エルドアン大統領はイマーム養成学校出身~そもそも金利に否定的な可能性~

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はイマーム養成学校出身。熱心なイスラム教徒であり、そもそも金利に否定的な可能性?

 

 

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、今日、大変興味深い談話をしました。

トルコ大統領、利上げに否定的 リラ一時最安値

  1. 「自分が生きている限り、金利のわなには落ちない」と利上げに否定的見解を述べ
  2. 国際通貨基金IMFによる支援に関しては「政治的主権を放棄しろというのか」と否定
  3. アンドリュー・ブランソン牧師の解放をめぐっては「テロ組織とつながりのある牧師と引き換えに8100万人のトルコを犠牲にするのか」
  4. 米国との対立を巡っては「政治的陰謀」「降伏はしない」と米国を非難

ひとつひとつみていきましょう・・・

まず1です。

13日朝の日経モーニングプラスに出演の脇祐三日経新聞コラムニストが発したコメントに、自分は「アッ・・・」と思いました。

 

 

豊嶋広日経新聞解説委員「なんでエルドアンさんは、こんなに利上げが嫌いなんでしょう?」

脇祐三日経新聞コラムニスト「よく選挙のために景気を冷え込ませないためとか言うんですが、僕は彼のイデオロギーの本質がここにあると思う。つまりエルドアンって人は、普通の大学に行く前に、まぁ高校時代にあたるときに行ってたところは、イスラムの聖職者養成学校いってたんですよ。」

 

 

あぁそうだった!イスラムは金利(リバー)禁止だったんだ!

そう・・・イスラムは金利のやりとり禁止です。金利のことをリバーといいます。

そんな当たり前な知識・・・中学で習う知識をすっかり見落としてました。

 

レジェップ・タイイップ・エルドアンはイマーム養成学校(イマームハティップ高校)を卒業後、マルマラ大学経済商業学部入学、在学中からイスラム主義政党である国民救済党(MSP:Milli Selamet Partisi)で政治活動を始めたといわれています。

この国民救済党は現在のエルドアンの所属政党である公正発展党(AKP:Adalet ve Kalıkma Partisi/アク・パルティ/AK Parti)の元になるイスラム主義政党です。

イスラーム主義政党は、トルコにおいて何度も非合法化され、弾圧を受けて解党しては新しい政党に党員を移動させながら(国民救済党→福祉党RP:Refah Partisi→美徳党FP:Fazilet Partisi→公正発展党)続いてきました。

この人たちの主張は2000年頃まで一貫していて、トルコの世俗主義の否定、もっというとムスタファ・ケマル・アタテュルクのやりかたの否定でした。

ですが、そういった過激な主張では広範な支持を得られないし、なにより司法・軍からの迫害を受け続けて政治活動がままならない・・・ということで、2000年ころを境に方針を転換。

世俗的な意見も取り入れながら、中道右派政党として活動をしはじめ、2002年の選挙では議会の過半数をおさえて勝利します。このころから今に至るまで、この中道右派的な政策を続けてきました・・・

ですが、エルドアン大統領の思想の根底を流れるのはイスラム主義なんですよね。

そして、イスラム教においては金利(リバー/Riba)は禁止です。

イスラム教徒でない自分がイスラムの教義について口にするのは憚られますので詳しくはここには書きませんが、Wikipediaの英語版に書かれているRibaに関する内容は参考になると思います。そちらをごらんください。

(自分は神を信じていませんので、神の言葉を伝えることはしてはならないと思っています。)

 

とりあえず、富める者が貧しい者から搾取するシステムを嫌う、富める者は貧し者に分け与えるのがアタリマエ・・・そういう思想がイスラム教の根底にはあります。

ある意味イスラム教の価値観は、資本主義の対極にある価値観です。

共産主義とはまた異なりますが、どちらにしても資本主義陣営にとっては厄介なイデオロギーです。

(共産主義はみんなで生産・分与。イスラム教では才覚のある者が富み、それを貧しい者に分与すべしとする。ある意味で鄧小平の先富論にも近いところはあると個人的には感じています。もちろん、イスラム教の方が先ですが。)

なんとなく、このあたりに今回の牧師問題の裏があるように感じます。

資本主義の元首であるアメリカは、イスラム教の拡大はイデオロギー的に受け入れられない・・・それで、CIAにいろいろさせていたのではないか。そんな感じがしています。(確証はありません。あくまでも個人的な妄想です。)

 

 

 

ちなみに、エルドアンが金利引き上げしないのは当然です。

借金っていうのは、借りる側より貸す側が強く、貸している側よりも借りている側の方が強いんです。

金利を引き上げても、カネを貸している欧州の富裕な連中が潤うだけです。

前の記事でも書きましたが、そもそもトルコは政府債務比率はさほど高くない。民間債務比率が高いんです。

トルコには、すでに過去に貸してもらったカネで建物やインフラができているのですから、カネを返せなくてもトルコは困らないのです。

もちろん、そんなことをしたら新たなカネは貸してもらえなくなるでしょうが、それならそれでもかまわない、とエルドアン大統領は捉えているふしがあります。

代わりの同盟国を探すよ、と。

自分たちは地政学的に良い位置にいるんだよ、と言いたげです。

 

 

 

実際、トルコが再度混乱に陥れば、困るのは欧州諸国なのです。

トルコ向け融資の焦げ付きで困るのはBBVAやウニクレディト、BNPパリバなどと言われています。

また、トルコが混乱すれば欧州への難民問題も再燃するでしょう。

ユーラシア大陸の重要拠点がロシア・中国寄りになってしまうかもしれません。

ここら辺の西側の足元を見ながら、エルドアン大統領は駆け引きをしている可能性があります。

 


2に関して

また、以前の記事でも書きましたが、エルドアン大統領の功績は、トルコをIMF管理下から救い出したことにあります。IMFは欧米による貧しい者からの搾取だ、と捉えているふしがあります。

IMFから救い出したことが最大の功績であるエルドアン大統領が、再度IMFの管理下に戻るはずがないのです。

ですから、

”国際通貨基金IMFによる支援に関しては「政治的主権を放棄しろというのか」と否定”

という発言になるわけです。エルドアン大統領としては、ここら辺の方針は一貫しています。


3と4まとめて書きます。

(1に紙面を割き過ぎて長くなり過ぎました・・・悪い癖です。読みにくくて申し訳ありません。)

 

とりあえず、以前の記事にも書きましたが、

当ブログ記事 アンドリュー・ブランソン牧師拘束をめぐりトルコリラ大暴落

トルコ政府はアンドルー・ブランソン牧師をCIAのスパイだとみている可能性が高いと思います。

そのCIAのスパイがクルドを焚き付けてトルコから分離独立しようと画策したり、キルクークの油田開発をユダヤ資本と牛耳ろうとしたり、ギュレン派と組んで軍の将校の一部にクーデターをそそのかしてエルドアンを暗殺しようとした・・・そうトルコ政府・エルドアン大統領は考えている可能性があります(これはあくまでも自分の妄想であり、確証があるわけではありません)。

米はトルコに新たな同盟国探しを強いている=エルドアン大統領 Sputnik

「新たな同盟国探し」も=トルコ大統領、米に警告 NYタイムズ

トルコ大統領が米批判 「牧師とNATO同盟国を引き換えにしている」AFP

 

この調子でいくと、トルコはNATO離脱もしかねない勢いです。

実際、トルコはNATO加盟国であるにも関わらず、地対空ミサイルをロシアから調達しました。

トルコ向け露ミサイルS-400 生産が開始 露武器輸出社 Sputnik

難民問題で妥協しても、死刑廃止で妥協しても、女性への権利拡大で妥協しても、いつまでたってもEUに加盟できない現状をトルコへの差別だと感じている可能性があります。

とりあえず、そういった鬱憤が大量にたまって、現状のごたごたに至っています。

誤解がもとで米土関係が悪化しているのなら、それはとても悲しむべきことです。

しかし、もしCIAが本当にトルコ国内でゴチャゴチャやっていたのなら、もうそれは自業自得というほかないでしょう。

策士策に溺れる、とはまさにそういうことです。

 

 

資本主義の根底が信用で成り立っている以上、長期的に見れば一番損をするのは信用を失う行為です。

借金を踏み倒すことも信用を失いますが、他国でゴチャゴチャやることも信用を失います。

それをわかっていないのなら、お互い愚かだと思います。どっちもどっちです。