WLTPをめぐり自動車生産が急減~ドイツの国内総生産GDPは2015年以来のマイナス成長に~
WLTPの影響でドイツの自動車生産が急減、GDPは2015年以来のマイナス成長に
自動車の新排出ガステスト基準WLTPが2018年9月から導入されたことで、これを前に自動車メーカー各社は価格を引き下げて在庫を処分販売しました。
これにより、逆に9月以降に自動車販売が急減。
自動車の在庫がとても多くなっているとのこと。
German car industry snarl-up threatens ECB stimulus exit FT
こちらのFinancial Timesの記事によると、フォルクスワーゲンのクルマが1万台、在庫として空港そばの駐車場に並んでいるとのこと。
ユーロ圏のGDP成長の約1/3はドイツ経済が引っ張ってきましたから、ドイツ経済の不調っぷりは非常に厄介です。
ECBは債券購入プログラムの終了を急ごうとしているが、本当に大丈夫か?とFTは指摘してます。
なお、ぶっちゃけていうと、WLTPによる混乱は予想の範囲内です。
自分は以下の記事で春先にはこの混乱を予想しておりました。
18/6/7午後 WLTPと2021年EU規制で自動車販売はどうなるか
どや\(^o^)/
他にも、
欧州自動車メーカー 不正にWLTP基準の燃費を悪くみせかける行為が発覚 燃費改善数値目標達成のためか? 7月28日
WLTPで自動車販売に混乱発生中か?欧州小売販売が軒並み上昇 9月30日
などで関連記事を書いておりますので、よろしければごらんください。
とりあえず、WLTPとはなんぞや?という話をもう一度書こうと思います。
WLTPとは?
WLTPとは、簡単に言うと「自動車の排ガス、燃費測定ルールを世界で統一しましょうね」ということです。
この世界で統一するための基準作りは、国連主導で行われました。
WLTPはWorldwide harmonized Light vehicles Test Procedureの略
WLTPはWorldwide harmonized Light vehicles Test Procedureの略となっています。
日本語にWLTPを略すと、「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法」となります。
Test Procedure、つまり、検査手法のことを指すものですから、これ単独では排ガス基準が厳しくなったりするわけではありません。
WLTPはより実路走行を想定した試験法
WLTPはより実路走行を想定した試験法になっているといわれています。
いままでは高速で巡航することを前提に燃費を測定し、低いガソリン消費量で長く走れることをアピールしたりできましたが、WLTPではストップ、ゴーを繰り返すような街のりを想定した試験も導入。
さまざまな条件下での試験を行う必要があり、これが手間になっているとのことです。
なぜWLTPで自動車生産が混乱するのか?
なぜWLTPで自動車生産の現場が混乱しているのでしょうか?
WLTPが導入されても排ガス規制が厳しくなるわけでないのですから、何の問題もないのではないか?
そう考えるのは当然だと思います。
これには理由がありまして、つまり、WLTPの基準で今までのクルマも検査し直さないといけないわけです。
それで、検査し直した結果の数値をカタログに書いたりしなくちゃならない。昔のデータで売っちゃダメなんですね。
ですが、試験をするにはコストがかかります。
労力もかかります。
たくさんの車種をラインナップしているメーカーですと、その派生車種も含めてすべてを検査しきらないと売れないわけですから大変です。(一部、例外として少量ずつなら既存車種を販売してもいいそうですが、それでは在庫がはけません)
というわけで、WLTPを機に販売をやめる車種などもありまして、これらを安く叩き売ったのが、2018年7月、8月の自動車マーケットだったわけです。
WLTPを前に駆け込みでたたき売り、その後に深刻な自動車販売減
このようにしてWLTPの導入を前に大量のWLTP非対応車種を叩き売ったことで、逆にWLTP導入後に売れるはずのクルマが売れなくなった・・・というのが現状おきていることです。
また、いまだにWLTPの試験基準を受けられていない車種も相当数あるとされ、この問題の解決にはあと数か月かかるのではないかとされています。
WLTPのせいで乗用車生産減、そしてドイツの国内総生産/GDPも2015年以来のマイナス成長に
このようにしてWLTPを原因にしてドイツの自動車生産台数が急減しました。
ドイツにとっても自動車生産がGDPに占める比率は高いですから、WLTPの導入のせいでドイツのGDPがマイナス成長になってしまいました。
ドイツのGDPは2015年のチャイナショック後以来初めてのマイナス成長になっており、このことはじきに解消されると多くの専門家はみているようですが、ECBの金融引き締めを前にちょっと気持ち悪い状況を生み出しています。
WLTPごときで騒いでいてはだめ。本番は2020年以降に
なお、WLTPごときでマイナス成長になったと騒いでいてはだめです。
自動車を巡る生産、販売の一番の問題は、2020年以降の排ガス規制強化からはじまります。
個人的に、この基準をみたすためにはかなりの量の電気自動車EVを導入する必要が出てくる、と思います。
それをみこして、フォルクスワーゲンもダイムラーもBMWもルノーもフィアットクライスラーも、どこの会社も電気自動車EVの開発と生産ラインの新設に躍起になっています。
このことで、既存の自動車生産ラインの生産設備などが途上国に回される可能性が高いのではないかと思います。
また欧州では、自動車の平均販売価格の上昇に消費者がついてこられなくなる可能性もあるのではないか、という気がします。
とりあえず、EVが大量に販売される世の中に向けて、サプライチェーンの末端まで動き出しています。
この動きはカネになる、と思います。
とりえあえず、今回はWLTPについてみてきました。
一応、現在はマイナスの影響ばかりがみえている環境保護規制基準ですが、いずれはこの規制こそがカネになると気づく時代がやってきます。
それを逃さないように、見ていくと良いと思います。
以上です。