アルミ大手ヒンダルコ子会社ノベリスがアレリスを買収/米印関係の緊密さを示す

アルミ大手、インドのヒンダルコインダストリーの子会社ノベリスが、米国の同業アレリスを25億8000万ドルで買収

 

アルミ圧延事業世界最大手、インドのヒンダルコインダストリー傘下の米国企業ノベリスが、同業の世界シェア6位米国企業アレリスを買収します。

印アルミ大手ヒンダルコ、米同業を2800億円で買収

これは、米印関係の親密さを示す数多くの事例のうちの一つにあたると思われます。

 

もともとこの米国企業アレリスは、中国のアルミ形材最大手・中国忠旺控股(チャイナ・ジョンワン・ホールディングス/China Zhongwang Holdings)からの23億3000万ドルの買収提案を2016年8月に受け入れ(実際の買収主体は子会社の忠旺USA)、あとは買収の認可をアメリカ政府から取り付けるだけ・・・という段階にありました。

この中国忠旺控股によるアレリス買収に待ったをかけたのが対米外国投資委員会(CFIUS/シフィウス)です。

この買収には上下院あわせて20人をこえる連邦議員たちが反対を表明。ムニューチン財務長官に対して買収に反対する書面を直接渡すなど、抗議が広がりました。

結果、トランプ政権下で約一年の審査を経たのち、2017年11月には買収が破談。再度、アレリスは身売り先を探すことになり、その結果今回、ヒンダルコインダストリー傘下のノベリスが買収することになりました。

なお、アレリスは投資会社のアポロやオークツリーが大株主となっており、当初から売却先を探していました。いずれ身売りされることが前提だったわけです。では、

なぜアレリスは中国企業である中国忠旺控股ではなく、インド企業であるヒンダルコインダストリーに売却されることになったのか?

まず、アレリスの顧客にはフランスのエアバスなどがあるとおり、航空、宇宙(特に欧州)に強いのが懸念されたのだと思います。(ちなみに米国はアルコア/アルコニックが強いです。また、アレリスはこの件に関して防衛分野はしないと言っていたと記憶しています。)

航空機材の他にも自動車用パネル材や特殊合金なども作っており、今後のEV化の進展と自動車の軽量化において重要な役回りを果たす可能性がある企業、ということになります。

一頃に比べて自動車のアルミ化への熱意は業界全体で落ちているようにみえますが、それでもEV時代の軽量化においてアルミが大きな役割を果たすことは間違いありません。そんなわけで、アルコアもコンステリウムもUACJもアレリスもノベリスも、みな自動車のアルミ材(パネル材、構造材)に乗り気になっています。

そんな重要なマーケットに、中国企業である中国忠旺控股がズカズカ乗り込んできてほしくなかった・・・というのが本音なんじゃないか?と個人的には思っています。

 

ちなみに、中国忠旺控股はこのアレリス破談に先立ち、ドイツのアルミ押出加工製品メーカーアルミニウムウェルク・ウンナ(アルーナ、ALUnna)を買収しました。

アルーナのプレゼン資料によると、同社は、自動車、二輪、電力産業、そして、航空、ロケットコンポーネント、弾薬の薬きょうなどを製造しているそうです。

中国忠旺控股は企業買収の戦略が明確です。何が必要かをよくわかっています。

またそれは、中国政府の方針でもあると思われます。中国は、自国の電気自動車産業を興そうとしているのと同様に、航空機産業COMACも自国で立ち上げようとしています。そういったなかで航空機部品は当然必要。

そしてもうひとつ、相手国の国防産業のサプライチェーンにしっかり食い込むことが戦略上・外交上重要であることもわかっています。

今回の件でいうと、たぶん中国は欧州を自陣営でガッチリ確保したかったんだと、自分は見ています。とりあえず、中国忠旺控股によるアレリス買収は実現しませんでしたが、その目論見はアルーナである程度達成されたようにみえます。

 

・・・っと、ちょっと脱線しました。ヒンダルコの話に戻します。

 

そもそもビルラ財閥傘下のヒンダルコ・インダストリーがアルミ産業においてここまで大きく成長したのも、ノベリスを買収してからです。これがアレリスを買収すると、アルミ圧延事業ではダントツの世界シェア一位になります。

アルミ圧延世界シェアの寡占とまではいきませんが、かなりのマーケットポジションを持ちます。

日経新聞調査のデータによるアルミ圧延事業の出荷量ベースでみると、インドのヒンダルコインダストリー単体では世界シェア40万トンくらい。これにノベリスの300万トン、アレリスの60万トンくらいが加わると400万トンを超えてきます。これは、二位のアメリカのアルコニック150万トン、3位のオランダのコンステリウム120万トン、4位の日本のUACJ 100万トン、5位のノルウェーのノルスク・ハイドル90万トンに比べて圧倒的なポジション。中国の中国忠旺控股がどのあたりに入るかにもよりますが、売上高の規模からすると、たぶん230~290万トンくらいだと思いますので、まぁ、とにかく、アルミ圧延業界においては圧倒的に大きい企業だと言えます。

ここまで大きい企業をアメリカは自国資本でなくインドの財閥傘下に任せることになります。ヒンダルコ、ノベリス、アレリスの連合は、自国の国防産業のサプライチェーンにも、同盟国のサプライチェーンにも食い込んできます。それをインド企業が担うということ。。。

 

つまり、アメリカとインドはそのくらい関係が良好ということだと思います。

インドはどこの陣営にも属さない中立的な国家運営を進めてきましたが、中国が台頭する中にあってアメリカ側に非常に近づいているようにみえます。

インドでは、小売り事業は外資参入できない、とされていたはずなんですが、いつの間にか済し崩し的に、Amazonやウォルマートがネット通販事業を媒介にして小売りに参入しています。インドのネット小売り事業/Eコマースにおいては、米国企業が上位1位、2位を占めています。

また、インドのメディア業界をみても、有料テレビ放送の分野は21世紀FOXが強い。ここをディズニーが買収します。いずれは地上波もやるでしょう。

 

 

アメリカは、米国流の価値観からどんどん遠ざかる中国に嫌気しているのでしょう。

18年前に中国のことを「WTOに加盟させて豊かにさせれば価値観が西欧的になって民主主義国にかわる」とみていた人達が諦めているようにみえます。

中国は実際には、封建主義的なところが何も変わらず、それどころかデジタル化の進展によって商鞅や李斯が理想としたような法家的支配がより容易くなりました。

中国は重商主義的にアメリカから購買力を持ち逃げするだけで、建設的な関係を築こうとしていない。さらには習近平指導部において中国製造2025やら2050年までのロードマップなどが作られるに至り、これは放っておいたらいけない、と見始めたのだと思います。

 

今後、インドとアメリカとの繋がりは対中国の軸でより一層緊密化するでしょう。

今回のヒンダルコ・インダストリーによるアレリス買収は、その一環であると個人的にはみています。

インド経済、とくに消費の分野でアメリカ企業の攻勢が強まると思います。そこに商機があるのではないか、と個人的にはみています。ウォルマートには注目しています。まだ株は買ってませんが。

以上です。