サンダース大統領の誕生で物価と金利は跳ねあがる?
格差社会のおかげで低く保たれる物価と金利
(以下に書く見解は、自信があるわけではありません。かなりいい加減です。自分は経済学を専攻したわけではありませんし、統計学のプロでもありません。間違いなどもあると思います。何か意見や気になる点などがございましたら、ぜひtwitterなどで指摘をお願いします。お待ちしております。)
本題はじめます。
自分は、現在の物価統計の仕組みと、格差社会と、金利水準は、みごとに仕組まれているとおもっています。
経済統計でいうところの物価には、幾つかの種類があります。
消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)は大体どこの国でも採用している物価指数です。
アメリカならばPCEデフレーター、中国ならば購買価格と出荷価格を分けたりもしますが、まぁ大体そんなもんです。
で、これらすべてに共通するのは「マス(大衆)による消費を前提としている」
ということです。
ごく一部の金持ちが消費するようなものは対象に入っていませんし、趣味性、嗜好性の高いものも物価統計ではカバーされません。
あくまでも大衆が消費するもの(大衆消費財と名付けましょうか)の価格動向を追うための指標です。
意地悪な見方をするならば、CPIというのは
「民を生かさず殺さず、不満を感じさせない程度の水準に物価を保てているか判断するための指標」
ということもできると思います。
物価と金利の関係
さてここで、各国の金融政策に関して考えてみたいと思います。
日銀でもFRBでもECBでも何でもそうですが、基本的に各国の金融当局というのはもともとはインフレファイターでした。
物価を安定させ、インフレにさせないことが目的で金融政策をしてきました。
物価が安定していないことには、大衆の生活が苦しくなりますし、生産活動が滞りますので当然です。
その後、経済活動を円滑化させることも金融政策の目的となり、労働市場の動向などを勘案しながら、今に至ります。
ただ、ここで先ほども書いたように、物価の定義が問題になります。
一般的に、各国の金融当局が参照する物価は、消費者物価指数(CPI)です。
またはアメリカなどではPCEデフレーターなども重視されますが、どれにも共通するのは、マスの消費(大衆消費財)を対象にしているということ。
ここに大きな罠がある、と自分はみています。
格差社会を促進すれば、金利を低く抑えられる?
近年、世界中で金利が消滅しています。
日本や欧州主要国は10年物国債の利回りがマイナスに突入していますし(イタリアは低格付けで1%程度ついてますが)
アメリカも10年債が過去最低の1.126をつけるなど、世界中が低金利状態になっています。
かつてなら、これだけ金融をじゃぶじゃぶにすればインフレになったものです。
しかし、現在はまったく物価が上がらない。
溢れた資金は金融市場に流れ込んで株価や不動産価格を押し上げますが、まったく物価には影響してこない。
何故なのか?
自分はそれは、戦後70年経ち、生産設備などの資本を持つ者と、持たざる者が完全に分離し、富裕層と大衆とでは生活様式すら全く変化したことが原因だと思っています。
端的に言えば、格差社会のせい。
先ほども書いたように、各国当局が金融政策の参照に用いる物価は消費者物価指数など大衆をターゲットにしたものです。
資本家側、支配者側は、こうした大衆向けの消費財の供給をしっかりして用意おけばいいわけです。
そうしておけば、物価は全然あがりません。
物価は上がりませんから、大衆はさほど文句はいいません。
物価は上がりませんから、金融政策は緩和的になります。
金融政策が緩和的になりますから、金融資産価格や、特定地域の不動産価格だけは上がっていきます。
大衆はほとんど金融資産を持ちませんから、金融資産が上がっても消費全体は増えません。
高級鮨やブランデーなどのような、金持ちのための消費財は値上がりしますが、大衆が欲しがるものは低廉に保たれます。
大衆は富裕層とは別の地域に住みますから、富裕層が欲しがる特定地域の不動産価格は、大衆向けの不動産価格と乖離して上昇しやすくなります。
(なお、今回は帰属家賃の計算やヘドニック法による品質調整における問題点については書くのをやめておきます。あまりに範囲が広がりすぎて収集がつきそうにありません。それらについては別の方も言及していたりしますので、そちらを参照ください。)
大衆も「まぁ自分達は金持ちとは違うし、そんなもんだよな」といった感じで生きています。
別に大型クルーザーとか欲しくないし、パテックの時計も欲しくない、高級鮨屋とかよくわからないし、ドンペリ飲むより缶チューハイたくさん飲む方がいいや、みたいな。
そんな感じで割り切って多くの人は生きてきました。
バーニー・サンダースによる「医療保険制度は人権」という考え方
多くの面で、庶民の求めるものと富裕層の求めるものには乖離があります。
ただ、ここでひとつ問題があります。
庶民も富裕層も等しく求めるものがあります。
それは、医療です。健康です。長寿です。不老不死です。
医療技術の進歩により、長寿がカネで買えるようになってきました。
不老不死まではまだ到達しませんが、いずれ可能になるでしょう。
カネに糸目をつけなければ、長生きできるようになってくる・・・するとどうなるか?
人々は、富裕層に対して妬み、恨みを今まで以上に持つようになる・・・と自分はみています。
古来より、長寿や健康は最高の贅沢でした。
今のように、国民が当たり前のように享受できるようなものではありませんでした。
貧乏人はまともな医療にアクセスできず死ぬのが当たり前な世の中でした。
これが、ビスマルク後の近代先進国において変化していきます。
医療保険制度などが社会福祉の枠組みとしてシステム化され、国家が国民に約束する義務、つまりは人権の一部として多くの国で規定されました。
ただ先進国でもその例に入らない国もあります。
アメリカです。
アメリカでは国民皆保険制度が整備されていません。
メディケア・メディケイドはありますが、基本は民間保険に頼るシステムです。
オバマケアでだいぶメディケイドの要件は緩和されましたが、それでも漏れている人々がいます。
長生きできるかどうかは自己責任、という意識が背景にあります。
ただ、自己責任というからには、生まれつきの格差が小さく、誰でも成り上がれる社会である必要があります。
しかし、実際にはそうなっていない。
アメリカに限らず先進諸国では、資本は一部の家系でガッチリと保有されており、世代を超えて格差が固定化しつつあります。(背景には資産課税の撤廃や、相続税の低率化があります。)
いまやアメリカの家計資産合計の70%を上位10%が保有しています。
また、30%を上位1%が保有しているとも言われています。
https://forbesjapan.com/articles/detail/27614
これでは医療へのアクセスを自己責任だと断じるわけにもいかないでしょう。
コロナウイルスの蔓延などがあれば、こうした医療制度の格差問題は炙りだされる可能性がある。
こうした格差是正を訴えて、大統領選に挑んでいる人物がいます。
バーニー・サンダースです。
彼の主張に関しては以下でも書きましたが
新型コロナの蔓延でバーニー・サンダース大統領誕生の可能性も?
とにかく、過激なものが多い。
労働者保護、公的医療保険制度、資産税導入、法人増税、富裕層増税、自社株買いの制限…
どれもこれも、格差是正を目的としたものばかりです。
富裕層家系による、世代を超えた富の継承を制限していこうとするものです。
集めた税金は、学資ローンの立替えなど、大衆へのバラマキに利用するつもりのようです。
これによって何が起きるでしょうか?
サンダース大統領が誕生すればインフレになるかも?
サンダース大統領が誕生した場合、いくつかのシナリオが考えられると思います。
ひとつは両院の過半数を共和党がとった状態でサンダース大統領が誕生した場合、何も政策が通らず、経済は突発的なリスクに対応できなくなる可能性があります。
もうひとつは、下院もしくは両院の過半数を民主党がとった状態でサンダース大統領が誕生した場合。
この場合、かなりサンダース大統領の思い通りの方向に向かうのではないか?とみています。
それは先ほどから書いている通り、富裕層から富を奪って、大衆向けにバラマキを行う政策ということです。
大衆は懐が潤うことで消費が増えるでしょう。
これにより、今までよりも消費者物価指数の参照先となる「大衆消費財」の需要が膨らむ可能性があるとみています。
さすがに南米の左派政権がやったほどの状況にはならないでしょうが、似た傾向になる可能性があるのではないか、とみています。
それはつまり、大衆消費財の価格は値上がりし、CPIやPCEデフレーターは上昇し、現在の低金利が維持されなくなるということです。
これは最悪のシナリオだと思います。
富裕層の資産は、ただでさえ富裕層増税で傷むのに、さらに債券安にも晒されることになるということです。
さらには、益回りと国債利回りのスプレッド縮小により株安が起きる可能性はあるのではないか、とみています。
米ドルの信認も問題になってくる可能性がありますが、この点は好悪両面あって何とも言えないところ。
とりあえず、サンダース大統領の誕生というのは、マーケットシナリオとしては大激変をもたらすものだとみています。
今までの当たり前が通用しなくなる社会に突入する可能性がある、ということ。
その点には要注意かな、とみています。
とりとめもなく散漫な文章になってしまいましたが、以上です。
追記:2020年3月1日
twitterにコメントをいただきましたのでリンク貼らせていただきます。
読み甲斐がある鋭い内容で同意です。物価と金利の関係に補足したいと思います。金利消滅=金利の機能不全。質の悪い投資と質の低い投資が分別されない資金分配が進む。物的資源(人や物資)が非効率的に投与され生産性の成長が鈍化。大衆の懐(実質賃金)が潤わない。購買力低下、供給構造悪化が進む。
— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
金利の高さによって投資事業が選別・淘汰されていくという経済学の見方です。特にオーストリア学派が念押ししています。
1990年代から継続する日本の極端な低金利環境下を例に考えてみます。資本を借り入れする投資事業があるとします。銀行や投資家は貸出金利や利回りを重要視しますが、
— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
根本的に日銀の政策金利が貸出金利・利回りの水準を左右します。金融緩和により政策金利が低下すると銀行や投資家は以前より低い貸出金利・利回りで投資事業に資金を回します。言い換えれば、本来の(高い)金利水準では淘汰されているような低利回りの投資事業までも実行可能となります。
— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
いわば、質の悪い投資事業と質に良い投資事業の線引きが緩くなる。このような過程が1990年代から長期にわたり続いている為、金利の機能不全が起きていると言われます。
その結果、本来であれば運転資金が枯渇し倒産している会社が生き延びたり(evergreening やゾンビ化などと形容されます)、— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
効率の悪い投資事業が実態経済の中で蔓延する状況が進行します。この結果、労働者や物的資源が効率の悪い事業に使われることになり(供給構造の悪化)、生産性が低下してきた要因とされています。
学術的には misallocation of capital (資本配分の歪曲) による生産性の低下と言われます。
— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
生産性の伸びは実質賃金の源泉なので、大衆の購買力の低下につながります。このような説明が日本の実質賃金の低下になされたりします。
この見方は @chu_sotu さんの物価が上昇しない理由としてあげている資産市場への資本流入(私も完全に同意です)に対する追加的な説明です。長くなりましたm(_ _)m
— Murai (@TaikiMuraiJP) February 29, 2020
日本の生産性低下と、実質賃金の低下と、資産市場への資本流入と、低金利の継続がリンクしているという内容。
さすが本職の方だけあってわかりやすい・・・ありがとうございます。
この連環を断ち切るゲームチェンジ効果が、サンダース大統領の誕生にはあるのでしょう。
それは感じておいた方が良いように思っています。