MaaS時代に向け自動車メーカーは大規模リストラへ
MaaS(Mobility as a Service)時代における自動車の価値とは・・・
MaaS(Mobility as a Service)という新語があります。
たぶん10年もたてば、そんな言葉あったねって言われるような類の流行り言葉です。
MaaS(Mobility as a Service)の意味としては、「クルマを所有せず、必要な時だけ利用するサービス」といった感じです。
このMaaSが一般的になった社会では、MaaSなんて言葉は使われなくなるでしょう。
いずれ自動車は所有するためのものから、利用するためのものに変わっていきます。
いや、すでに今でも利用するためのものですが、今後は更にその要素が強くなっていくであろう、ということです。
今回はこのMaaS(Mobility as a Service)による自動車産業の変化について考えてみたいと思います。
MaaSが普及すれば所有欲から利便性にシフト、車種は少数化へ
まずMaaSの普及で何が起きるかですが、所有欲から利便性により重点が置かれるようになると思われます。
レンタカーやカーシェアで高いカネ払って高級な車を運転したいと思う人も中にはいるかもしれませんが、大多数は安くて必要十分な車をつかえればいい、と思うと思います。
たとえば荷物を運ぶだけならミニバンで十分とか。
そういう使い方が普及するはず。
ここで大事になるのは、圧倒的な低コスト化を実現することです。
MaaSはEV化と隣り合わせ
おもうに、この低コスト化を実現するために一番重要なのはメンテナンス性だと思います。
カーシェアにしてもレンタカーにしてもそうですが、他人に貸し出すものですから整備が常にしっかりされていることが大切。
今までの内燃機関の自動車はメンテが大変ですが、EV化になれば部品点数も少なくなりますからメンテは楽になるはず。
損耗も時間で凡そ把握できますし、数値的な見通しも立てやすくなります。
MaaS実現のキモであるEVの生産コストは急激に低下中
MaaS実現の重要なポイントであるEVの生産コストですが、これが急激に下がっている可能性があります。
かつては1000万円を超えるような超高額商品だったEVですが、最近では普及価格帯のものも増えてきています。
テスラが昨年7月から生産を開始したモデル3は、約500万円(補助金適用前)という価格ながら航続距離400㎞を超える運転が可能で、加速性能などはEVらしい走行が可能として大人気となりました。
当初こそ生産トラブルで大赤字を垂れ流しましたが、このテスラモデル3は今年3Qには黒字化。
この価格帯でも黒字を出せることを証明して見せました。
イーロン・マスクCEOによれば、
「自動車の生産なんて簡単なもので、スマートフォンを作るのと同じようなもの」
「昔は大きな携帯電話をみんな担いでいたけれど、今じゃ性能も格段に向上したものを手のひらに持っている、そして価格も下がっている」
(以前みたインタビューを記憶をもとに意訳)
という感じのことを言っていましたが、まさにその通りの状況になりつつあります。
テスラのイーロン・マスクCEOの上記発言は、自動車生産に携わる人たちには大いに嘲笑の対象になってきました。
中国の家電メーカーや電池メーカーがEVの生産を開始するときにも、多くの人が批判的でした。
「そんな簡単に作れるわけないだろう。自動車は安全対策などが大変だし、生産技術は非常に高度、簡単にコスト削減できないに決まっている」
と、多くの専門家が言っていました。
現在起きていることは全く逆です。
テスラモデル3は黒字化しましたし、中国のBYDはとっくのとうに黒字化しています。(なおBYDにはバフェットも出資しています)
確かに赤字を垂れ流している企業もいっぱいありますが、その中から生き残った企業が出てきています。
むしろ、内燃機関の自動車よりも遥かに安く製造できるEVが増えてくる可能性があります。
このことには要注意です。
MaaS時代には、所有する喜びなどいらない、道具としての自動車へ~車種削減による低コスト化
最初にも書きましたが、MaaS時代になれば、クルマを所有する喜びから、単に使うためのものに変わっていく・・・という流れがあると思います。
もちろん、一部のマニア向けに工芸品化した高級自動車は売れるでしょうが、多くの人は大量生産の規格品で満足するのではないかと思います。
つまるところ、自動車のニトリ化、ユニクロ化です。
かつては高額な万年筆を愛着をもって使っていた人々が、徐々に使い捨てボールペンを使用するようになっていったのと同じように。
自動車も、使うための道具として、大量に同じものを作ることが求められる時代になってきており、多能工がラインに流れる車種を判断しながら頭を使って働くよりも、同じものを大量に供給する低コスト化が進む可能性があるのではないか、と思います。
MaaS時代に向けた自動車生産工場のリストラ
上記の点を踏まえると、自動車工場はほぼ自動化され、人は製造機械をメンテするためだけにいるので十分ということになります。
そして、大規模なラインを構築できるだけの広い自動車工場だけに集約することが必要ですから、拠点の統廃合も進むでしょう。
MaaS時代には多くのリストラが行われることになり、自動車産業による労働力の吸収を期待できない時代になるのではないか、と思います。
MaaSの時代には、所有する喜びを前面に出してきた大企業が危ない
今後、MaaSが普及するにつれ、上記の展開を辿るはず。
そうした時に一番あぶないのは、大企業でありながら、所有する喜びをアピールしてきた企業だと思います。
製造メーカーではありませんが、一例として挙げられるのは大塚家具です。
超高級品とまでいかず、かといって庶民的な価格でもない中途半端なターゲットを狙っている企業、そこら辺が厳しいのではないかと思われます。
「走る喜び」とか「愛」とか言っちゃってる企業は、コスト競争についていけないのではないか、という感じがします。
創業者出身の社長が従業員を家族扱いしすぎて、リストラが遅れた企業は厳しい展開になるのではないか、という気がします。
どこの会社とは言いませんが、ちょっと気になっています。
MaaS時代には、現在の勝ち組企業が負け組になる可能性、また新興企業が上位に躍り出てくる可能性があります。
この点については非常に注意しておくべきと思います。
大企業であっても、たとえばGMやVWはここもと大規模なリストラを発表しています。
フォルクスワーゲンはエムデンとハノーヴァー工場の人員を7000人減らして2/3の規模に縮小。
GMは7工場を閉鎖して14000人あまりを削減するとのことです。
これらのリストラの目的は、生産拠点を集約化し、生産ラインを統合し、生産車種を絞り込み、従業員を減らし、生産効率を引き上げるということ。
EV化、MaaS社会に向けて、海外の大企業はリストラを敢行しはじめています。
日本企業をみていると、どうもその動きが遅いのが気になります。
かつての日本の産業の花形、電機産業などをみているかのようです。
労働貴族化したサラリーマンが多くなり過ぎている可能性があります。
日本の自動車株は確かにバリュエーションは安いですが、ちゃんとリストラできる体制をとっているかどうか、そこを見ていく必要があります。
経営トップが従業員のことばかりみているようなところは危険です。
注意しておいた方がいいです。
以上。