フランスの『黄色いベスト』による反マクロン抗議デモ~燃料税より労働法改革が問題~
反マクロン抗議デモ『黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)』~メディアは「燃料税問題」に矮小化して解説しようとするが、本質的には「労働法改革問題」の方が重要
ここ数日、フランス各地で反マクロン派による大規模な抗議デモが繰り広げられています。
参加者が道路の交通整理などのときに着用する「黄色いベスト」を着用していることから、デモ参加者は「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」と呼ばれているそうです。
「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」~反マクロン抗議デモの直接のキッカケは「燃料税」
この反マクロン抗議デモの直接のキッカケは「燃料税の引き上げ問題」だと言われています。
マクロン大統領は環境保護のために、ガソリンにリッター4円、ディーゼル油にリッター8円の増税をすることを計画。
これに対して公共交通機関の少ない地方の労働者を中心に反発する声が広がり、パリで抗議するためにSNSなどを通じて集まったとのことです。
当初は穏健に始まった「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」による燃料税引き上げ抗議デモ
当初は穏健に始まった「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」による抗議デモでしたが、徐々にその雰囲気が変化していきました。
一部のデモ参加者が暴徒化、パリの街では自動車が燃やされたり店舗が破壊されたりと酷い状況に陥りました。
ルメール経済相によると、小売業者の一部は、デモ中に売上が約20~40パーセント減少。一部レストランも約20~50パーセントの売上を失ったのこと。
これを受けてフランス政府は燃料税導入を6カ月延期すると発表しましたが、時すでに遅し、これで解決されるかどうかは難しい局面になってきているのではないか、と個人的には思います。
というのも、これまでとはデモの質が違っているからです。
以下私見
これまでのデモとの違い~SNSによる緩い連携、燃料税反対から目的の分散化~
これまでのデモでは、デモを率いるリーダー格がいて、それと調整をすれば解決することが多かったように思います。
ぶっちゃけ、労組によるストライキや若者による抗議デモはフランスの文化みたいな部分があり、それは昔からずっとそうです。
ある程度騒いだら、政権側とデモ主催者がじっくり話し合って政治的な解決に至る・・・そしてデモ主催者が新たに政党を作って政治的要求を合法的に求めていくようになる・・・
ある意味デモのリーダーも打算的で、なり上がるための手段としてデモを組織していたものです。
しかし今回はちょっと違う。
たしかに当初はリーダー格みたいなのがいたようですが、実際にデモが始まっていくにつれてSNS経由で有象無象が大挙してやってきてしまった。
彼らはSNSで緩く繋がっているだけで、デモの目的が一本化されていない・・・かといって、烏合の衆かというとそうでもない。
むしろ独立愚連隊の集まりのよう。
当初の「黄色いベスト」のリーダー格が政府と妥協しようとしたところ、脅迫をしてやめさせたりもしているそうです。
現在では黄色いベストのリーダー格の人には政府側の護衛がついているとのことで、なんだかよくわからない状況になっています。
「黄色いベスト」デモの直接の発端は「燃料税」だが、背景には「労働法改正問題」があり、その根っこには「反富裕層」がある
個人的に、今回の「黄色いベスト」による反マクロン抗議デモは、すでに燃料税問題から中心がズレていると思います。
むしろ、マクロン大統領が就任してからこれまでに行ってきた改革、、、とくに労働法改革問題に関して、問題が移ってきているように感じます。
さらにいうと、その労働法改革が誰のためのものか・・・
「富裕層、資本家層、エスタブリッシュメントばかりが潤う環境を作っているのではないか?」
「外国から低廉な労働力を導入して、フランス国民の失業率は高止まりしているが、それで潤っているのは富裕層、資本家層ばかり」
「マクロンのようなインテリ腐った奴はむかつく。もっと労働者に寄り添った政治家がいい」
といったような不満が背景にあるようにみえます。
そうした不満が積もりに積もって、今のこのキッカケに爆発した・・・それが本質ではないかとみています。
ですから、「燃料税導入を6カ月先延ばし」などとマクロン大統領は言っていますが、そんなので解決するようにはみえません。
もっと本質的な部分で譲歩しなければ(例えば労働法典改正を再度元に戻すとか)しなければ、底辺層の鬱屈した思いは変わらないのではないか?と思います。
「黄色いベスト」によるマクロン政権抗議デモは、極右政党・国民戦線マリーヌ・ル・ペン党首に追い風となる可能性
マクロンと大統領職を競って敗れた国民戦線のマリーヌ・ルペンですが、今回の大混乱でマクロン政権の支持率が20%台前半まで下落している今、非常に優位なポジションに返り咲く可能性がでています。
今回、暴動に参加している人々は労働者階級であり、明らかにマクロンのようなインテリエリート政治家一家とは別の人種です。
対して、ルペンはもともとブルターニュの漁民の一家であり、労働者階級の見方であるフリができます・・・いわゆるポピュリストです。
どうもこの動きをみていると、フランスで起きているのは燃料税反対ではなく、単純な反移民でもなく、むしろ労働者の権利が奪われていくことに対する不満、資本家層が潤うように社会が徐々に制度変更されていっていることに対する不満が大きいようにみえます。
移民問題にしても、移民自体に反対するというより、移民制度によって潤う奴がいる一方で、自分たちは損をさせられていることが問題という見方。
このフランスで起きている変化は、日本にも当てはまるように思います。
低廉な労働力を欲する産業界の要請で外国人単純労働者を受け入れる動きがありますが、それが中間層の没落を招くなら(たぶん招きますが)、そのときには日本人も騒ぐ日がくるかもしれません。
とりあえず、散漫な文章になってしまいましたが、そういった混乱が日本でも将来的に起きかねないことには注意が必要だと思います。
以上です。