『アベノミクスの本質』は、為替安を通じた労働コストの低下でしかないのでは?

自分が思う『アベノミクスの本質』について

 

 

『アベノミクスの本質』は金融緩和⇒為替安⇒労働コスト低下を通じた雇用拡大策

 

質問箱で以下のような質問をいただきました。

 

「アベノミクスの効果もなく日本経済はこれから衰退していくのでしょうか。」

 

というものです。

いつも質問箱のご利用ありがとうございます。

とりあえず端的に回答をしておきますと、

「衰退するかどうかは、衰退をどう定義づけるかによる」

と思います。

世界に占める日本のGDPが減ることを衰退というのなら、日本は衰退するでしょう。

「一人当たり名目GDPが上昇するか?」という点でいけば、まだまだ日本には上昇余地があります。

ですので、「衰退するかどうか」というのは、定義によりけりと思います。

求められた回答とは異なるとは思いますが、ご了承ください。

 

 

で、個人的に気になったのは、質問自体というよりも

「アベノミクスの効果もなく」

という部分です。

瑣末なところにひっかかる悪い癖が自分にはありまして、この点については、ちょっと書いておきたいなと思いました。

とりあえず自分は、アベノミクスには否定的です。

 

『アベノミクスの本質』は、単純な労働コストの引き下げでしかなかった

と見ています。

というか、アベノミクスが始まった当時からそういう見立てでしたから、バイアス込みで眺めてきたというのもありますが・・・

 

とりあえず、以下のチャートをごらんください。

ドル/円

ユーロ/円

人民元/円

主要通貨に対して最高値から最安値まで概ね40%程度変動したことがわかります。

現在はやや戻して最高値から25%程度下げた地点にありますが、とりあえず、日本円はそれだけ安くなった、ということです。

なお、購買力平価や実質実効レートなどでみると日本円の実力は90円台ということですから、現状の為替はファンダメンタルズでみれば円安ということになるのでしょう。

(ここらへんは専門家でも意見が分かれるところなので、専門外の自分はよくわかりません。)

 

なお、ここもと話題の毎月勤労統計でみると、この間、日本人の賃金が25パーセント上がっているわけではありません。

現金給与総額は名目で対前年比 13年0.2%減 14年0.5%増 15年0.1%増 16年0.6%増 17年0.4%増 18年1.4%増 となっており、どう見ても25%も上がっていません。

もっというと、海外では賃金が上昇していますから、日本人の労働コストは諸外国から見たらどんどん低くなっています。

このことが影響して有効求人倍率はバブル期を抜いて上昇中です。

つまるところ、

アベノミクスの本質とは、諸外国に対する労働コストの引き下げでしかなかった

と個人的には見ています。

 

 

「いやいや、正の資産効果による消費押し上げなどもあっただろう?」

という声は聞こえてきそうです。

とりあえず、下記をごらんください。

どうでしょう?アベノミクスが導入されたことで消費がそんなに増えたようにみえますか?

アベノミクス以前だって、以後だって、あんまり変わりないですよね?

 

わかりやすいようにもう少しアップしてみましょう。

 

なお、その他の期間の詳細は⇒【統計】日本のGDP寄与度分解

うーん???

アベノミクスの資産効果で消費拡大というのは、一時的にはあったかもしれませんが、ちょっとよくわかりませんね。

消費底割れを回避することには繋がったのかもしれませんが、爆発的に増えているようにもみえません。

2014年の消費増税前に駆け込みで消費が増えた面はありそうですが、これは資産効果とは違うでしょうし。

それよりも顕著に違いが見えるのは、輸出と設備投資ではないでしょうか?

『アベノミクスの本質は労働コストの低下』

と書きましたが、その労働コストの低下をみて日本国内に製造業が回帰しました。

ちょうど中国で労働活動や尖閣問題などの混乱があり、日本企業が撤退する動きが相次ぎました。

そういった影響もあり、日本国内に製造業が回帰する動きが出たのが、この2013年から現在に至るまでの状況です。

またこの期間は、円安方向に振れた為替の影響とビザの緩和によって、中国や東南アジアなどの国々から日本に旅行客が大量に殺到し、インバウンドブームが起きました。

そうした影響で、国内の設備投資は増えましたし、有効求人倍率も上昇しましたし、失業率も低下しました。

とりあえず、賃金は低いし、仕事はきつい製造業や飲食業、宿泊業、介護などが多いですが、働く場所が用意された、というのがここもとのアベノミクスの成果です。

 

ここで重要なのは、国民の多くがひたすら低賃金できつい労働をさせられ続けている、という事実です。

いま必要なことは

『アベノミクスの本質』を「労働コストの低下」から「生産性の向上」

に向けなければならないはず。

このためには、生産性の低い事業や産業を切り捨てていく必要があります。

低い賃金では労働者が集まらない⇒賃金を引き上げ⇒賃金引上げに耐えられない事業者が撤退⇒高賃金でもやっていける事業者だけが残存利益を享受

という動きになる必要があるはずです。

しかしどうも安倍政権のやっていることは、この逆なのではないか、という気がしています。

製造業で人が足りなければ外国人導入。

介護現場で人が足りなければ外国人導入。

農家が人が足りなければ外国人を導入。

宿泊分野で人が足り・・・

 

とりあえず、産業界の要請に応じて、低い賃金でも働く外国人をどんどん導入していこうとしています。

これでは低賃金労働が延々と残ってしまい、生産性の向上に繋がらないのではないか、という感じがします。

アベノミクスの本質が生産性の向上に繋がるまでには、相当の時間が必要なのではないか。

いやむしろ、そうした方向に進まずに、単純に副業解禁や外国人受け入れ拡大によって、国民を貧乏な状態で忙しくさせるだけなのではないか?

そんな感じがしています。

このようなやり方をしていれば、大多数の日本人はどんどん貧しくなるはずです。

一部の資本を持つ者たち、権力者に近い側の人達には低賃金労働者が増えることはいいことですが、こういったアベノミクスの方向性は、多くの日本人にとってはメリットが薄いのではないかと思います。

 

なお、こんなことをいうと

「新卒採用の現場は活況」

「若者はアベノミクスの恩恵を受けている」

ということを言う人もいそうです。

 

でも、まさにそれこそが今の日本の問題点かと思います。

つまり、世代間で所得階層やスキルの取得状況に大きな差ができてしまっていること。

就職氷河期にぶちあたった世代とそれ以外で差が開いており、景況感の濃淡が激しくなっているのではないかという気がしています。

 

なお、自分は経済学をちゃんとやっているわけではないので、ここで書いたことに間違っている部分は大いにあるはず。

もし違った解釈があるなら聞かせていただきたいと思います。

以上です。