にこぎつけたのが、今回の『外商投資法』です。
かなり即席で作られましたので雑な部分がきっとあると思います。
今後はその運用において、かなりトラブルが出てくるのではないか、と思われます。
『外商投資法』によって、中国企業の技術吸収速度は減速へ
とりあえず、今後は『外商投資法』によって、今までよりも中国企業へ技術移転が進むスピードは遅くなります。
個人的に、じつはこれで潤うのは、中国をお得意様にしている日本企業じゃないかと思っています。
日本の電子部品などは、かなり高度なものが多く、中国側は大量に日本から輸入しています。
真似して作りたいと思っても、作れていません。
以前ならば、こうした電子部品メーカーに中国国内に工場を作り、合弁で技術提供するように求めることができた中国側ですが、今後はそれができなくなります。
一見、アメリカが強く求めている『外商投資法』ですが、その果実はたぶん、日本が一番あると思います。
そういう観点から、このニュースをみていくと、色々面白いと思います。
以上です。